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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百六十八話 稲生の戦い

「では、お願いします」


 私と小六さんと、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんは姿勢を正して、孫四郎の次の言葉を待ちます。


「カツトシさんが、明智に行くのと同じ頃、三郎様の弟の勘十郎様が攻めてきました」


 やはり、義龍と勘十郎さんは、何か密約をしていたみたいですね。

 結果、明智城は落城しました。


「まさか、三郎も負けたのですか」


 わたくしは急に不安になって聞きました。


「カツトシさんはせっかちだなぁ。これからその説明をしますので、順番に聞いて下さい!」


「はい」


 孫四郎にしかられてしまいました。


「三郎様は、明智様からの使者を迎えると、すぐに名塚に砦を築きました。カツトシさんが明智に向かった次の日、末盛城から勘十郎様の軍が出陣しました。将は林様と権六様です。林様は兵700人、権六様は兵1000人です。でも権六様は末盛の貧困層から集められた足軽ばかりでした。ここに勘十郎様の姿はありませんでした」


 三郎は、戦にはみずから参加します。

 でも末盛の勘十郎様は清洲織田家とおなじで、当主はいくさに参加しないようです。


「あの、林様とはどのような方ですか」


「ああ、カツトシさんに説明してもわからないと思いますが、林美作守通具様、家老林秀貞様の弟です」


「うふふ、聞いて損をしました」


「それは、こっちのセリフです。続けますよ。その林様は、700人の末盛の精鋭を率いていました。対する三郎様は、300人のヤリ兵と100人の馬廻り衆です。名塚砦の少し東側稲生の地で対峙しました。1700人対400人が向かい合うと圧倒的に三郎様が貧弱です。ですが、攻めて来る事をあらかじめ察知していますので、準備をしていました」


 孫四郎は床に、わたくしのさっき白湯を飲んでいた湯飲みを置きました。

 おそらく、これが三郎隊ということなのでしょう。

 わたくしは稲生の緑広がる草地を想像しました。

 風に揺れる緑の草、緑の香り、そこに整列する400人の兵士を思い浮かべました。


 わたくしの湯飲みの前に、少し間隔をあけて孫四郎と藤吉郎の湯飲みをおきます。

 これが、末盛の林隊と権六隊と言う事なのでしょう。

 林隊700人、権六隊1000人が整列する姿を想像します。

 旗がはためき、武具が揺れて出すガチャガチャという音が聞こえてくるようです。

 孫四郎は、わたくしの湯飲みの前に手ぬぐいを折りたたんだものを置いてから話を続けます。


「三郎様はこのように、頑丈な馬防柵を作りました。馬防柵の内側に長いヤリを持った槍隊を配置し、林様と権六様の兵を迎え撃つ構えです。林様は『三郎様ー! 清洲では兵が集らなかったようですなあ。まさか、明智に援軍でも送ったのですか? ひゃはははは!』そう言って高笑いです」


 なるほど折りたたんだ手ぬぐいは、馬防柵のつもりのようです。

 説明の途中で、藤吉郎が板をもって、わたくしの湯飲みの後ろに立てたまま持っています。

 これはそういう板がはりめぐらされていたということなのでしょう。

 孫四郎は藤吉郎の板をチラリと見て、話を続けます。


「『いきますぞ!!』林様の声の後、全軍が襲いかかります。1700人対400人、末盛の兵は勝ち誇って突進してきました。敵を十分引きつけると三郎様は言いました。『よし、もういいだろう。槍隊はいったん引けー!!』その言葉を聞くと権六様は、突っ込んでいた足軽達に『ひけー!! ひけー!!』あわてて下知しました。権六様はさすがですね。一瞬で判断して一目散に兵を下げました。でも林様はそのまま攻めてきます」


 その瞬間、藤吉郎は持っていた板をパタンと倒しました。

 倒れた板の後ろに、小六さんの湯飲みを置きます。


「ヤリ隊の後ろには、板が張り巡らされていたのですが『大声たーい! 出番だー!!』三郎様の声がかかると、板がけり倒されました。中には大声隊、つまり鉄砲隊が300人隠れていました」


 小六さんの湯飲みは大声隊だったのですね。

 尾張では、他家に知られないようにするため、鉄砲隊は大声隊といいます。

 三郎は、結局いつもの精鋭700人で来ていたようです。


「『手はず通り、大声をだせ!!』三郎様が言うと、最初の50人が発砲します」


 そう言えば、なんとかの戦いで、信長が三段撃ちというのをやったと聞いた事がありますが、こっちの三郎信長は村木砦の戦いから、鉄砲隊は連続攻撃出来ないと致命的だと学んでいます。

 村木砦のたたかいでは、堀を上りながらの戦いで「鉄砲の援護射撃で襲いかかればすぐに落とせるだろうと、たかをくくって戦った」と、三郎から教えてもらいました。


 その時、鉄砲を発砲すると敵はひるみますが、弾を込めるのに時間がかかり、その間に堀を上ろうとする兵が攻撃されて、多大な被害を出したと聞きました。

 そこで、考え出されたのが、鉄砲隊を小分けして連続で発砲するという方法です。


「50人の鉄砲ですが、一度に発砲されるとものすごい音です。『うわああぁぁー!!』林隊から驚きの声が上がり、動きを止めました。『ばか者、ひるむなー!! 鉄砲などは一発撃ったら次の攻撃までは時間がかかる!! その間に柵を壊すのだー!!』林様が叫びます。三郎様の鉄砲隊は水平に真っ直ぐ撃てるように訓練されています。五十発の至近距離の攻撃は、甲冑を貫きます。すでに50人が倒れています。続けて50人が発砲、さらに続けて50人、さらに50人と連続で攻撃しました。300人が撃ち終わったら、300人近くが倒れています。そのころには、最初の50人が撃てるようになりました。轟音が響き渡りました。『うわああぁぁー、だめだーー!! いつまでたっても攻撃がおわらねえ!! にげろー!! にげろー!!』とうとう、林様の兵が恐慌状態です」


 三郎の鉄砲隊は、いちいち狙いません。

 敵の前に整列すると、真っ直ぐに発砲します。

 その方が、敵が密集しているときは当たりますし、早いです。

 ねらって撃てば、同じ人間に数人の弾丸が当たって、弾が無駄になることもありますからね。


「銃声が止まった時には、林隊は600人以上が倒れたままでした。『ひけー! 末盛城まで撤退だー』林隊は動ける兵100人が逃げだしました。この時すでに林様は戦死していました。権六様は馬の上でこちらを見つめて止まっています。権六様の足軽隊は、判断が早く下がったので、三郎様が狙わなかったこともあいまって、1000人がほぼ無傷です。『権六これはお前の策か? おかげで尾張の兵が大勢死んだわ! だが、おみゃあの狙い通りカツトシは参加できなかったがや。見事じゃ!』」


 三郎は義龍の明智城攻めに合わせて攻めることを進言したのは、権六さんだと思っていたようですね。

 まあ、権六さんはわたくしの弟子なので、師匠のわたくしとは戦いたくなかったのでしょう。


「『足軽達よ、末盛の城に戻ったら、腹一杯メシを食わせてもらえー!! いつもお前達の重税で贅沢をしているんだ。こんな時ぐらい、腹一杯メシを食わせてもらえ。食わせてもらえなければ、大声をだせ!! 正規兵がいない今なら何でも言うことをきくはずだー! ひゃははは!』三郎さんが言い終わると、権六さんは『全軍撤退だ。我が軍の負けだ。したがって、那古屋での乱取りは無しじゃ。そのかわり城に帰ったら握り飯を食べたいだけ食べさせてやる。それで勘弁してくれ』そういって、三郎様に頭を下げると末盛城へ帰って行きました。この時の、末盛の正規兵の死者は450人を超えていました。負傷者を合わせれば末盛の正規兵はほぼ全滅状態でした。『カツトシがいれば、死者は1人も出さずにすんだはずなのにのう』三郎様は悲しそうにいいました。末盛軍は再起不能と言って良いほどの大損害です。こうして末盛軍は籠城戦をするため城に立てこもりました」

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