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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百六十六話 再会

「やかましい!! だまらねえと、この娘を殺すぞ!! ばかやろう!」


「おやぶん、顔はだめだ!! 腫れたら楽しめねえ!!」


「ふん! そうか!」


「ふぐっ! ううぅぅっ! かつとし、お願いたすけて!」


 腹でも叩いたのでしょうか。

 おキツ様の声が小さく弱くなりました。


「やっと、静かになったか!」


「へへへ」


 山は人の手が入っていないため、草がやりたい放題自由に伸びています。

 こんな所を女の身で必死に逃げてきたのですね。

 明かりも使えず、真っ暗な中、不安や恐怖に耐え抜いて。

 その上使用人まで連れて、大変だったでしょう。

 そんな、かわいそうな女性達に、何てひどい仕打ちを。


「おめー達は、そっちの娘で楽しみな! こっちは俺様が楽しんでからだ」


「そ、それでは、約束が違います。その子はまだ子供です。助けてください。ごしょうです。お願いしますぅううっうぅぅぅっ……」


「……」


 子分達が、おキツ様の悲痛な声を聞いて動きを止めたみたいです。


「ばかやろう! さっさとやらねえか!!」




「そこまでだ!!」


 私はやっと、おキツ様の顔が見えるところまで来ました。

 松明の弱い光でも、おキツ様は輝くほどに美しいです。

 この世で四番目に美しいです。


 振り返ると、まわりにはわたくしの味方は誰もいません。

 良く見ると、太い木の幹からにゅっと手が出て親指だけ立っています。

 5本の右腕が出ています。

 ふふっ、ダニーさんとズラーさんも間に合ったみたいです。

 でも、ここはわたくしに譲ってくれるみたいです。


「ま、ま、まさ、まさか!?」


 おキツ様の震える声です。


「な、なんだ、きさまは? たった1人で出てきやあがってばかなのか?」


「ぐあっ!!」


 おキツ様を押さえつけていた子分の1人が倒れました。

 十兵衛さんが鉄砲で撃ったのです。

 本当に百発百中ですね。

 ゴロツキ達が銃声にひるんでいるすきに、わたくしは可哀想な娘さんを押さえつける男達を噴き飛ばし、おキツ様を押さえつける男を殴り付けました。


「おキツ様! そんなにしがみついたら動けません!」


 おキツ様が信じられない位の強い力でしがみついています。

 良く見たら親分でした。

 親分はおそろしい顔をして歯を食い縛り全力でわたくしの体にしがみついています。その親分と目が合いました。

 真っ黒なヒゲをたくわえた悪人顔でニヤリとわらいます。


「ばかが! 捕まえたぞ! ぶちころせー!!」


「……!?」


 わたくしは無言で両手を広げます。

 わたくしの力は小指の紋章のマモリで、強くなっています。


「なっ!?」


 親分が腕を振りほどかれて驚いています。

 馬鹿力には自信があったようです。


「ごあああぁぁぁー!!」


 わたくしは、親分の腹にきつめの1発をお見舞いしました。


「くそーっ!!」

「おりゃあぁ!!」


 子分が2人、わたくしの頭を木の棒でたたきました。

 木の棒が折れるほどの強さです。

 普通の人なら死ぬ程の強さです。


「なっ!?」


 殴った子分が驚きます。


「ふふふ、痛くもかゆくもありませんね」


 わたくしは痛がる様子も見せずに二人をにらみ付けて、ひるんだところで腹に拳をぶつけました。


「あががが!!」


 2人の子分はヒザからくずれおちて、動かなくなりました。


「がっ!」

「ぐえっ!」

「うぎゃあぁぁー!」


 とうとう、我慢が出来なくなったのか、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんが子分達を次々噴き飛ばします。

 派手にゴロツキ達の体が宙に舞います。


「ほんとうに、ほんとうに、カツトシですか?」


「うふふ、カツトシです」


「あなたは、こんなに強かったのですね」


「おキツ様の護衛係ですから、あたり前のことですわ」


「ふぐっ」


 おキツ様の目から涙が玉になって落ちました。

 そして、さっきの親分ぐらいの力で抱きついてくれました。

 おキツ様がわたくしの胸で子供のように泣いています。

 思わずわたくしの目からも涙が落ちます。

 心が震えるほど、うれしさで一杯です。




「だめだー! 重すぎて持ち上がらねえ!!」


 小六さんが荷物を持ち上げようとしましたが持ち上がらないようです。

 小六さんもたくましい体の男性ですが、重すぎるようです。


「しょうがねえズラなあ」


 ズラーさんが駆けつけると、軽々と持ち上げます。

 それを小六さんが目をパチクリして見つめます。


「みんなー!! もう大丈夫でーす!!」


 茂みに向かって、明るい声でおキツ様が言いました。

 茂みから、女性達がゾロゾロ出て来ました。

 10人ほどいます。

 追っ手がいることに気が付いて、必死で逃げていたのでしょうけど、ここであきらめて、茂みにかくれたのでしょう。


 二歳くらいの子供までいます。

 頭の良さそうな、整った顔をしています。

 その目がデェスちゃんの手に持つ松明のあかりを反射して、オレンジ色にユラユラゆれます。

 こんな、暗闇の中で泣き声も出さず静かに耐えていたのでしょう。

 たいした子供です。


「さあ、すぐに食事の準備をするからな」


 小六さんが食事の準備を始めました。


「のどが乾いたでしょう。苦労をしましたね。もう安心です」


 十兵衛さんが、女性達と子供に優しく声をかけて水を渡しています。

 女性達は水の入った碗をもらうと一心不乱に飲みます。

 落城から、ずっと飲まず食わずだったのでしょう。

 戦国の世では、落城などはそこら中で起きているのでしょうけど、負けた側は悲惨なものです。


「夫は城を守るため戦死しました。私は小折へ帰りたいです」


 おキツ様が少しずつ水を飲みながら、十兵衛さんを見つめて言いました。

 十兵衛さんとは面識があるみたいです。


「ふふふ、私は明智の家督を相続するはずだった者です。ですので、今は臨時の明智城、城主です。その私が許可を致しましょう」


 ええっ!?

 十兵衛さんってそんなに偉い人だったの?

 明智城がそのままなら、殿様だったってことのようです。

 明智十兵衛?

 聞いた事がありません。

 ど田舎の無名の殿様のようですね。


 せっかく、戦国の世に来たのですから、1人くらい全国的に有名な人に会ってみたいものです。

 残念ながら、まだ1人も会えていません。


「よし、出来たぞ! 味噌がゆじゃ! お供にウメボシも食べるとうまいぞ!」


 鍋奉行の小六さんがうれしそうに言いました。

 渡されたお椀から、お味噌の良い香りがします。

 火を囲み全員が座って、かゆをすすりはじめました。

 安心したためか、全員の目から涙がこぼれ落ちます。


 良く見ると、みすぼらしい身なりの女性ばかりですが、むねに綺麗な短刀がチラチラ見えています。

 あれは、ここまでよく務めてくれたと御褒美でもらったものではありませんね。

 いよいよ最期の時、苦しまないように持たされた物のようです。


「おお、十兵衛様ここでしたか」


「おかしらー!!」


 たき火をしているので、真っ暗な山でははるか遠くからでも見えます。

 十兵衛さんの近習が来ました。

 少し、臭い人がいます。

 便所に隠れていた人がまじっているようです。


 そして、小六さんの手下も集ってきたようです。




 翌朝、日が出るのを待って、全員で犬山を目指します。


「な、何者じゃ?」


 山を全部越え犬山に着いたのは夕方でした。

 ぞろぞろ、山から出て来た私達を見つけて、犬山の兵士が集ります。


「私は、生駒家のキツノです。この者達は生駒家の者です」


「なに!?」


「おおっ! 美しい! 間違いない! おキツ様じゃ! そうか明智から……難儀をされたのう」


 兵士は美しいと言いながら、胸しか見ていません。

 でも、おキツ様は有名人ですね。

 顔パスです。


「あの、今から小折へは無理です。どこか休むところをお借りしたいのですが」


「ふむ、しばし待たれよ」


 犬山の兵士は丁寧な対応をしてくれます。

 まあ、犬山織田家は岩倉織田家の配下です。

 そして、生駒家はその犬山の所属なのですから当たり前です。


「おう、またせたな。寺の軒先を借りた。そこなら全員休めるだろう」


「ありがとうございます」


 おキツ様が言うと、まわりを囲む兵士達の頬が赤くなりました。

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