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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百六十二話 緊急事態

「だあぁぁーーああぁぁーーははっはっ!! バカめ何が助けに来ただ! たった4人ではないか!」


 馬に乗った美濃の将が、大きな口を天に向けて笑いました。

 私達は4人でゆっくり、集落をおおうほどの敵兵に向かって歩きだしました。


「ぜー、ぜー、しょ、正気なのか?」

「はあぁー、はぁー、たった4人で、何千人もの敵兵に向かって行くぞ! ばかじゃないのか?」


 十兵衛さんの連れて来た家臣が、息を切らしたまま里山の木にもたれながら言いました。


「ひっひっひっ」


 私達の正面のボロを着た足軽達が、笑いながら私達の前に集って来ます。少し不気味です。

 わたくしは集落に続く街道を、分厚く集りだしたボロを着た足軽達に向かって4人で並んで歩きます。

 街道は舗装されていません、歩く度にザリッザリッと音がします。

 風が吹くと砂ボコリが体にあたり、砂ボコリのにおいがします。


「三郎様! カツトシさんです!」


 孫四郎が大きな声で言いました。


「おお! 間にあったか!」


 孫四郎と藤吉郎の肩をかりながら、ヨロヨロと三郎が集落から出て来ました。

 腹にさらしを巻いています。

 そのさらしに血がにじんでいます。

 深手を負ったみたいです。


「さぁーぶぅーろぉぉー!! だいじょぉーぶでーすかー?」


 わたくしは足を止めないまま、三郎が心配で声をかけました。


「ギリギリだいじょうぶだー! それより、美濃の足軽はころすなー、狙うのは兜首だけだー!!」


 出ましたいつもの三郎節です。「美濃の足軽は、全部わしの兵だ!」ということなのでしょう。

 その言葉を聞くと、美濃の足軽が手に持った武器を投げ捨てました。


「ば、ばかもん!! お前達は殺していいんだ! 武器を拾い皆殺しにしろー!」


 馬の上の将が言いました。

 ボロを着た美濃の足軽達に武器を拾う気配はありません。


「うひひっ! ダニーさーん!」

「ズラーさん!」

「デェスさぁーん!」

「行きますよー!」

「うわぁー、なつかしぃー、ガキの頃を思い出すー」


「おおう! 来るダニ!」

「来るズラー!」

「かかってこい! デェース!」


 尾張の長槍の3人がうれしそうに言いながら走り出します。

 美濃の足軽は、急きょ集った足軽達なので弓隊はいないようです。

 おかげで矢の雨は無さそうです。


「うおおおおぉぉぉぉー!」


 わたくしたち4人が走り出すと、美濃のボロを着た足軽達も走り出しました。

 でも、手には武器を持っていません。


「うぎゃああぁぁぁぁー!! うひひひー!」


 ダニーさん達とぶつかった、美濃のボロを着た足軽達が吹き飛びます。

 吹き飛んで悲鳴を上げましたが、そのあと笑っています。

 本当にうれしそうです。気持ちが悪いです。


「ぎゃああぁぁーー! ふぁはぁーー!」

「ぐえぇぇー!! ひゃっはっあぁぁー!! なつかしぃー!!」


 美濃のボロを着た足軽達は、本当にうれしそうに笑顔で吹き飛びます。

 わたくしには、3人衆のような馬鹿力はありませんので、噴き飛ばさず、あごの先をトントンとまるで印鑑を押すように突いていきます。


「す、すげー! たった4人で、あっという間にすき間が出来た!」


 十兵衛さん達が、里山から目をまん丸にしてこちらを見ています。


「カツトシがやってくれた! 全員、つっこめー! きゃーるぞー!!」


 三郎が叫びます。


「おおう!!」


 三郎の近習700人が走り出しました。

 良く見ると、何人かのケガ人が背中におぶさっています。

 犠牲者もゼロではなさそうです。

 三郎は、素早く駆け寄ったズラーさんに抱きかかえられました。

 間一髪だったようですね。


 鍛え抜かれた700人の突破力は凄まじいものです。

 あっという間に美濃兵の囲みを一点突破しました。


「ふふふ、本当になつかしい。ガキの頃を思い出す」


 藤吉郎がズラーさんの横を走りながら、戦うダニーさんを見つめます。


「このまま、街道を進んで下さい。川の手前に明智軍500人がいます。友軍です」


「おおっ! 十兵衛が来ているのか!」


 三郎がニヤリと笑いました。


「くっそー! お前達は何をしている!」


 美濃の将が歯ぎしりをしながら言いました。


「ひひひっ! じゃあ、あんたが戦ってみろよ! あの濃尾の怪物と!」


 ボロを着た足軽達が言いました。


「ぐぬぬ! くそっ! 逃がすなー!! 追えーっ!!」


 馬の背の将は言い返せないまま、人差し指をわたくし達に向けて、追いかけるよう指示しました。




 川に着くと、明智隊が鉄砲を構えています。

 火薬の燃えるにおいが、あたりに充満しています。


「たわけーー!! 鉄砲は撃つなー!! 美濃の足軽は殺すなー!!」


 三郎が吠えました。


「な、なんと!! 『美濃の足軽を殺すな』ですと!」


 十兵衛さんの家臣から声が聞こえます。


「にしし」


 藤吉郎がうれしそうに笑います。

 ですよね。

 美濃のボロを着た足軽は、藤吉郎の子分ですからね。


「す、すげーんだ! あの4人は! と、とにかくすげーんだ!!」


 十兵衛さんに同行していた近習が、仲間にわたくし達の事を説明しようとしていますが、うまくいかないみたいです。


「全員、船に乗り撤退せよ! この戦は失敗じゃー!! 感情のまま準備も整えずいくさをしたわしの失敗じゃー! わしが責任をとり、しんがりを務める! 全軍撤退じゃー! こっ、こら! カツトシ! おみゃーは手伝え!」


 わたくしも、船に乗ろうとしましたが、素早くそれを見つけた三郎に引き留められました。


「しかたがないですわね! ダニーさんとズラーさんとデェスちゃん、もうひと働きしましょうか。ヤレヤレですわ」


「ふひひっ、まだまだ暴れ足りない所だったダニ」


 ダニーさんがうれしそうに言うと、ズラーさんとデェスちゃんが素早く何度もうなずきます。


「いきますわよ!」


「おおっ!!」


 追っ手に向かって、わたくし4人が突っ込みます。

 三郎は、明智軍の鉄砲を天に向けて撃たせました。

 鉄砲の轟音が響きます。

 美濃兵はひるんで、足が止まりました。


「よし、全員乗ったみたゃぁーだな。わしらもきゃーるか」


 三郎と十兵衛さんとわたくしは、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんの背中に乗って川を進みます。

 さすがは、水中ならオーガより強いというカルッパン族です。

 岸には全ての船を抜き、一番で着きました。


 岸に着くと、十兵衛さんは明智城に向かって帰りました。

 三郎は清洲です。

 わたくしは小折です。

 ここで別れて帰路につきました。

 この三郎のいくさは、足軽の犠牲者が極端に少ない、いくさとなりました。






 わたくしは、清洲城の城下町にある十田道場の、お屋敷でお秀ちゃんと久しぶりに会っています。

 三郎が、那古屋の道場と同じような物を清洲にも作ってくれました。

 ドウサンさんの援軍に行った戦い、長良川の戦いと言いますが、その戦いからはすでに数ヶ月がたっています。

 その間、お秀ちゃんに会えていませんでしたので、会いたいと再三の催促がありましたので来ています。


 今日は天気がいいので、門下生は全員外で鍛錬中です。

 その風景を縁側で、お秀ちゃんを膝に乗せて見つめています。

 全員大胸筋が発達し、腹筋は6つにわかれています。

 汗をかいた肌が太陽を反射してキラキラ輝きます。

 そして、汗の匂いがただよいます。男臭いです。

 孫四郎も藤吉郎もまじって鍛錬しています。


「兄上様から聞きました。美濃の兵を殺さず、何千人も相手にして戦われたと聞きました」


 上目遣いでわたくしを見る幼さの残るお秀ちゃんの顔は、もう可愛すぎるぐらいかわいいです。


「うふふ、すごいのはダニーさんとズラーさんとデェスちゃんです。わたくしなどは非力で、3人の足元にも及びませんわ」


「くすっ! でも、死んだように倒れて動けない兵士はカツトシ様が一番多かったとうかがいました。やっぱり、一番すごいのはカツトシ様ですわ。ずずっ」


 お秀ちゃんがわたくしの口調を真似ながら言って、お茶を一口すすりました。

 それ、わたくしが口を付けたお茶ですけど。


「きゃー!!」


 後ろで、三郎の血縁のお女中の黄色い声がしました。

 やれやれですわ。


「緊急事態じゃ!!」


 三郎が門を入るなり、雷のような声で言いました。

 その顔に少し焦りの色が見えます。

 何があったのでしょうか?

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