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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百六十話 清洲城陥落

「カツトシー!!」


 わたくしのお屋敷に三郎が来たみたいです。

 相変わらず落雷のように大きな声です。

 最近わたくしは、このお屋敷と小折城の我が家で、半々ぐらいで生活しています。


「兄上様、やかましいです」


 対応したのはお秀ちゃんです。


「おおっ! お秀、カツトシは来ておるのか?」


「はい、激しい鍛錬が終わって、休んでおられます。わらわが頭をなでてさしあげましたら、赤ん坊のように眠ってしまいました。かわいいものです」


 まあ、いまは三郎の声で目を覚ましていますけど、ひとまず眠ったふりをしておきます。


「そうか、まあ今日は藤吉郎に礼を言うのが先だ、しばらく寝かせておいてやれ。それと、女中達に着物を持って来た。お古だが上等な物ばかりだ、気に入った物があれば使ってくれ。ああ、わしは朝目が覚めてから、バタバタして食事をしておらん。何か食べさせてくれ」


「はい」


 お秀ちゃんが、台所に向かった足音が聞こえます。


「おう、藤吉郎いたか」


 わたくしの眠っている横の部屋には、藤吉郎と孫四郎と、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんがいます。

 ふすまを開けて声を掛けると、三郎はそのまま部屋に入り、ドカッとすわったようです。


「……」


 全員無言ですが、頭を下げた着物の音がしました。


「おみゃあの、策略がはまったようじゃ。とうとう清洲が動いた」


「なんのことで、ございましょうか?」


 藤吉郎が、とぼけているのか、本当にわからないのか、質問でかえしました。


「お待たせしました」


 お秀ちゃんと、他の女中さんが膳を運んでいるようです。

 焼き魚の香りがします。

 ああ、わたくしもおなかがすきました。

 起きて食べに行きましょうか。

 でもせっかく、お布団を掛けていただいたばかりだし、もう少し横になっていましょうか。まよいます。


「ふふ、清洲は、何度か那古屋を攻めようとしたらしいが、足軽が集まらなかったらしい。どうも、どこぞのガキ大将が清洲に手を貸さないように言って回ったらしい」


「そ、そうですか」


 藤吉郎が、ばつが悪そうにいいました。

 どこぞのガキ大将なら、吉法師か藤吉郎しかいません。

 もう、ばれていますね。


「くひっ」


 孫四郎とダニーさんとズラーさんとデェスちゃんが、吹き出しているようです。

 この、4人も気が付いたみたいです。


「清洲城では足軽が集らない事に恐怖した重臣達が逃亡、すでに内部からの崩壊がはじまったようじゃ。ふふふ、戦をせずとも敵を弱らせるとは、恐ろしい事をするものじゃのう」


 そう言うと、バキバキ魚の骨を砕く音がします。

 魚を骨ごと食べているようです。


「……」


 孫四郎が、無言で藤吉郎を見たのでしょうか。

 着物のこすれる音がしました。


「あね様は、すごい胸じゃのう」


 わたくしの寝ているまくらもとで、お秀ちゃんの声がします。

 なにか、甘い良い香りもしてきました。

 香り袋の香りでしょうか。


「お秀様は顔立ちが美しいので、大きくなればこんな物はひつようありませんわ」


「そうかのう。カツトシ様は小さい方と大きい方ではどっちが好みかのう」


 や、やばいです。

 わたくしのお布団のまわりで、ファッションショウが始まったようです。

 全員、裸になって着物を着たり脱いだりしているようです。

 わたくしは、眠ったふりをしていますので、目を閉じていますが衣擦れの音が聞こえてきます。


 ――あっ! そういえば、なにも問題ありませんでした。


 忘れるところでした。

 わたくしは女性でした。


「清洲は、守山の叔父上に同盟を持ちかけ、守山と清洲でわしを倒すつもりじゃ」


「なっ!?」


 藤吉郎が、驚きの声を上げました。

 そうですね。

 那古屋がふたたびピンチです。

 守山の叔父上とは、たしか守山城、城主織田信光様だったでしょうか。

 数々の戦争で、三郎と一緒に戦ったお方です。

 戦上手なお方です。


「ふひひ! 藤吉郎! 何を驚いておるのじゃ。守山の叔父上が、清洲に手を貸すわけがなかろう。落ち目の守護代に手を貸すような、おろかな男なら、この戦国の世で生きていけるものか。叔父上は同盟に乗る振りをして清洲城に潜り込むつもりじゃ。叔父上が清洲城に入れば、清洲を落とす戦いがはじまる。藤吉郎! 信頼出来る子分を清洲の足軽として潜り込ませよ」


「はっ!」


「まあ、こういう地味な仕事は評価されないがのう」


「ふふふ」


 藤吉郎の、低い不気味な笑い声が聞こえます。

 藤吉郎はそれで十分満足なようです。

 まあ、三郎に知っていてもらえればいいですよね。

 きっと、顔でわらって、目だけは笑わずランランと輝いているはずです。


「カツトシー!!」


 突然、三郎がわたくしの眠る部屋のふすまを開け放ちました。


「きゃあぁぁーー!!」


 悲鳴があがりました。

 枕元の綺麗な女中さん達が全員裸ですからね。


「おおっ! 失礼!!」


 そう言うと三郎はばつが悪そうにふすまを閉めました。


「くくく」


 わたくしは、それがおかしくて笑い出しました。


「カツトシ!! 1人だけええおもいをしとらんとこっちへ来い!」


「ああ、安心して下さい。わたくしは何も見ていません」


 わたくしは硬く目を閉じて、女中さんの方に顔を向けて言いました。


「あら、カツトシ様なら、見ていただいても構いませんよ」


「えっ!?」


 わたくしは目を固く閉じたまま、三郎達のいる部屋の方を向いて目を開けて、ふすまを少しだけ開けました。

 冷たい汗が背中を流れ落ちました。

 開いたふすまの隙間から、藤吉郎と孫四郎の顔が見えます。

 あきらかにのぞこうとしています。


「こら! 藤吉郎! 孫四郎! のぞいてはいけません。三郎、おはよう!」


「カツトシ、美濃でおやじ殿が隠居した。名を道三と改めた。美濃にも大きな動きがあるかもしれん」


「サイトウさんが隠居、ドウさん?」


 サイトウさんが、サイトウさんドウさんさんになったようです。

 ややこしいですわ。


「おまたせしました」


 お秀ちゃんが、わたくしにも膳を運んでくれました。

 ふふ、そして当然の様に、わたくしのヒザの上にすわると、わたくしより沢山美味しそうに料理を食べています。


「カツトシ! 軍議をする那古屋城へ行くぞ! 孫四郎も藤吉郎も来い! ダニー、ズラー、デェスもな!! だが、決して軍議の間には入るでないぞ!!」


 わたくしとお秀ちゃんの食事が終わるのを待ってから、三郎は言いました。


「はーーい!!」


 全員で手を上げていいました。

 三郎の顔にカゲが入り、あきらかに落胆しているのがわかります。


「おい! 権六!! おみゃあもまぁーしして来い!! 那古屋城で軍議をする!!」


 三郎はお屋敷を出ると、外で汗を流す権六さんにも言いました。




「これは、三郎様、権六様! チッ!!」


 那古屋城の門をくぐると、身なりの整った人がいました。

 足軽ではないようです。

 三郎と権六さんには愛想良く、深く頭を下げましたが、わたくし達には舌打ちと蔑むような目でお出迎えです。


「あいつは、嫌な奴なんだ。拾阿弥っていうんだ。同朋衆っていうのさ」


 孫四郎が小さな声で教えてくれました。


「これ拾阿弥! 失礼の無いようにいたせ!!」


「はい」


 権六さんがたしなめてくれました。

 でも、その目は納得していないみたいです。

 権六さんにしかられて、逆恨みをしているようにも見えます。

 恐ろしいですわ。

 きっと、身分が高い人なのでしょう。

 わたくし達、汚い足軽がお嫌いなのでしょうね。


 軍議はとどこおりなく行なわれ、当然さいごは孫四郎とわたくしが軍議の間の地図の横に座っていました。


 その数ヶ月後、三郎は清洲城を攻めました。

 城内にいた、織田信光様と藤吉郎の手下のおかげで、清洲城は無血開城されました。

 ほぼ無傷で手にはいったのです。


 三郎の言ったとおり、無傷の清洲城が手に入り、これで尾張南郡が織田一郎信長のものになりました。

 尾張の半分が、三郎の所属する、織田弾正忠家織田一郎信長のものになったのです。


 これで、尾張北郡の守護代、岩倉織田家と敵対することになるのでしょう。

 わたくしは、岩倉織田家の配下、生駒家所属の足軽なので、三郎とは敵対関係になるのかもしれません。

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