第二百五十九話 新しい門弟
「うおおおおぉぉぉぉーー!!」
「かっこええぇー!!」
「ししょうー!! 最高にかっこええー!! あこがれちまうぜー!!」
「見ろよ! 倒れている足軽は師匠の足元が一番多い!」
「まさか、これほどとは思いませんでしたー!! さいこーでーす!!」
しばらく、間をおいて地鳴りの様な歓声が上がりました。
うふふ、全部マモリ様のおかげです。マモリ様には、感謝しかありません。
今日来ている、200人の那古屋の兵士は、わたくしの道場で顔を見た子達ばかりなので、みんなわたくしの教え子です。
大声で何かをわめきながら、興奮しているのでしょうか、全員が上半身をはだけました。
全員驚くほど筋肉が発達しています。
大胸筋はパンパンではち切れそうです。
腹筋が六つに別れていない子は1人もいません。
毎日、朝からヤリを振り、ダニーさん達と相撲をとっていればそうなりますよね。
権六さんが、わたくしの門弟達を見て驚いた表情をして、自分の腹を見ました。まあ、立派な甲冑を付けていますので見えはしないとおもいますが。
長く贅沢な暮しをして、体を鍛えていなかったのでしょうか、さみしそうな表情をして元気がなくなりました。
きっと、贅肉で腹が出て、大胸筋はたるんでいるのでしょう。
末盛の兵も権六さんと同じでした。
全員が、ムキムキマッチョな那古屋の兵を見て、硬直しています。
きっと、まったく鍛えていないのでしょうね。
一人前なのは綺麗な着物と、綺麗な甲冑を装備することだけのようです。
「おまえたちー!! 早く手柄を上げなさーい!! まったくもう!!」
「ぎゃははーー」
弟子達が笑いながら走り出します。
「おばかー!! ここは戦場ですよ!! 笑っている場合ですかー!! 真面目にやりなさーい!!」
「ぐわああぁぁはっはっはっ!!」
わたくしが叫んだら全員がよけいに笑います。
「俺達の師匠は、最強で最高にかっこええんじゃが、話し方がどうにも女みたいなんだよな」
「ぎゃははは、ちげーねーー!!」
「わあぁぁぁーはっはっはっ!!」
な、なんですってー!!
ま、まあ、女子高生ですからね。
しょ、しょうがありませんわ。
「ぶっ!!」
藤吉郎と孫四郎まで吹き出しました。
となりで三郎が腹を抱えて、涙を流しながら爆笑しています。
お前達までそう思っていたのですかー!!
「狙うのは、贅沢な服を着ている重臣だけだー!!」
「おおうっ!! 足軽は殺すなー!!」
弟子達が口々に言いながら、パニックで混乱している清洲兵の中に飛び込みました。
「うわああぁぁー!! あ、足軽共! 何をしている!! 俺達を守るんだー!!」
清洲の重臣達が、足軽を押しのけて我先に逃げ出します。
足軽の中には、けなげにも逃げる重臣を守ろうとする者もまだまだいます。
「わが名は、藤吉郎なりー!! 尾張、美濃のガキ大将じゃー!! わしの子分達は、全員逃げよ!! 清洲の織田家は、謀反人じゃ!! 大罪人じゃー!! 味方をすることは許さーん!!」
藤吉郎がほっかむりの手ぬぐいをとり、大声を出しました。
しかし、三郎といい、藤吉郎といい、声が凄まじくでかいです。
ジェット機の騒音のように大きな声でした。
「な、なんだって! 大罪人!!」
「わしらは、大罪人の味方をしていたのか!!」
「うそだろ!!」
「ばかやろー!! 藤吉郎さんが言うんだ本当に決まっている!」
清洲の重臣を守ろうとしていた、足軽達が重臣の顔を見ました。
事情も知らないで、いくさに参加していた人が多いようです。
「ば、ばかもん!! て、てきの言う事を信じる奴があるか!」
重臣があせっています。
「いや、藤吉郎さんの言う事が正しいぜ。この戦は那古屋の大義の戦いじゃ。お前達も、三郎、いや、俺達の大将吉法師さんの味方をした方がいいとおもうぜ!! またガキの頃のように一緒に楽しもうや! 俺達はお前達を殺さねえ。今日は逃げて家にかえるんだ!!」
わたくしの門弟の1人が、言いながらやりを出しました。
「ぐああぁぁー」
重臣の1人が討ち取られました。
藤吉郎の声を聞くと足軽達の動揺はさらに広がり、逃げ出す者がつぎつぎあらわれます。
「由宇喜一! 敵将織田三位! うちとったりーー!! 殿ー! かたきは取りましたぞー!!」
清洲の大将の1人が討ち取られたようです。
討ち取ったのは斯波義統さんの家臣だった人のようです。
「くそー!! 撤退!! 撤退じゃー!!」
河尻左馬丞が大声を出します。
「おえーー!! 1人でも多くの重臣をうつんだー!!」
門弟達が後を追います。
「さて、あとはダニーとズラーとデェスにまかせて、わしらは敵兵にまぎれてきゃーるか」
三郎が言いました。
わたくし達の姿は、ボロを着た足軽です。
逃げている清洲の兵士にまじってしまえば、見分けがつかないでしょう。
三郎の命で一足先に、那古屋城に帰ることになりました。
あとで聞いた話なのですが。
この戦いは、世にいう「安食の戦い」といい、清洲の重臣30余騎と総大将、織田三位と河尻左馬丞を討ち取り、那古屋織田家の大勝利となりました。
清洲城下まで追い詰め、那古屋の兵は撤退しました。
犠牲者は、ほとんどが清洲の重臣だけで、清洲の足軽にも那古屋側の兵にもほとんど犠牲が出ていません。
両軍合わせて約3000人が戦ったのに、犠牲者の数がとっても少なくて良かったと思います。
那古屋の長槍の活躍で勝った事になっていますが、どうなんでしょう。
さらに付け加えると、尾張一の猛将、権六さんの活躍はありませんでした。
末盛の兵も、静かでした。まあケガ人がなかったのでよかったと思います。
「くそーっ!! くそーっ!!」
そでで、藤吉郎が涙を拭きます。
帰りの道中で、藤吉郎は涙が止まらないみたいです。
こんな時は、自分で涙を止めることはできません。
わたくしも経験していますのでわかります。
でも、藤吉郎は何に、そんなに涙腺が崩壊したのでしょうか。
「しかし、ぐーたらしているカツトシさんは、戦場で見るとまるで別人です。なんでそんなに強いのですかー?」
孫四郎が、頭の後ろで手を組んで不思議そうな表情で聞いてきます。
「ふふふ、それは深い愛に包まれているからですわ」
「ぶっ! ぶわあぁはっはっはっ!! ぶげぼぉっほっごほっごほっ!!」
3人が爆笑して、むせています。
――はーっ!! まったく、本当のことですのに!
「いだだだ!!」
「じっとしていてください!!」
お秀ちゃんが、不機嫌です。
わたくしは、虫刺されくらいだと思いましたが、体中に大きな青たんができています。
わたくしは全裸で布団に寝かされて、青たんに薬を塗られているのです。
マモリ様の紋章は100パーセントの完全な紋章かと思っていましたが、紋章の力はまだまだ不完全のようです。
「ししょー! おはようございます!!」
孫四郎が、ズカズカ戸を開けて部屋に入って来ました。
「孫四郎!! おみゃーがついていながら、カツトシ様がこんなありさまじゃ!!」
「あはは、2000人の敵兵の中に4人で飛び込んで、その位のケガなら、無傷みたいなものですよ」
「なっ! 2000人の敵兵!? 4人!」
お秀ちゃんが、驚きの声を上げました。
「きゃぁあーー!!」
「すごいですわ!! はーっ! かっこいい!!」
女中さんが隣の部屋で黄色い声を出しました。
「2000人じゃにゃあがや! 2500人じゃ! こういうときは多い目にいうもんだがや!」
藤吉郎が、湯漬けをかき込みながら、わたくしを見おろします。
その状態でしゃべるから、ごはん粒が背中に飛んで来ました。
「藤吉郎!! きたにゃーがね!! カツトシ様にかかってまったがね!!」
お秀ちゃんが、汚そうに爪でごはん粒を藤吉郎の足に飛ばしました。
藤吉郎は足についたご飯粒を、ちゃんと口に運び美味しそうに食べました。
ごはんつぶは一粒でも大切ですからね。
「し、師匠大変です!!」
門弟の1人が入って来ました。
服を着て外に出ると。
ヒゲズラの腹の出たおっさんがラジオ体操をしています。
「ご、権六さん!! な、何をしているのですか?」
「ふふ、師匠!! これからは権六と呼び捨てでお願いいたします!!」
権六さんが深々と頭をさげて、しばらく頭を上げませんでした。




