↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
257/281

第二百五十七話 一銭斬り

「藤吉郎! おみゃあは、また、わしの子分になりに来たか?」


 三郎は藤吉郎に気が付いていたみたいです。

 泣いているわたくしから藤吉郎に興味を移しました。

 はーっ、しっかりしないといけないのに、でも声だけは出すのを我慢しています。


「ふん! まだ決めとらん。こんなちいしゃあとこじゃあ、すぐに攻め滅ぼされそうじゃ」


 藤吉郎は三郎になめられまいと虚勢を張っているみたいです。


「ひゃははは!! そんなら一番できゃあ今川へいきゃあええじゃろう!」


 ひょっとして、三郎は藤吉郎が今川にいたことを知っているのでは?


「ぐっ!」


 藤吉郎が言葉に詰まります。

 ですよねー! つい最近までいたのですから。


「ふふふ、まあええ。カツトシのところにおったらええじゃろう。カツトシとそこの3人を戦場で見たら、すぐに考えが変わるじゃろう。おい! 湯漬けじゃ! 湯漬けをもて!」


 三郎の言葉で、女中さん達がパタパタ奥に消えました。

 藤吉郎はそこの3人と言われて、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんを見つめます。

 3人は藤吉郎の視線に気が付くと、ニカッと笑顔になりました。

 でも、その笑顔に影が落ちて不気味に見えます。

 藤吉郎がぶるっと体を震わせました。


 藤吉郎はガキ大将時代に、この3人にケンカの助太刀をしてもらっています。

 この3人が戦場でどんな戦いをするのか想像が出来たのでしょう。


「お待たせしました」


 お秀ちゃんが、真っ先にわたくしのところへ膳を運んで来ました。

 順番が違うけど、わたくしは三郎を見ました。

 三郎はむっつりしていますが、目に怒りがありません。

 お秀ちゃんには甘いようです。




「御やかた様! 末盛から使者がお見えになりました」


 湯漬けを食べていると、土間で近習が声を掛けてきました。


「ふむ、こちらへ連れてこい」


「ははっ!! そうおおせと思いまして、外で待ってもらっています」


 出来る近習ですね。


「ならば、すぐにここへ通せ!!」


「ははっ!! 権六様、こちらへ」


「なに! 権六が来たと! ちっ!」


 三郎は瞬時にこの使者の意味を理解したようです。

 なにがあるのでしょうか。

 権六というお方は確か、尾張一の豪傑でした。


「失礼つかまつる」


 そう言いながら、わたくしたちの居る部屋へ入って来ました。

 素早く巨大なぎょろ目を動かし、湯漬けを食べる全員を確認しました。

 そして、わたくしのところで視線が釘付けになります。

 とうぜんですね。


 そうです。

 わたくしのヒザの上でお秀ちゃんが、おいしそうに湯漬けをたべていますからね。


「権六! 用件だけ申せ!!」


 三郎が面倒臭そうに言いました。


「はっ! この度の弔い合戦は、是非我らにも参加をさせていただきたいと」


「ふむ、勘十郎が言ったか。だが、それだけじゃあるまい」


「はっ! ……」


 権六さんの顔に汗が噴き出しました。

 それが流れて、アゴから畳へポトリポトリと落ちます。

 なにか、言いにくいことがあるようですね。


「ふふふ、まあよい。権六おみゃあが総大将なら問題にゃあ!! 明日、早朝出陣する。間に合うようにまぁーししてこい!!」


 そういうことですか。

 援軍ではなく、総大将を権六さんがする、つまり主力をすると。


「ははっ!」


 権六さんが安堵した表情になりました。

 どうでしょう、この事を伝えるのが一番の用件だったようですね。

 勘十郎さんも出来る人のようですね。

 もし、使者が権六さん以外なら、相手にされなかったかもしれません。

 三郎は権六さんの顔を立てました。さすがです。


「はーっ! また、勘十郎あに様が欲張りなさった。三郎あに様がお怒りになりますのに」


 お秀ちゃんが、湯漬けのお湯をすすりながら、すました表情で言いました。

 こんなに小さいのに、そんな事がわかるの!?

 お秀ちゃんはさすがに三郎の妹です。

 頭がおそろしいほど切れるようです。


 ヒザの上のお秀ちゃんを驚いて見つめていると、お秀ちゃんは顔を少し上にあげて、上目遣いでわたくしを見つめます。

 うわあーーっ!! かわいすぎます。


「どうじゃ! 権六、おみゃあも湯漬けを食っていくか?」


「はっ! いえ。それがしは、いくさの準備があります。これにて失礼つかまつります」


 権六さんは、そそくさと退散しました。


「三郎さん! 万が一このいくさで、尾張南郡守護代織田信友をうたれたら、そのまま勘十郎殿が守護代になってしまうぞ」


 藤吉郎も頭が良いですね。

 すぐに、それがわかるのですね。

 わたくしは、尾張南郡守護代織田信友という名前すらしりませんでした。


「藤吉郎! おみゃあもまだまだじゃのう。信友は出てこん。来るのは坂井大膳じゃ!」


 すごいなあ。

 なんでわかるのでしょうか?


「わしもいくさの準備がある。これで用事はだいたいすんだでまあいくわ。あー、まあひとつ言っとくことがあったわ。お秀! 今日はカツトシと一緒の布団で寝て、カツトシが夜泣きせんように頭をなでてやれ!! はーはっはっ!!」


 笑いながら、三郎は那古屋城へ戻りました。

 三郎がこのお屋敷に上がった理由は、わたくしの様子を見に来たということでしょうか。

 それと、主家殺しの逆賊を討つ事を伝えに来た。


 ――大義の為に、清洲織田家を打倒する。


 重要な戦いですね。


 その晩はお秀ちゃんが、ちゃっかりわたくしのお布団に入ってきました。

 大丈夫ですよ。わたくしは女ですから。

 うふ、かわいすぎる抱き枕です






 翌朝ガチャガチャという騒音で目が覚めました。

 わたくしの家の庭が、末盛軍の駐屯地にされたようです。


「権六! どうせ、隙あらば那古屋城を攻め落とせと指示をされているのだろう?」


 三郎もすでに来ています。

 わたくしもすぐにまぁーしをします。


「そ、そそ、その様な事は」


 権六さんが、すごくあせっています。

 おそらく指示されていますね。

 勘十郎さんは恐ろしい人のようです。


「ふん、まあええわ。おみゃあの足軽、あれはなんだ!!」


 軽い口調ですが、三郎の目が怒りに燃えています。

 口調も怒りの那古屋弁です。

 でも、何にそんなに怒っているのでしょう。


「はあ、通常通り。末盛城周辺から集めた者達ですが」


「どたーけがぁー!! 権六! 尾張弾正忠家のいくさを何だとおもっとる!! とろくしゃぁーことやっとったら、だちかんぞー!!」


 三郎が激切れをしました。

 わかりやすく、感情そのままの怒りです。

 何をそんなに怒っているのでしょう。


 そんな三郎を見つめるわたくしの横に、遅れてやってきた藤吉郎と孫四郎が並びました。

 後ろにはダニーさんとズラーさんとデェスちゃんも来ました。

 藤吉郎と孫四郎が緊張した表情になっています。

 2人は少しおびえていますね。


「はっ! し、しかし!」


 猛将の権六さんまで三郎の剣幕に押されています。

 でも、権六さんも怒りの意味が理解出来ないようです。


「権六! この足軽を連れて行くことはまかり成らん。わしが銭を配って米を少し分けてやる。すぐに末盛へ返せ!」


「はぁ、しかし、それでは」


「どたーけが!! まんだわからんのか! ええか権六。わしはのう、乱取りを憎んでおる。あんなことをすれば、人心は離れ、国力が弱る。おみゃあの連れてきた足軽は、全員、乱取り目当ての足軽じゃ。そんな奴は連れてはいけん」


「なっ!!」


 声を出したのは藤吉郎でした。

 目に涙がドンドン溜まっていきます。

 藤吉郎の涙腺が崩壊したみたいです。


「ええか、今回の戦いは大義の戦いじゃ。戦場での乱取りは禁止じゃ。銭1文、米一粒でも盗ったら斬首じゃ。総大将のおみゃあも斬首にする。ええのう。減った兵の代わりは、わしの信頼する兵を出す。もちろん十田衆も出す」


 権六さんは自軍から信頼出来る兵士だけを残しました。

 その数はいっきに減り500人ほどになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。