第二百四十九話 美女の涙
聖徳寺の会見からしばらくは平穏な日々が続きました。
本当に幸せな日々でした。
おキツ様は優しくて可愛くて最高でした。
美しさにおいて、私が知る限りおキツ様を越えるのは3人だけです。
マモリ様とユウキちゃん、そして十田エイリだけです。
でも、プロポーションは3人をリョウガしています。
川遊びをしている時などは、女のわたくしでもときめいてしまいます。
五条川の水面のキラキラより、キラキラ輝いています。
十田三人衆は相変わらず、なんの欲もなく日々楽しそうにしています。
あまりに楽しそうなので、わたくしまで楽しくなります。
素敵で平穏な日々が年越しまで続きました
「カツトシ!!」
おキツ様の声がします。
「扉は開いています。どうぞ」
でもおかしいです。
今日の護衛の仕事は終わり、おキツ様は生駒のお屋敷に送り届けたはずです。
あたりはすっかり暗くなり、おキツ様がたずねて来ていい時間ではありません。
こんなことは少なくとも今までに1回もありませんでした。
年を越してすぐの夜の事です。
何があったのでしょうか?
「カツトシー!! うわああぁぁぁーん!!」
おキツ様は扉を開けると、飛ぶようにわたくしの胸に飛び込んできて、涙をポロポロ流して泣き出しました。
おキツ様がこれ程取り乱すなんて、なにがあったのでしょうか?
「なっ、なな、なっ!?」
わたくしは驚いてすぐに言葉が出ませんでした。
なにも驚いたのは、おキツ様が泣いているからだけではありません。
おキツ様が全裸なのです。
何も着ていません。
生まれたままのすがたです。
あの巨大な胸が、丸出しです。
すごいです。
大きくて重いはずなのに、重力をはね返して堂々と上を向いています。
うすい桜の花びらのような色をした物が、私の目と合いました。
すごく上を向いている証拠です。
しかも、かたまりがとても小さく、まわりの広がりの面積もとても小さいです。
――きれい!!
頭の中がその一言で埋め尽くされました。
わたくしの視線は、少しずつ下に移動します。
形のいいおへそ。
その下には、うっすら細い毛が見えてきました。
細い毛は黒さを保てず、薄い茶色に見えます。
その薄い茶色は、まるでロウソクの炎のようにととのった形をしています。
わたくしのように、真っ黒な剛毛が逆三角形になっていません。
なんという美しさでしょうか。
「ううっ!」
わたくしがロウバイしているのを見て、おキツ様が落ち着きを取り戻してきました。
おキツ様は私の視線に気がついたはずなのですが、隠す素振りがありません。
そのまま、くるりと後ろをむきました。
後ろが丸見えです。
桃のような、美しさです。
「お、おキツ様!! こ、これを」
わたくしは、ボロの服をおキツ様の前に出します。
「カツトシ! 私を連れて逃げて下さい!」
おキツ様は、渡したボロの服を受け取り言いました。
でも、視線を服に向けると着る素振りがありません。
汚すぎて着る気にならないのでしょうか。
「あ、あの、おキツ様。何があったのですか?」
「はい、お風呂から逃げて来ました。『ゆっくりお風呂に浸かりたいから一人にして下さい』と言って、一人になってからお風呂の窓から逃げ出しました。裸で逃げるとは思っていなかったのでしょうね。窓の外に見張りはいませんでした。きっと、私がいないとわかればここに追っ手が来ます。すぐに逃げましょう」
――そ、そうでは、ありません。逃げて来た理由が聞きたいのです。
そう思った瞬間。
「カツトシ! 生駒屋敷が明るくなったダニ! 時間がねえダニ!」
外の様子を見てくれていたダニーさんがあせって言いました。
「と、とりあえず、逃げましょう」
わたくしはそう言うと、すぐ横にいたズラーさんの背に、おキツ様はデェスちゃんの背に乗りました。
「カツトシ! ちゃんと物陰を選んで逃げて来ました。だから、その、私は裸をカツトシ以外には見られていません」
――えーーっ!!
なにそれー!!
おキツ様は頬を赤くして言いました。
わたくし達は犬山城の城下町へ逃込み、旅篭にかくれました。
小折から犬山は距離があります、
でもズラーさんとデェスちゃんのおかげで、とても早く着きました。
生駒の追っ手もさすがにここまでは来ませんでした。
「カツトシ、このまま私を連れて逃げて下さい」
ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんは、気を利かせて2人きりにしてくれました。
おキツ様は再び着ている者を脱ぎました。
――えーーっ!!
わた、わた、わたくしは、わたくしはー。
――処女で童貞ですから、こんな時どうしていいのかわかりませんわー!!
「か、考えさせてください」
「はい」
おキツ様はそのまま布団の中に入りました。
わたくしはちゃぶ台の前に座り、困り果てていましたが、なぜか急に眠気に襲われてそのまま眠ってしまいました。
翌日、おキツ様を生駒屋敷に送り届けると、ボロの我が家に戻りました。
「遅い!! 何をしとった!!」
家に三郎がイライラしながら座っています。
「わたくしにも、色々用事はあります。いつもダラダラしているわけではありません」
なんとなく見えてきました。
昨日、おキツ様が取り乱したのは、こいつのせいではないでしょうか。
「そうきゃーも! すぐまぁーししろ!! いくぞ!!」
「はーっ!?」
「ふふふ、おみゃーは今からわしの配下じゃ!! まあ、期限付きじゃがな」
「な、なにを言っているのですか。話が見えません」
「ふふふ。実は生駒家へ、おみゃあをわしの家臣にしたいと申し入れていたのじゃ。じゃが、ずっと断られていた。しかし、なぜか急に許可がおりた。まあ、6ヶ月の期限付きじゃがな」
6ヶ月間生駒家を離れるというわけですか。
「なるほど」
でも、それであそこまでおキツ様が取り乱すのでしょうか。
「じつはのう、今川家が村木に砦を築いた。さすがに、砦に閉じこもる者達と戦うのは骨が折れる。死闘が予想される。じゃから、すぐに行くぞ」
そうか、おキツ様はわたくしがそんな危険な場所に行くのが心配だったという訳ですね。
わたくしが死ぬかもしれないと、それで逃げようと。
やさしいですね。
おキツ様はわたくしをダメダメだと思っているから心配だったのですね。
でも、「安心して下さい」カツトシは無事帰ってきますから。
わたくしは、おキツ様にさよならの挨拶も出来ずに那古屋城へ手を引っ張られるように連れ去られました。
「みな、待たせた。軍議を開く」
那古屋城につくと、わたくしは軍議の開かれる部屋の横の小部屋に放り込まれました。
横の大部屋で那古屋の重鎮がヒザを付き合わせて軍議を始めました。
「どうせカツトシさんは、五条川でダラダラしていただけなのでしょ。俺が解説します」
「はい、孫四郎先生、はい」
小部屋には孫四郎もいました。
孫四郎先生が少し大人な雰囲気になっています。
美形な顔に大人な男らしさが加わってかっこよくなっています。
「孫四郎! カツトシ! 少し声ができゃあ! まあちょこっと、ちいちゃあ声でしゃべらんか!!」
隣の部屋から三郎の落雷のような声がしました。
「おみゃあの声の方ができゃあがや!!」
わたくしも、おキツ様を悲しませた三郎に怒っています。
つい、言ってしまいました。
「くっくっくっ! だが、声は小さめにな」
三郎が笑いながら言いました。
「おおっ! あの、御やかた様に口ごたえした!」
重臣達のささやきが聞こえて来ました。




