第二百四十七話 瞳の語り合い
「どうぞ!!」
民家には頭のよさそうな、みなりのきっちりした男性がいて、広い和室に案内をしてくれました。
「十兵衛、こちらは婿の三郎殿と荷物持ち殿だ」
サイトウさんがたたみの上に座ると、三郎とついでにわたくし達を紹介してくれました。
手でわたくし達も座るように、笑顔でみちびいてくださいました。
「明智十兵衛光秀と申します」
十兵衛さんは入り口に近い下座に座ると頭を下げました。
「三郎じゃ!」
三郎は贅沢な着物を着ている十兵衛さんを見て、不快さをあらわにしました。
「荷物持ち4人衆です」
わたくしは十兵衛さんの前に座ると、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんをまとめて紹介しました。
わたくしが声を出すと、こんどは十兵衛さんがあきらかに不快な表情です。
荷物持ちがしゃべるなという事でしょうか。
十兵衛さんの表情を見て、三郎が怒りの表情に変わりました。
「むう、そうじゃ! 腹が空いたじゃろう食事を用意させよう。十兵衛頼むぞ」
三郎の表情の変化を見てサイトウさんが困った顔をして言いました。
「はっ!」
十兵衛さんは部屋を出て行きました。
「ふん!」
三郎は十兵衛さんが部屋を出たのを確認すると、一度鼻をならして立ち上がると、窓に進み外をのぞきました。
「カツトシ、ここから聖徳寺の参道がよう見えるぞ! おみゃあもこっちへこい!」
わたくしが立ち上がろうとすると。
「カ、カツトシじゃと!?」
サイトウさんが驚きの表情になりわたくしを見ました。
そのあとで、ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんの方をみます。
その顔が「これがあの十田三人衆ということか」と言っています。
斎藤さんは、十田カツトシのことをよくご存じのようです。
「ちっ、しくじった。隠しておこうと思ったのに」
三郎が舌打ちをして言いました。
三郎はわたくし達のことを隠しておきたかったようですね。
秘密好きですからね。
「おまたせ致しました」
ほどなくして、食事の膳が運ばれてきました。
でも、膳は二つだけです。
サイトウさんの前と三郎の前に置かれました。
「これ、十兵衛! カツトシ殿にもお出ししないか」
サイトウさんがあわてて言いました。
「なっ!? カ、カツトシ! こ、これは失礼致しました」
十兵衛さんもカツトシの名前を知っているみたいです。
三郎は隠しているつもりでも意外と情報が漏れているみたいです。
十兵衛さんは私の後ろのダニーさんとズラーさんとデェスちゃんを見ました。
十兵衛さんの顔が「これがあの十田三人衆ということか」と言っています。
十兵衛さんが姿を消すと。
すぐに、私達の膳を女性達が運んで来ます。
こんどは、十兵衛さんの分もあります。
「この油を味噌汁に入れるのじゃ。するとうまくなる」
サイトウさんが言いました。
膳には、ご飯とお野菜たっぷりのお味噌汁、お漬物と焼き魚、そして小さな皿に油が入っているみたいです。
サイトウさんは小皿の油をお味噌汁に入れました。
全員が油をお味噌汁に入れます。
「わしはこの油を売っておったのじゃ」
サイトウさんが油の小皿を見てなつかしそうにしています。
と、いうことは、サイトウさんは商人ということなのでしょうか。
三郎を見たら、油を入れたお味噌汁をご飯にかけています。
さらに、魚も漬物も入れています。
全部を箸でかきまぜました。
そして、一気に口へ。
あっという間に完食です。
「ふふふ」
後ろで笑い声がしました。
嫌な予感がします。
ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんまで、三郎と同じ食べ方をしました。
「三郎、変な食べ方をしないでください。ダニーさんとズラーさんとデェスちゃんが真似をしてしまいます」
「ふん、飯など素早くたべんと時間の無駄じゃ」
三郎にとっての食事はただの栄養補給の手段なのでしょう。
それにしても、あんまりな食べ方です。
「さ、さぶろう……呼び捨て……」
十兵衛さんが驚きの表情で小さな声でつぶやいています。
「カツトシ! おみゃあもさっさとくわんか!」
「わたくしは、ゆっくり味わっていただきますわ。でないと食材に失礼ですから」
わたくしは、知らんぷりをしてゆっくり味わって食べます。
野菜も、きっとお味噌も美濃のものなのでしょう。
味噌は尾張のものとは、香りも色も少し違います。
美味しいです。
「さ、三郎様にさからった」
十兵衛さんが、またつぶやいています。
十兵衛さんは三郎の気性までよくご存じのようです。
でも、三郎とわたくしは子供の頃からの親友ですから。
三郎は心を許した相手には優しいですよ。
まあ、ときどき厳しいですけど。
「さて、婿殿。萱津の戦いなのじゃが、あれは清洲勢が2000人、那古屋勢が1500人と聞いておる。野戦において数は力じゃ。それに最小限の損害で勝利するのが理解出来ん。その上、清洲勢の被害も最小だったと聞いておる。後で攻城戦が控えておるのじゃから、わしなら皆殺しにする。そうしないと、城に逃込まれて攻めにくくなる。清洲勢をほとんど殺さず、どうして、ああも早う城を落とせたのか? なぞばかりじゃ」
サイトウさんは、三郎の食事が終わるのを見届けると、すぐに萱津の戦いについて質問しました。
よほど気になっていたのでしょう。
「おやじ殿、それが違いますのう。まず、被害は最小ではござらん。両軍大勢死にもうした。だが、それを言ってしまうと、今川につけいる隙を見せることになります。ですから、尾張の兵は死んでいないと公表したまでにございます」
「な、なるほど!!」
サイトウさんと十兵衛さんが納得しました。
三郎は、すごいです。
適当なことを言っても、この二人を納得させました。
「わあーはっはっはっ!! 冗談でござる。あの戦いの風評は真実であります。わしが流させましたからのう。本当に尾張兵はほとんど死んではおりませぬ。両軍合わせても100人と死んではいないでしょう。死んだ者のほとんどは、清洲の重臣です。わしの戦いは、すべてこのカツトシと十田三人衆の活躍によって成り立っております」
三郎は萱津の戦いの詳細をサイトウさんに包み隠さず話しました。
「なるほどのう、子供の頃の子分が尾張に大勢おるのか。それは、わしには真似できんことじゃ」
「まさか!?」
十兵衛さんが驚きの表情になりました。
少し体が震え出しました
なにに、そんなに驚いているのでしょうか。
「十兵衛殿、どうなされたのですか?」
あまりに狼狽しているのでわたくしは、声をかけずにはいられませんでした。
「は、はい! 美濃の子供は尾張のガキ大将の子分になったと聞いた事があります。た、たしか、藤吉郎というガキ大将です」
「ふふふ、藤吉郎は、わし、吉法師の子分じゃ!! だから、今の美濃の若い足軽は皆、わしの子分じゃ! わーあぁーはっはっ!!」
「なーーーーっ!!」
サイトウさんと十兵衛さんが大きな声で心底驚いています。
もはや、ただの驚きではなく恐怖の表情です。
三郎はすでに美濃の若い足軽を支配しているようなものですからね。わかります。
「子供達の間で噂されていた尾張の怪物がダニーとズラーとデェスという名前でした。まさか」
十兵衛さんの視線がダニーさんとズラーさんとデェスちゃんに注がれます。
「たぶん、それはオラ達ダニ」
ダニーさんが3人を代表して言いました。
「やはり!」
十兵衛さんはサイトウさんの顔を見ました。
サイトウさんと十兵衛さんはしばらく無言で見つめ合っています。
ふふふ、気持ち悪いです。
いったい何を瞳で語り合っているのでしょうか。




