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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百四十五話 隠れた猛将

「馬廻り衆!! おみゃあらもすぐに行かんかー!! 権六が殺されてまうがや!!」


 三郎を守っていた精鋭の騎馬隊が、権六のあとを追いかけます。

 清洲勢はダニーさんとズラーさんの大暴れで前面の槍隊が総崩れになっています。

 三郎はそれを見て、那古屋衆全軍を前進させます。

 そして、三郎自身も前に進みます。


「たわけが!! 前に出すぎじゃ!!」


 清洲衆の総大将坂井大膳が言いました。


「全員、カツトシをのぞいて、わしから離れよ。後ろにあの掻楯をたてよ!!」


 三郎が近習に言いました。

 三郎の後ろに掻楯が立てられます。

 掻楯とは、矢をよけるための大きな木製の盾です。

 矢をよける盾を後ろに置いてどうするつもりなのでしょうか?

 前に置かなければ意味がありません。


「ははっ!!」


 三郎から近習がはなれ、後ろに掻楯が置かれます。


「孫四郎!! おみゃあもわしの横にこい!!」


「はい」


 孫四郎はチョコチョコ走って、三郎の横に立ちました。

 元服したての孫四郎はまだまだ子供です。

 愛くるしいです。

 顔は美形で、身長はすでに結構高いです。


「カツトシー! なにしとる!! わしの前に来んか!! 矢からわしをまもらんか!!」


「なっ!? わたくしが?」


「なんだ自信がにゃーのか?」


 三郎がバカにした笑みを浮かべました。

 でも、目は少しも笑っていません。

 恐ろしい表情です。


「ふっ!! 雑作もなきことにございます」


 わたくしは、顔に影を落として三郎の馬の前に進み出ます。

 ここでやらなければ、三郎を失望させることになるでしょう。

 出来なくてもやらなければなりません。

 マモリ様のように矢から三郎を守ります。守って見せますとも。


「ええっ!?」


 わたくしが三郎の前に進み出るのを見て、信光様の近習も、権六が連れてきた兵士も驚きの声をあげました。


 ――なんの驚きでしょうか?


「どたわけがー!! カツトシー!! 後ろの掻楯をよう見て見よっ!!」


 三郎が馬上から掻楯を指さしました。


「なっ!! 丸が書いてある。まさか!?」


「ひゃあぁはっはっは!! はらった矢を、全部あの丸の中に当てて見せよ!!」


 掻楯の真ん中に墨で丸が書いてあります。


「ゆみたーい! あの大うつけをねらえー!! あのたわけを殺せば戦は仕舞いじゃー!!」


 敵総大将が言いました。

 その言葉が終わると弓隊が三郎を狙います。


「はなてー!!」


 その言葉と同時に、矢が宙を飛びます。

 多くの矢が三郎を目指します。


「うわあぁぁー!!」


 孫四郎が大声を出して、頭を抱えてしゃがみ込みました。


「ふふっ!!」


 三郎は目をギラギラ輝かせて矢を見つめます。

 風を切って高い音を立てる矢は高速なのでしょう。

 矢の行く手を見つめる兵士の目が矢の少し後ろを見ています。


 それでも、わたくしが集中して矢を見つめると止まって見えます。

 今回は長いヤリをもっていますので前回よりたやすく感じます。

 飛んでくる矢の腹をヤリでほんの少し押せば、全部それていきます。


「あーっ! めんどーくさい!!」


 わたくしは集中するあまり、こころの声を隠すのを忘れてしまいました。

 矢を払うだけでもしんどいのに、後ろのまとに飛ばせとは泣けてきました。


「さすがはカツトシダニ!!」


「兄者! 感心している場合じゃねえズラ! 弓隊を何とかしねえと、カツトシがやばいズラ!」


「うむ!」


 ダニーさんとズラーさんが弓隊の中に飛び込んでくれました。


「うぎゃああぁぁ!」


 弓隊が悲鳴を上げます。

 弓隊はこっちを見ていたので、急に飛び込んできたダニーさんとズラーさんに、いいように噴き飛ばされています。


「ふーーっ! やっと止まった!!」


 わたくしは、矢が飛んで来なくなってほっとしました。


「くそっ! かせっ!」


 敵総大将の横で、近習から弓をうばった男が素早く矢をはなちました。


「あれは、坂井甚介か! やつまで来ておったか!」


 三郎が言いました。

 矢は、弓隊がはなった矢よりも速く飛んで来ます。

 恐ろしい猛将のようです。

 尾張は人材が豊富ですね。


「ふふっ」


 わたくしにとっては、これも止まって見えます。

 後ろの掻楯に飛ばしても芸がありませんね。

 わたくしは、矢をしたからはね上げると真上に飛ばします。

 垂直に飛ばしたので当然目の前に落ちてきます。

 それを、パシッと手で受け止めます。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉー!!!!」


 三郎の軍勢から歓声が上がりました。


「な、なんじゃー! あいつは!! ばけものか!!」


 矢をはなった坂井甚介が目を見開き大きな口を開けて言いました。


「すげーー!! すげぇぇーー!! すげえかっこいいー!! カツトシさんすげーー!! いつもダラダラして、やるきがないから何も出来ない人だと思っていましたが、ヤリの名手だったのですね。すげーっ!! ほんとうにすげー!!」


 孫四郎が目を輝かせてわたくしを見てきます。

 いつのまにか、先程までの震えが止まっています。


 じゃない! おいっ!! 孫四郎のやつ、わたくしをそんな風に思っていたのですかー!


「カツトシ! 見事じゃ!! そしてダニーとズラーもあっぱれじゃ!!」


 三郎が馬上で大きな声で言いました。

 だから、声がでけーですわ。

 清洲衆は足軽も弓隊も混乱におちいっています。


「すごいぞー!!」

「全部の矢を丸の中にいれたーー!!」


 味方の軍勢から声が上がります。


「たわけー!! なにをしとる! いまだー全軍かかれー!! 孫四郎! おみゃあも行ってこい! だが、ボロを着ている者は殺すな。綺麗なべべを着とる者をねらえ!!」


「ぜんぐーん、かかれー!! だが、敵兵は尾張の兵だ殺すなー! 指揮官だけをねらえー!!」


 織田信光様が大声で言いました。

 三郎の那古屋衆、信光様の守山衆、権六の末森衆が一斉に喊声を上げて、坂井大膳ひきいる清洲衆に向かって走り出しました。


 萱津の草原で那古屋連合軍約1500人と清洲衆約2000人の全軍が激突します。


「坂井大膳!! 覚悟!!」


 この時、すでに権六が最後尾の総大将にたどり着きました。

 権六が敵総大将にヤリを振り降ろします。


「ここは、お任せください!!」


 そのヤリを、先程矢をはなった坂井甚介が受けました。

 やはり、猛将ですね。


「くっ!!」


 それを見ると、ぎゅっとくちびるを噛み坂井大膳は、くるりと反転して逃げ出しました。


 坂井甚介は権六の攻撃を何合も受けきります。

 権六は日の本一の豪傑じゃなかったの?


「中条小一郎! すけだちいたーす!!」


 あれは、三郎の馬廻り衆です。

 ガキ大将時代の三郎の子分です。


 坂井大膳が逃げ出すと、清洲衆の混乱は益々激しくなります。


「わしは、吉法師だー!! 死にたくなければ、わしの子分共は家に帰れー!!」


 敵の混乱を見て、三郎が言いました。

 三郎は元服前には、吉法師を名乗っていました。

 吉法師の子分達はこっちの方がわかりやすいですね。


「柴田権六!」

「中条小一郎!」


「敵将、坂井甚介討ちとったりーー」


 権六と小一郎が言いました。

 この声を聞くと、ボロを着た若い足軽が一目散に逃げ出しました。


「やりましたーー!!」


 孫四郎がうれしそうに言いました。

 ヤリで、敵の綺麗な着物の男を討ち取っています。


「孫四郎め。初陣で敵をうったか。肝に毛が生えておるわ!!」


 三郎もうれしそうです。


「あれー??」


 わたくしは、異変を感じていました。


「なんじゃ!! カツトシ!!」


「三郎! 秘策の長槍が意味なかったぞ!!」


「なっ!」


「三郎の作戦では最初に、槍隊が小競り合いをして、その時長いヤリが効果を発揮して敵兵をバッタバッタと倒すはずだったのでは? 現実はダニーさんとズラーさんが、バッタバッタと倒していましたけど」


「えいえいおー! えいえいおー!」


 三郎の連合軍は信光様の掛け声で勝ちどきを上げています。


「みなのものー!! 聞けー!! 今日の戦いは長槍のおかげで勝った!! そう記録には残せー!! そして、十田衆のことは絶対に秘密だー!!」


 この戦いは、清洲衆の大敗で終わりました。

 でも、死者は清洲衆が50名ほど。

 三郎の連合軍は軽微でした。

 でも、死者が三郎の馬廻り衆に集中していたので、三郎は悲しみを隠しませんでした。


 この後の城攻めは、清洲衆の主力の足軽が吉法師の命令通り家に帰ってしまったので、その日のうちに奪還が終了しました。

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