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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百四十二話 那古屋城

 那古屋城につくと三郎は配下の前に立ちました。

 三郎は、兵士達よりみすぼらしい格好をして立っています。

 帯は相変わらず荒縄です。


「皆のおかげで勝利することが出来た。感謝する。恩賞を出してねぎらいたいところだが、知っての通りわしは貧乏じゃ。したがって、お前達にしてやれることは、お前達を側近として1番信頼するという事だけじゃ。将来必ずお前達には報いるつもりじゃ、しばし辛抱してくれ。そして、十田3人衆とカツトシの事はしばらく家中にも秘密にしたい。わしと、お前達だけが知る極秘事項じゃ頼んだぞ。せめてものねぎらいに食事を用意する……」


「カツトシ様」


 三郎の話は続いていますが、小姓がわたくしを呼びました。


「はい、どうしました」


「三郎様が、城内を案内しろと」


「えっ!? よ、よいのですか??」


 三郎にとって、わたくしなど足軽程度の取るに足らない存在のはず。

 しかも、直接の家臣でもありません。


「ふふふ、この城の城主がいうのですから良いのでしょう」


「そ、そうですね。では、お願いします」


 わたくしは、小折城の生駒屋敷にさえ入った事がありませんのに、まさか那古屋のお城に入る事ができるなんて。

 わたくしは小姓さんに案内されてお城へ向かいました。

 もちろん3人衆も同行します。

 木造のお城の中は、三郎らしく質素です。

 現代のお金持ちの家の方がよっぽど立派です。


 思ったよりたいしたことがありません。


「おお、あなたがカツトシ殿ですか」


 おじいさんが、優しい笑顔で近づいて来ました。


「は、はい。十田雄利と申します」


「おお、わしは平手政秀と申す。後ろの3人が噂の十田3人衆ですな」


「はい」


「ふふふ、おやかた様に『カツトシ殿に見てもらえ』と言われております。こちらへどうぞ」


 三郎はこのおじいさんに、いつの間にか指示をしていたようです。


「はい」


 狭い部屋に案内されました。

 姿勢のいい武士が数人座って事務処理をしています。


「こちらへ」


 部屋の1つの机に座らされました。

 そこに座ると帳簿が置かれました。


「こちらが、那古屋城の帳簿にございます」


 一人の若い男が帳簿を開きました。


「はい、ありがとうございます」


 と、言われましても突然見せられてもよくわかりません。

 これは、たぶん三郎の策略ですね。

 おそらく「わしは、おみゃあを心からしんりゃあしとる。だで、なにも隠し事はしにゃあ、全部みせたるがや」ということでしょう。


 なので、パラパラめくって全体を見ていきます。

 どうやら、那古屋の収支が書いてある帳簿のようです。

 なにもわかりません。

 まさか三郎はわたくしに、商人になりたいのなら『このくりゃあ見てすぐりきゃあしろ!!』と言いたいのでしょうか?


「ふふふ、那古屋では毎年税収が上がっております」


 おじいさんは自慢そうに言いました。


「そうですか。では、民の暮らしも、さぞかしよくなっているのでしょうね」


「はっ??」


 おじいさんは、ポカンとしています。

 こいつは何を言っているのかという表情です。

 民の暮しなどどうでもいいということなのでしょう。

 こっちが「はっ!?」ですわ。

 少し腹がたちます。


「いえ、だから! 税収が増えているということは、民の暮しがよくなって、そのおかげで税収が増えているということなのですよね!!」


「こ、これは、おかしなことを言われますな。われら武士が民の暮しなどどうして気にする必要があるのでしょうか。わしの仕事は、税収を増やし武士の暮しを豊かにすること。民の暮しなど考えたこともありません」


 はーーっ!?

 このじじい、何を言っているのでしょうか。

 そんなことをしたら、民の生活は苦しくなるばかり、豊になるのは少数の武士だけではありませんか。


「あなたは三郎のことをわかっていませんね」


「な、なにを言われますか! わしは、おやかた様の傅役でありますぞ。幼き頃よりずっと育ててきたのがわしじゃー!!」


 じいさんが両手を硬く握りプルプルふるわせます。

 顔がみるみる赤くなります。

 先程の笑顔が嘘のように消え、鬼の表情に変わりました。

 でも、わたくしも少し怒っています。

 きっと、マモリ様だって怒ると思います。


「ふふふ、あなたのような方に育てられて、三郎はよくあのような広い視野を持つ、真っ直ぐな子に育ったものです。あなたには、三郎の行動がさぞかし奇行に見えたでしょうね。よろしいですか。あなたのやり方では、民はみな貧困になります。現に戦争ばかりの尾張ではガリガリにやせた子供達があふれ、餓死者まででています」


「ふん! それがどうしたのじゃ! 貧民のことなど知ったことではない!」


「ふふ、でしょうね。でも、それでは、尾張はおわりです。いいですか。民が飢えるということは、国力が下がるという事です。兵士は弱くなり人口が減ります。つまり税収もさがるのです。それをあなた達が、むりやり重税により税収を上げているみたいですが、いずれそれは破綻します。正しくは、国民を豊にすることです。そうすれば税などそのままでも自然に税収が増えていきます。そして、民が腹一杯になれば、さらに生産性が上がり、兵もつよくなります。三郎は少なくともそれがわかっていて、民を豊にしようとがんばっています。それを、あなた達が邪魔しているとは」


「ききき、きさま!! 貴様ごとき下賤の者がわしに意見をするなどぉー!!」


 激高していますね。

 尾張の民、いいえ、他の国も似たようなものなのでしょう。

 日本人は苦労しているみたいです。


「ふん、三郎は、わかっていますよ。そして行動を起こしています。あの服装を見てください。贅沢を憎み、民を豊にしたいと思っています」


「だまれーーっ!!」


 じいさんは、わたくしを下賤と思ってみくびっています。

 とうとう、刀の柄に手をかけました。

 部屋の中の男達が全員怒りの表情になりました。


「ひっ!!」


 じいさんと部屋の男達が急に青ざめました。

 視線がわたくしの後ろに集中しました。


「ひかえよ!! カツトシはわしの盟友ぞ!! 民の暮しが良くならないのがわしの家臣のせいだったとはのう。やはりカツトシに来てもらってよかった」


 三郎がわたくしのうしろで、おそろしい顔をして腕を組み仁王立ちしています。


「ははっ!」


 じいさんと、男達が平伏しました。

 贅沢な身なりをした武士が、ボロボロの服のわたくしと三郎に平伏しています。

 皮肉な絵面になりました。


「爺!! 幻滅したぞ!! カツトシ!! よくぞ言ってくれた!! なるほど民を豊にすれば税収が自然に増え、人口が増え兵もつよくなるか。理にかなう!! ははは!!」


「ところで、三郎」


「なんじゃ?」


「ところどころ、でかい支出がありますが、これはなんですか??」


 わたくしは、ところどころに桁が違う支出に気が付きました。

 何に使ったのかわからないようになっています。

 使途不明金です。


「そそそ、それは」


「それは?」


「て、鉄砲じゃ!」


「えっ!?」


「ふふふ、カツトシは知らんじゃろ。わしは、その武器こそ戦を変えると思っている」


「知っていますよ鉄砲くらい。でも、高過ぎです」


「いや、鉄砲は、沢山いるのじゃ。ではない!! なぜお主が知っておるのじゃ。鉄砲のことも、わしが持っておる事も極秘にしておったのじゃが」


「三郎は秘密が好きですね。まあ、鉄砲集めは民が飢えない程度にほどほどにしてください」


「のう、カツトシ。お前、わしの家臣になれ!!」


「あはは、バカな事を、わたくしは商人になる身です。言いましたよね。それに生駒家を裏切ることはできません。ダニーさん、ズラーさん、デェスちゃん。ここにいるとまた三郎が、どんな難題を言ってくるかわかりません、さっさと小折へ帰りましょう」


「すげー」

「カツトシ様すげー! 極秘の武器の鉄砲を知っているし」

「御やかた様をよびすてだし」

「あの御やかた様に盟友と呼ばれているし」

「おやかた様直々に家臣になれといわれているし」

「それを断ったし」

「す、すごすぎるー!!」


 廊下に出ると、三郎の小姓衆がヒソヒソ言っています。

 その目はキラキラ輝き、羨望の瞳です。


 わたくしは三郎と小姓衆達から、逃げるように那古屋城をあとにしました。

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