第二百三十八話 庶民を守りたい
「万千代どうじゃ?」
ボサボサ頭が倒れた子分に近づくと声を掛けました。
「手も足もでませんでした」
万千代は大の字に倒れて、天を仰いだまま言いました。
地面に体が半分埋まっています。
ダメージで動けないみたいです。
当たり前ですわ。
カルッパン族ですよ。
人間ごときが勝てるわけがありません。
「そうか!! ふわあぁぁはっはっはっ!! その2人は強いなあ」
ボサボサ頭が笑いながら馬から下りて言いました。
「ふふふ、2人だけではありません。もう1人デェスという者がいます。その3人が人呼んで十田3人衆です」
「まだ、もう1人いるのか!? 十田3人衆か、すごいのう。まあ、カツトシはたいしたことはなさそうだがのう」
「ひゃはは、ちがいねーダニ」
「ぐっ!」
わたくしはダニーさんに視線をうつしました。
「よし! カツトシ、約束通りおキツはあきらめた。だが、お前はわしの子分になれ!!」
「はーーっ!? 勝ったのはこっちですよ!! なんで子分なんですか! お断りします!」
「なにっ!?」
――こわーーっ!!
ボサボサ頭の目が一瞬で残忍な目に変わりました。
メイヤさんが人を殺すときの目です。
あまり逆らうのは良くない感じがしますね。
「ととと、友達なら、そうです友達ならいいです」
「なにっ! 下郎が!! このわしと友達じゃと! 待てよ、十田3人衆の強さは本物だ――むう――つりあうか。ふむ、よしまあ良いだろう。わしは吉法師じゃ」
吉法師は、頭の中で色々考えて算数をしていたようですが、計算が釣り合ったようです。
むしろこっちの計算が合いませんが、ここは仕方がありません。
目が恐いですからね。
「よし、いいだろうはこっちのセリフです」
「なにっ!」
――うわあぁーーっ!
また、あの目です。
冷たい殺意のこもった目です。
恐いですわ。
やっと起き上がった万千代さんがおろおろしています。
「ふふふ、ふわあぁはあぁーーはっはっ!!」
恐ろしい顔から一転、天を仰いで大きな声で笑い出しました。
とても楽しそうに見えます。
「たたた、たいへんじゃーー!!」
また、吉法師が来ました。
わたくし達は暑いので五条川で水遊びです。
おキツ様も水遊びをしています。
めちゃくちゃ可愛いです。
「なにがたいへんなのですか?」
だいたい、たいへんなんて言ったらマモリ様なら大あわてですわ。
「南尾張のガキ大将と戦争になった。たすけてちょー」
最近の吉法師は、尾張のガキを束ねてガキ大将を目指していましたが、とうとう強い敵と遭遇したようです。
「わたくし達は水遊びでいそがしいのです。他をあたって下さい」
「はーーっ!! カツトシ! うぬぼれるな!! うぬなど必要としとらんわ!! 必要なのは、ダニーとズラーとデェスちゃんだけじゃ!! しかし、おキツはいつみてもかわいいのう」
「おキツ様には手を出さない約束ですよ!!」
でも仕方がないですね。
無邪気に着物を少し持ち上げて、足を出して水とたわむれるおキツ様は可憐すぎます。
「うるしゃー!! ほれ、前払いじゃ!!」
吉法師は腰の荒縄にぶら下げた瓜を3つ川に投げこみました。
「おお、これは瓜ダニー!!」
「瓜ズラー!!」
「瓜デェース!!」
どーにもこの3人衆は瓜に弱いようです。
吉法師はなにか頼み事があると、腰に瓜を3つぶら下げてやって来ます。
「デェスちゃんは残ってもらいます。それでもいいですか」
「いいに、きまっとる!! ダニー! ズラー! いくぞ!! 今日は荒子川で木下藤吉郎というガキと対決だでよう。まけれーせん! いくぞ!!」
行ってしまいました。
実は川にスイカが冷やしてありましたが、これはおキツ様とデェスちゃんと3人で食べましょう。
すでに、こっちにきてから数ヶ月がたちました。
季節は夏になっています。
目の前の清流は五条川と言います。
この五条川は、この尾張国丹羽郡の小折城のお堀の水になっています。
わたくしは、その小折城で十田雄利として、まだ少女のおキツ様のマモリ役をしています。
この先には、岩倉城があり、清洲城があります。
その2つのお城のお堀もこの五条川の水です。
そして、その岩倉城と清洲城の城主が尾張を2分割して支配しているのです。
わたくしは、どこかで頭を強くぶつけてその時、記憶が飛んでしまいました。
記憶が飛んで、こんなところまで飛んでしまったようです。
おそらく、そうとう昔のようにかんじます。
この世界の武士は普通に腰に日本刀をさして歩いていますからね。
吉法師は赤い鞘の高そうな刀を差しています。
「うまいデェース!!」
デェスちゃんが瓜を食べて喜んでいます。
男の子の姿をしていますが、女の子です。
そして、わたくしも女なのにカツトシという男の格好をしています。
だれか、もう1人性別とは違う姿をしている人がいた気がしますが、よく思い出せません。
だれでしたっけ?
「スイカ! 美味しいです!」
おキツ様がわたくしの横にちょこんと座ってスイカを食べはじめました。
おキツ様のお父さんの生駒宗家様のお話では、この国は今、貧困にあえいでいるそうです。
庶民が貧困で食べるのにも苦労をしているようですが、お殿様や上級の武士は贅沢三昧だそうです。
贅沢な暮しをするお殿様のせいで、そこら中で戦争が起きて、庶民はますます貧困が進んでいるそうです。
まるで、異世界の王国のお話を聞いているようです。
「やっぱり、瓜の方がおいしいデェース!! でも、スイカの皮は美味しいデェース!!」
デェスちゃんは、甘いのが嫌いなのでしょうか。
「ほらー、カツトシも食べて下さい」
おキツ様がわたくしにスイカを勧めてくれました。
わたくしも、スイカを口に入れました。
生駒家は武士ですが、商業もしています。
とても裕福です。
こうして、のんびりスイカを食べられるくらいには。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! カツトシーー!! 大勝利じゃーー!! ガキ大将の藤吉郎が泣きながら子分になったー!!」
吉法師がご機嫌で帰ってきました。
まあ、勝つでしょうね。
反則の凶器を使うようなもんですから。
藤吉郎さんがかわいそうな気がします。
「おかえりなさい」
わたくしは、ダニーさんとズラーさんを笑顔で迎えました。
「ふふふ、最後に尾張のガキ共を束ねられてよかった!! カツトシ感謝する」
「えっ!? どういうことですか?」
「うふふ、吉法師様は元服なさるのです」
おキツ様がうれしそうに言いました。
「ふふふ、まあ、そういうことじゃ。わしは元服後に織田三郎信長と名乗ることになるそうじゃ」
「織田三郎!? まさか吉法師は織田家の方だったのですか?」
「ふむそうじゃが、わしは織田家でも下の方じゃ。奉行の出だからのう」
それでもすごいことです。
尾張の織田家とは、ほぼ支配者の一族です。
「でも、そんな人がなんでそんなボロボロの服を??」
「ふふふ、わしはいかっておる!! バカ共が贅沢をするせいで庶民が貧困にあえいでいる。子分のガキ共がみんなガリガリだ! わしは贅沢をせん!! この服は家臣が捨てたボロを仕立て直した物だ!! そして、贅沢をするバカ共を皆殺しにしてやる!! 贅沢などは庶民の暮しが良くなってからでいいはずじゃ!!」
「なるほど!!」
なんだか、マモリ様の考え方に似ている気がします。
――ふふふ、庶民をマモリたい!
マモリ様なら言いそうです。
いい考え方ですわ。
あーでも、あの言い方だと庶民の暮しが良くなったら贅沢をするということですよね。
やり過ぎなければよいのですけど。




