第二百三十六話 大ピンチ
「むう、これはなんだ?」
「これは、わたくし達の一族に伝わる万病に効く秘薬でございますわ」
「ふむ」
ジェイカルさんは包みの上の怪しい白い粉を見つめます。
見つめるばかりで、いっこうに飲む気配はありません。
「ああ、すみません……うっ!」
エイリは指先で白い粉をつまんで口に入れます。
エイリは毒見をしました。
でも、白い粉を口に入れた瞬間に顔をしかめて、声を漏らしました。
それじゃあ、毒見になっていませんよ。
「おおっ!」
ジェイカルさんが驚きの声をあげます。
顔が飲まなくて良かったという安堵の表情になっています。
エイリはその表情を見逃しませんでした。
一瞬意地悪な表情をしました。
「すみません。このお薬、効果は絶大なのですが、お口にまずいのですわ。さて、ジェイカル様は飲む勇気はおありかしら」
エイリが可愛い笑顔になりました。
そして、一言あおりを入れてから、ジェイカルさんに顔を近付けました。
「ふん! 小娘がっ!! 小娘が飲める物を、このオレが飲めないわけがあるか。だいたい良薬は口に苦い物だ。大人のオレは苦い物は得意だ」
ギリッとジェイカルさんは歯ぎしりをしてから言いました。
言い終わると、ジェイカルさんは大きく口を開けて、その口の中に白い粉を全部放り込みました。
「ぐわああぁぁぁぁ……!? ななな、なんだこれは!! 口中にぐにゃりと粘り着いて、ねりょりと酸っぱ味とエグミが広がりおる。こ、こんなくそまずい味は初めてだ……だ、だが、すごい!! 魔導師の治癒魔法では取れなかった首の芯の方の、チキリと痛む痛みが柔らいだ。やや! これはすごいぞ。効果てきめんだ!! 心なしか筋肉が若返ったような……むう、力がみなぎりよる! これは、まことにすごい薬じゃ!!」
「ふふ、それはようございました」
エイリはペコリと頭を下げて、ジェイカルさんに背中を向けて立ち去ろうとします。
でも、ここから見ていると、エイリの目は後ろを気にしています。
「ま、まてっ!!」
ジェイカルさんが呼び止めました。
エイリの顔が「かかった!」という表情になりました。
でも、その顔メイヤさんの顔のようで恐いですよ。
ユウキとノブコの体がビクンとゆれました。
そのくらいこわい顔でした。
「はい。なんでございましょうか?」
「ふむ。お前達は何者なんだ? そしてこの薬はなんだ? 詳しく話を聞きたい。屋敷まで来てはもらえないだろうか?」
エイリは素早くユウキとノブコの顔を見ました。
ユウキとノブコは小さくうなずきます。
私は「危険ニャ!」とユウキの耳元にささやきました。
ユウキはその言葉を聞いて、ニコリと笑顔を私にむけました。
「大丈夫」という意味でしょうか。
3人はノコノコ誘われるままジェイカルさんについていきます。
ジェイカルさんについていくと、街の贅沢な建物の区画にはいりました。
その中でも、飛び抜けて贅沢な家が並ぶ区画があります。
敷地が広くしっかりと高い壁に囲まれお堀まであります。
「オレだ!」
その中でも、とびきり贅沢なお屋敷に近づき、門にいる衛兵にジェイカルさんが言いました。
「あの」
衛兵の目が、エイリ達3人の所で止まりました。
「おお、オレの客だ。失礼のないようにな。ふふっ!」
「はっ! おい!!」
衛兵が言い終わると、手を上げました。
それを見ていた門番が、門についた小扉を開けます。
門の中には、広い庭があります。
庭の中央に石畳の広場があります。
エイリ達が小扉の中に入ると、バタンと素早く扉が閉まりました。
「みなのものーー!! おきゃくさまだーー!! ていちょうにでむかえよーー!!」
ジェイカルさんが、正面に見える大きなお屋敷に声を掛けました。
衛兵と執事、メイドさんがお屋敷からゾロゾロと出て来ました。
少し様子がおかしいですよ。
「フフフ」
屋敷から出て来た人達が不気味に笑っています。
なにか、暗号のような物がジェイカルさんの言葉の中に隠されていたみたいですね。
「全員、オレに強化魔法をかけよ!! ただし攻撃強化はいらない!!」
――はっ、まさか!!
このジェイカルさんは、ひょっとすると、あのバダマ王子の重臣のジェイカルではないのでしょうか?
マモリ玉の効果を無視して戦車を破壊した、あの猛将ジェイカルじゃないでしょうか。
「ははっ!!」
屋敷から出て来た者達が両手を前に出して手のひらを開きます。
パパパッと素早く小さな魔法陣が点滅しました。
「ふふふ、さきほどは油断して不覚をとった。しかし、今は強化魔法を加えた。まあ人数が少ないから、効果は弱いがそれでも先程とはまるで違うはずだ。今一度手合わせを願いたい。おい! 木の棒を持ってこい! もちろん殺す気はない!! どうかな? 恐ければ帰っていただいても良いのだが、ふふふ」
ジェイカルが不敵にいいます。
「でございましたら、その願いをお受けしましたのなら、こちらの願い事を1つ聞いていただきたいのですが」
「ふむ、どの様な願いだ」
「はい。先程のお薬を、売りこむ先をご紹介していただきたいのですわ」
「なに? あれほどの薬なら、誰でも欲しがるだろう。オレの紹介など必要ないだろう」
「うふふ、あのお薬は、お値段が高いのですわ。金貨100枚にございます」
「なに!? それは高いのう。貴族か王族以外には買えんだろう。ふむ、なるほど、そういうことか。合点がいった。良かろう!!」
「では」
エイリが、素手のままジェイカルの前に進み出ます。
ひげづらの大男ジェイカルが木の棒を構えます。
バダマ王子の別邸の中央の石畳で、ジェイカルとエイリがにらみあいます。
「小娘、武器はいらんのか??」
「はい、不要にございますわ」
「ならば行くぞ!!」
ジェイカルが間合いを詰めると、思い出したようにユウキとノブコが両手を前に出しました。
「なっ!! でかい!!」
ジェイカルが声をもらしました。
ユウキとノブコの前に巨大な魔法陣が出ました。
エイリも天に手の平を向けます。
その手の先にも大きな魔法陣が出ます。
エイリの体が輝きます。
エイリとユウキとノブコは、何かの魔法をかけたようです。
エイリの体に魔力の揺らぎが見えます。
ジェイカルの体からはほとんど見えませんが、エイリの体を包む揺らぎは巨大です。
「ふんっ!!」
ジェイカルはすでに攻撃の間合いに入っています。
力を込めて木の棒を前に出しました。
――いけません!!
ジェイカルの攻撃は戦車でも破壊されます。
エイリはそれを知りません。
ジェイカルの木の棒の先はエイリに近づきます。
エイリは全くよける様子がありません。
もう数センチの所まで近づきました。
さすがに今よけなければ当たってしまいます。
まさか、数ミリでよけるつもりなのでしょうか。
ズゴンという音がしました。
エイリのひたいに木の棒の先が。
木の棒の先が。
当たっています。
――まさか、防御強化でダメージがないということなのでしょうか?
「えーーっ!!」
ユウキとノブコの声がします。
すごく驚いています。
「ノブコちゃん、なんの魔法を使ったのですか?」
「え、あ、はい。わ、わたしは、全ステータス弱体化です。ユウキちゃんは?」
「げっ! 私も弱体化です。だって、そのままだとジェイカル様を殺してしまうと思ってー」
「わ、わたしもです。エイリさんも魔法を使っていましたが、まさかあれも」
――ぎゃーーっ!!
3人そろって、特大の弱体化魔法を使ったようです。
ひょっとすると、エイリは動くことも出来なかったのではないでしょうか。
エイリは強烈な一撃をひたいに受けて吹っ飛んでいます。
大丈夫でしょうか。
まったく、この3人はそろいもそろってポンコツなようです。




