第二百三十四話 バカ王子
「ゲンバ元帥はどこだ?」
テムジンの生誕地近くにある、アッガーノ王国ユーラシア大陸軍総司令部に移動したバダマ王子は、最高責任者ゲンバ元帥に会見すべく総司令部を訪問しました。
司令部の外の広大な草原には、仏国から続々兵士が撤退してきます。
「あっ、バダマ様。ゲンバ元帥は、ただいま日本の現地司令部に出張中であります」
事務方の女性兵士が答えました。
「日本だと!?」
「はい。司令官が不在なので、元帥みずから司令官代行をしています」
「おんな! 案内しろ!!」
「ぼっちゃん!! また、わしぬきで取り巻きだけを連れて行くつもりですかな」
ジギンゲンさんが苦虫をかみつぶしたような顔で言いました。
そう言えば、前回はがらの悪い若い兵士と来ていましたね。
ジギンゲンさんは部下の兵士がいないときには、王子の事をぼっちゃんと呼ぶのですね。
バダマぼっちゃんは、きっとジェイカルさんとジギンゲンさんに、わがままいっぱいに育てられたのでしょう。困ったものです。
「ちっ! わかった、わかった。じいと一緒に行くとも」
「ふふ、それがよろしいでしょう。おっと、その前にゲンバ元帥が代行しているのなら、その前の司令官はどうしたのだ?」
「あ、はい。前の司令官はゾユール様でしたが、勝手に実家に帰ってしまいました」
ゾユール司令官は、挨拶に来た地球防衛義勇軍の黒いカッパのダニー隊長に、失礼な態度を取ったのでお仕置きをされて、部下の猛将ゼハレットを殺され、恐れをなして逃げ帰ったのでした。
「ひゃぁーぁーはっはっはっ!! ゾユールなら知っている。伯爵家の馬鹿息子だ。あんなバカでつとまるのなら、さぞかし日本は楽な現場なのだろうなあー! ひゃあーぁあーはっはっはっ!!」
「なるほど、ゾユール様ですか。ぼっちゃんの次の任務地は、バカでも務まる日本の司令官ということですな」
この2人は我が身をかえりみることは出来ないようです。
まいりました。
「では、ご案内します」
「おおおおーーとっ!! ここで、真っ黒なサムライが現れましたーー!!」
日本の司令部の作戦室で、ユーラシア大陸軍の総司令ゲンバ元帥はモニターを見ています。
見ているのは、マーシーさんの幻覚チャンネルです。
おーーっと! 視聴回数は億を越えています。
「レクレタ!! すごいぞ!! 今度は真っ黒なサムライだ!!」
「ほんとうですわ!! なんだか、かっこいいです!!」
出来る秘書のようなレクレタさんが頬を染めます。
「おおーーっと、すきをつき馬の尻から。なだれ式の垂直落下パイルドライバーだーーっ!! きまったーーーー!!!!」
「すげーのう、ありゃあバカ王子の所のジェイカルだろ。あいつに勝っちまうのか」
「ひっ!!」
レクレタさんが、横にいるバダマ王子に気が付きました。
いつからいたのでしょうか。
ジギンゲンさんもいます。
二人ともこめかみの血管がピクピクしています。
丁度ゲンバ元帥の後ろに立っていますので、ゲンバ元帥はまだ気が付いていません。
「まったくよー!! シュバーリが無能とはよく言ったもんじゃ。あの男はユーラシア大陸軍の10傑の一人じゃ。超優秀なんじゃよ! ひっひっひっ!! 見ろジェイカルがパンツ1丁で走っておるぞーー!! ひゃぁーーはっはっ!! 無能はテメーラの方じゃろうがよ! 人の価値は生まれじゃないんじゃ! 実績なんじゃよ!! コツコツ、コツコツ積み重ねた実績なんじゃよ!! それを貧民出だからとバカにしおって!! シュバーリが勝てない相手にお前達が勝てるものかー!!!!」
ゲンバ元帥はシュバーリことケイマさんが、バカにされたのがよっぽど許せなかったのですね。
ケイマさん、よかったですね。
「げげげげ、元帥!! げん…… うしろ……」
レクレタさんが青い顔で、よこのバダマ王子を気にしながらゲンバ元帥に呼びかけます。
「ひゃぁーはっはっはっ!! おもしれー!! おや、もう終わりか!! もう1回最初から見よう!! 今度はバカ王子の間抜けづらを、中心に見ることにしよう」
「ほう。バダマ王子の顔はそんなに面白いですかな?」
「おおっ!! ジギンゲンか。面白いぞ!! あの間抜けな顔はよう、腹をかかえて笑える!! あんたも見て見ろ!! んっ??」
「……」
ジギンゲンさんが、とうとう我慢出来ずにゲンバ元帥の前に顔を見せました。
「ジジジ、ジギ、ジギン、ジギンゲン!?」
丁度モニターにジギンゲンさんの顔が表示されました。
ゲンバ元帥が、人差し指でモニターとジギンゲンさんの顔を交互に指さします。
「俺様もいるぞ。ゲンバ元帥!!」
「バ、バ、バババ、バッ……バカ王子!!」
ぎゃーーっ!! ななな、なんて言い間違いをするのでしょうかーー!!
バダマ王子ですよーー!!
よりによって、1番駄目な言い間違いです。
「ぷひぃぃぃーーーーーぴぃぃぃぃーーー!!!!」
レクレタさんが口を押さえましたが、横から空気が全部出ました。
横でジギンゲンさんまでこらえきれずに笑っています。
「まあ、笑われてもしょうがねえ!! 今回だけは不問にいたす! ゲンバ元帥、すまなかった。英国軍を甘く見すぎた。シュバーリ殿が負けた時点で、相手の実力をもっと評価するべきであった。この通りだ!!」
バダマ王子が頭を下げました。
すごいです。
ここだけ見たら、出来る王子様です。
見た目も、まあまあいい男ですから。
「ふむ。まあ、最初からあてにはしていない。損害はバダマ王子の私兵だけじゃしな。よい勉強になったであろう」
ゲンバ元帥は、言いたい事をそのまま言いました。
すごい人です。
王族でも平気のようです。
「……」
バダマ王子は、その場を動きません。
そうですね。
このまま、日本の司令官をやるつもりですから、まだ帰らないでしょうね。
「むっ!? どうなされましたかな。もう下がってもよろしいですぞ」
バダマ王子がジギンゲンさんを肘で突っつきます。
「ゲンバ元帥!!」
「ななな、なんですかな? ジギンゲン殿」
「バダマ王子に名誉挽回の機会をいただけないでしょうか」
「と、言われましても、手は足りております。お2方ともお疲れでしょう、王国に帰ってゆっくり体を休めて下され」
「なっ、なにが、手が足りているだ。元帥みずから司令官代行をするほど、手が足りていないではないか!」
バダマ王子が口をはさみました。
「なるほど、この日本の司令官を、やっていただけると言うことですかな」
「ふふふ、そうだ!!」
「ふーーむ! しかし、ここは、いささか難しい状況でしてな」
「なにを言う。ゾユールがやっていたのであろう。ゾユールにできるのなら、俺様にならたやすい。日本など数ヶ月で征服してやる」
「しかしのう……」
「ふん! ならば、俺様、王族からの命令だ。日本司令部の司令官はバダマをこの俺様みずからが任命した。今から司令官はこの俺様だ!!」
「まあ、王族の命令ということなら、何も申し上げることはございませんなあ。せいせい慈悲のある行いをして下さい」
「ひゃあーはっはっはっ!! ジギンゲン! 今日から日本の美女で楽しもうぞ!! ひゃああぁぁぁーーはっはっはっ!!!!」
どうやら王子の目的は、日本をじゅうりんして楽しむ事のようです。
美女は楽しみ、それ以外は虐殺するつもりなのでしょう。
最低です。
ゲンバ元帥が、慈悲を持ってと言ったのにもう忘れてしまったようです。
「いくぞ! レクレタ!」
「はっ!! でもよろしいのですか?」
「しかたがなかろう。王族様からのご命令じゃからのう」
「ぷっ!! くくくっ!!」
ゲンバ元帥とレクレタさんが悪い顔で笑っています。




