第二百二十九話 実験
澄みきった地底湖の中に、純白と濃い緑色の大型の龍が沈んでいます。
龍は死んだようにピクリとも動きませんが、目玉は見開かれ一点を凝視しています。
その視線の先には、幸魂女学園の制服を着た人間が、石を椅子にして座っています。
突然、この光景を見せられたらきっと「かわいそうに、一人の少女が龍の生けにえにされたのね」そう思うことでしょう。
でも、良く見てください。
純白の龍も濃い緑色の龍も、その目には力が入っていません。
とてもリラックスしているのがわかります。
そうではありませんね。
その目は、まるでたまごから孵化したばかりのひよこが、初めて見た親を見る、そんな目をしています。
龍は誰にも見られない場所でひっそり脱皮をするそうなのですが、あんがい脱皮とは、ふかに似た現象なのかもしれません。
2名の龍が水の中から、今にも「おかあちゃーーん」と言って出て来そうに感じます。
マモリ様の瞳は、そんな龍をじっと見ているようで、見ていないようでもあります。
「あの、姫様」
わたしも、他の方々のようにマモリ様を呼ぶ時は、姫様に改めました。
最近は、そう呼んでも普通に返事をしていますので、きっとそう呼ばれたいのだと思いますので。
「あっ、はい」
マモリ様は一瞬体をビクリと動かして返事をしました。
「話を続けてもよろしいですかニャ?」
「す、すみません。僕は星空のもとで、襲いかかる敵兵を自慢の棍で、次々となぎ倒すゲドル大将軍の雄姿を、頭の中でずっと見ていました」
「それニャら、もう少し静かにしてみますかニャ」
「いいえ、次のお話をお願いします」
「ふふふ、この空母は、わが英国軍がほこるジブラルタル級正規空母じゃ。極秘で建造しておったものが就航したもので、最新鋭最大級の空母じゃ。艦上機が同時に6機発着出来る。どうじゃすごいじゃろう」
閣下が鼻の穴をピクピクさせて言いました。
「ここにおりますと、海の上とは思えませんなあ。まるで海面が見えません」
ファルコンが言いました。
ファルコンはいま大西洋、英国海峡を南下する、ジブラルタル級英国正規空母の飛行甲板の上にいます。
まわりには、護衛艦や戦車揚陸艇などが並走していますが、ここからその姿は見えません。
見えるのは見渡す限り青空だけです。
仏国の首都奪還のため、仏国上陸作戦を遂行中です。
そう、ノルマンディー上陸作戦です。
「閣下、偵察してきた敵の状況がまとまりました。作戦司令室の方へお越しください」
海軍の兵士が、閣下に言いました。
「ふふふ、ファルコン殿。行きますかのう」
「は、はあ」
「なんじゃ、その気のない返事は?」
「いやあ、わたくしは、場違いではありませんか?」
「何をいうのじゃ。そもそも、この作戦は、マモリ玉なくしてはなりたたん。がっつり、地球防衛義勇軍にも働いてもらわねばならん。場違いなどあろうはずがなかろう!!」
「で、ありますかな」
「そうじゃとも」
二人は並んで空母の飛行甲板を歩いて行きます。
「侵略軍は、海岸線を捨てて首都と海岸線の中間の街を要塞化しております」
「じゃろうのう。制海権も制空権も持たず、陸軍だけで戦いおるからのう」
空母の作戦司令室のモニターに、英国南部から仏国の首都までの拡大された地図が表示されています。
敵侵略軍は、仏国首都に主力部隊が、海岸線と首都のほぼ中間の街に防衛部隊が表示されています。
「ファルコン殿、すごいもんですなあ。この玉は」
「艦長、それこそが、わが軍の最高機密、秘密兵器じゃ。あまり外に出さんようにのう。落とすと探すのがたいへんじゃ」
艦長と呼ばれた初老の男の人が、銀色のチンコ玉を裸のまま、つまんで目の前で見つめています。
「海軍でも、調べたのですが何をどう調べても、ただの鉄の玉でした。いったいどういう仕組みでこれ程の効果が出ているのか探り当てることは出来ませんでした」
「閣下、マモリ様のチンコ玉に、そのような事をなされていたのですか?」
ファルコンの顔が凶悪に変化します。
ファルコンファミリーのボスは、怒らせると恐いですよ。
「いや、ファルコン殿、気を悪くせんでくれ。詳しく調べねば、実戦ではどこまで信頼していいのかわからない。必要な事なのじゃ」
「た、たしかに、そうでありますな」
ファルコンは一瞬出した恐ろしい顔を、引っ込めて冷静な顔にもどしました。
ファルコンが冷静な顔をしていると、どこからどう見ても英国紳士です。
「ファルコン殿も知っておいた方がええじゃろう。少し説明してくれんか」
閣下は、横にいた髪を後ろでまとめた、秘書のような軍服の女性に言いました。
「はっ! では、私の方からご説明いたします」
秘書さんは、パソコンを操作しました。
モニターの表示が切り替わります。
映像は、駆逐艦や戦車、航空機が次々表示されます。
その兵器が、様々な攻撃を受ける映像が次々映し出されます。
「驚いた事に、駆逐艦は魚雷攻撃に耐えています」
駆逐艦に次々攻撃機が雷撃を仕掛けます。
そして、爆撃も始まりました。
別の駆逐艦からのミサイル攻撃もはじまります。
「見てください。この攻撃を……ですがその全ての攻撃が、駆逐艦を傷付けることができませんでした」
「す、すごい」
ファルコンが、目をまるくして見つめます。
「まさか、ファルコン様は知らなかったのですか」
「ふむ、駆逐艦は持っていないからなあ。まさかこれほどとは」
「うふふ、驚くのはまだはやいですわ。この駆逐艦には、チ、チチ、チン、チンチンコ玉は。はうっ」
秘書さんは、真っ赤になってうつむきました。
「ふふふ、お嬢さん、無理してチンコ玉などと言わずに、マモリ玉と言ってください」
「いえ、正式名称で呼ばなければ神聖な、この玉に失礼になります。では、あらためまして、チチチ、チンチンコ玉は、この駆逐艦に艦長が1個だけ持って乗船していただけです」
結局言えていません。
「なんですと、この大きさの船を1個のチンコ玉で。するとこのでかい空母も1個で守り切るかもしれませんなあ」
「うふふ、ポチッとな」
秘書さんはパソコンのキーボードを人差し指で入力しました。
モニターには、この空母が表示されました。
空母のまわりには駆逐艦や、ヘリコプター、攻撃機や爆撃機、戦闘機までいます。
それが、一斉に火をふきます。
空母が見えなくなるほどの、爆発や水しぶきが上がりました。
なんて実験をするのでしょうか。
「うおおおおぉぉぉーー!! こ、これはすごい!! すごい攻撃だ。さすがにこれでは、もたないでしょう」
爆煙と水しぶきが収まります。
「くすっ」
秘書さんがファルコンの顔を見て笑います。
「ぐはあっ!! 驚き過ぎて、息が出来なかった!! すすす、すごすぎる。すごすぎるぞーー!!」
「この時に、この空母にあったのが、この私が持っているマモリ玉1個でした。驚いた事に空母には傷1つ付いておりませんでした」
艦長が自分の子供を見るような目で、チンコ玉を見つめます。
「あららっ!!」
艦長の手からチンコ玉がポロリと落ちました。
「だから、いったじゃろう!! さがせーー!! さがせ、さがせーー!!」
少し暗い作戦司令室に転がったチンコ玉は、探すのに苦労しました。
皆がチンコ玉を探している時にわたしは、モニターを見つめていました。
モニターをじっと見ていると、空母から空気の揺らぎのような物がみえます。
マモリ様の魔力が盛大に消費されていますね。
こんな所で、実験の為にマモリ様の魔力が消費されています。
これじゃあマモリ様の魔力が減っていくわけですね。
納得です。
「驚くのはまだ早いですわ」
秘書さんはもう一度ポチッとなをしました。
「えっ、まだあるのですか」
「これは、戦車の映像です」
戦車に兵士が数人乗っていて、それぞれ武器を構えます。
「おおっ!! こ、これは」
「これも、チチチ、チンチンコ玉は、車長の持つ1個だけでした」
砲撃と、機関銃が同時に発砲されます。
「なるほど、1個のチンコ玉で、戦車にある全ての火力の威力があがると」
「はい。つまり、わが軍のチチチ、チンチンコ玉は2000個ですが、2000個以上の効果があるのです」
「閣下、おっしゃる意味がわかりました。実験をしなければ知らずにいるところでした」
「ふむ、今この空母は、世界最強の防御力と攻撃力を持った。かつての大英帝国のように世界中の海を、わが国の国旗で埋め尽くす事も出来るのじゃ。わああはっはっはっ……あれっ」
閣下は、全員の冷ややかな視線に気がついたようです。




