第二百二十八話 ワシの名は
「とまれーー!!」
ゴルザード砦から真っ直ぐ東の魔王城へ向かう街道を、3万の軍勢が進軍しています。
一糸乱れず進む軍勢は美しさを感じます。
その3万の軍勢の先頭を進軍する騎馬隊が、砂塵を巻き上げて近づく騎馬に気が付きました。
砂煙を上げて猛スピードで近づいて来る騎馬に、先頭を行く将の近習が全速で駆け寄り進路をふさぎました。
「こら、こら。我が軍の斥候だ!! 旗を見ればわかるだろう。斥候からの報告は最優先だ。いちいち止めるな!! 止めた分だけ報告が遅れる」
言ったのは、この魔王軍の最高責任者ゲドル大将軍です。
「はっ!! 申し訳ありません!」
近習は頭を下げると、進路を開けて斥候を解放しました。
「ほ、報告します!!」
斥候は、馬を降りてゲドル大将軍に近づくと、ヒザを折り1礼をしました。
「ふむ、しばし待て」
「はっ!」
「ダラム、ちょうどいい頃合いだ。報告を聞く間、全軍に少し休憩を取らせよ」
「ははっ!!」
ガヨツダラム将軍がピカピカ光る頭を下げました。
頭をあげると、大きく息を吸い込みます。
「ぜんぐーーーーん!! とまれーー!! これより休憩に入るーー!! 皆水分を取り、体をやすめよーー!!」
「とまれーー!! 休憩だーー!!」
ガヨツダラム将軍が言い終わると、その言葉を各部隊の隊長が後ろに伝えます。
ゲドル大将軍は後ろを見て、進軍が止まるのを確認してから1度うなずきました。
「よし! 聞こう!!」
「はっ!! 報告します!」
「うむ!!」
「敵、王国軍の砦を発見しました。砦はここより20キロほど先の、街道横の丘にあります」
「ふむ、敵の様子はどうだ」
「ははっ!! 見張り台の監視が居眠りをしておりました」
斥候は言い終わるとニヤリと薄気味悪い笑顔を作ります。
「ふむ、して砦を守る兵士の数は?」
「その数およそ1500ほどです」
「なるほどのう」
そう言うとゲドル大将軍は目を閉じて、閉じた目のまま顔をあげました。
すでにゲドル大将軍は、頭の中で王国軍の砦に近づき砦の様子を見ているようです。
「グゼル、どう思う?」
ゲドル大将軍は、横にいるインテリおやじ、軍師のグゼルさんに不意に声を掛けました。
「ふふふ、我が軍は電撃作戦の最中です。それがよろしいかと」
長い付き合いなのでしょう、ゲドル大将軍の言いたい事はすべて分かっているようです。
「よし、グゼル。軍はまかせた。わしは、今夜騎馬隊で夜襲をかける。ダラム!」
「はっ!!」
「騎馬隊だけで砦を奇襲する。準備をさせよ」
「あー……え、えーっと! 馬は250頭ほどしかいませんが」
「そんなことは知っておる。おお、そういうことか。さすがダラムだ。そうだ、50頭は連絡用に置いていく。騎馬隊200の決死隊をただちに編成せよ!! 命知らずの精鋭だけでな!! ふっふっふっ」
ゲドル大将軍の顔に表情がなくなりました。
表情は無くなりましたが、目が一点を見つめ見開かれています。
「ははっ!!」
ガヨツダラム将軍がつるつるの頭をピシャリとたたき返事をしました。
250騎では少ないと言おうとしたのではないでしょうか。
でも、そのおかげで200騎に減ってしまいました。
それでも、頭を叩いたあとは気合いが入ったのかうれしそうに笑っています。
「ふふふ、ダラム! 風が強いのう」
街道を進む200の騎馬隊は明かりを付けずに進軍します。
北からの強い風が吹きあれます。
「良い風ですなあ。大森林からうまい空気が流れてきます。それに、ひづめの音がかき消されます」
「さて、どこで気付くかのう」
「ふふふ、まったく気付かれないかもしれませんなあ」
「ふむ、そうねがいたいものだ。ふふふ、ダラムよ」
「はっ!」
「思えば、魔王様が亡くなってからは、逃げてばかりだったのう。だが、さすがは魔王様だ。すでに復活されておったとはのう」
「はい、さすがです」
「後ろに魔王様がいることがわかっていれば、命をすてて戦う事ができる。今日は命をすてて戦おうぞ」
「ふふふ、はっ!」
ガヨツダラム将軍もすでに腹が決まっているようです。
余裕で笑っています。
「ほ、報告します!!」
「おう!! なんだ!!」
「見えました。あれが敵王国軍の砦です」
夜空は暗いのですが、それでも星が有り少し明るくなっています。
そこに、光をすべて奪うように真っ黒な砦の影が浮かんでいます。
「明かりがついていないのう。まさか無人なのか?」
「ふふふ、見張りを残して全員眠っているようです」
「よし。こっちから砦が見えるということは、向こうからもこちらが見えるということだ。ここからは草むらを進む。敵に気が付かれたら号令は掛けない、おのおので判断し全速力で突撃だ」
「……」
全員無言でうなずきました。
「ダラム、これが侵入防止用の柵なのか?」
ゲドル大将軍が小さな声で言いました。
「はっ!!」
「見張り台の兵士は、眠り薬でも飲まされたのか?」
「ふふふ、いいえ」
「よし、わしが右をうつ、ダラムは左だ。外すなよ」
ヒュッという音が2回すると、見張りの兵士の胸に矢が刺さりました。
「ダラム、ひょっとすると、大勝できるかもしれない。東へまわって150騎で退路に伏せておけ」
「えっ!?」
「さっさと行け!!」
「はっ!!」
「残った兵は、わしに続け」
ゲドル大将軍はダラム将軍の姿が見えなくなると、柵にヤリを引っかけました。
「いくぞーーーーっ!!!! うおおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!
柵に掛けたヤリを気合いと共に真上にあげます。
柵が破壊され、宙に舞い上がりました。
魔王軍の大将軍には、なんの役にもたたなかったようです。
何十メートルにも渡って破壊されました。
「よいか、東に退路を作りながら、なるべく大勢敵をうちたおすのだーー!! いくぞーー!!」
「わああぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
砦の中が騒がしくなりました。
「な、なんだーー!? なにがあったーー!? さわがしいぞーー!!」
少し立派な寝所から肌着の男が出て来ました。
少しだけ見えた寝床には、裸の女性の姿もあります。
「ばかめ、今頃めざめたのか! ちっ、戦場でお楽しみか! いいご身分だなー!! てめーが指揮官か??」
ゲドル大将軍が、男にたずねました。
「き、きさまは、な、なにものだーー!!」
男はゲドル大将軍の質問には答えずに言いました。
「はあぁぁーーーーん!! わしかー! わしはなあぁー、わしの名は……わしの名はなあぁ」
ゲドル大将軍は、素直に答えずに持っているヤリで肩をトントン叩きます。
「くそーーーっ!!!! であえーー!! くせものだーー!! であえーー!!!! くせものだーー!!!!」
兵士は、鎧を付ける間もなかったのか武器だけを持って、ゲドル大将軍を囲みます。
ゲドル大将軍は馬上で、いまだヤリで肩をトントン叩いています。
「これは、名刺代りだ! 受け取れ!! いくぞーーっ!!」
「ぐわああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
囲む兵士が一瞬で数十人吹き飛びました。
ゲドル大将軍は集る兵士を次々打ち倒します。
「げぇぇぇーーっ!! ま、まさか!! あれは、千手槍操!!」
「ほう、わしを知っているのか? さあ、ドンドン集れーー!! ダラムがその分、楽になる! うおおぉぉぉーーーーっ!!!!」
ゲドル大将軍のまわりに、たおれた敵兵が山になっていきます。
「くそーー!! 撤退だーーっ!! 相手が悪い! あいつはゲドルだーー!! にげるぞーー!!」
「おいおい! わしを呼び捨てにするな!! ばかめ! 逃げられると思うのか!!」
ゲドル大将軍は敵将が背を向けた瞬間に、その背中にヤリを突きたてました。
「ぜんぐーん!! 敵は背をむけたーー!! 討ち取りまくれーー!!」
ゲドル大将軍が号令を掛けます。
「ガヨツダラム将軍!! 敵兵が来ました!!」
「よーーし!! 一人も通すなーー!! って!! おい!! 逃げてくる兵が少ないぞ??」
「この戦いは、ゲドル大将軍が大勝利をおさめましたニャ」
「そうですか。さすがはゲドル大将軍です」




