第二百二十四話 震える背中
「あ、ああっああああぁぁあーー」
ユウキが震える声を出しています。
何があったのでしょうか。
「こ、これは、失敗しました。ついわれを忘れて本気を出してしまったので、ユウキ様が成長されているのですね」
メイヤが冷静に言いました。
どうやら、ユウキは少し大きめの成長をしているようです。
ユウキの体が金色に輝いています。
メイヤの本気の攻撃を止めた効果で、ユウキは急成長している様です。
かなり強くなっていたはずですが、メイヤの本気の攻撃はまた別格のようです。
「せ、成長ですって!?」
ユウキ以外のキュートル戦士がメイヤを見ました。
マスクをしていますので顔の表情は見えませんが、きっとギラギラした目で見つめていることでしょう。
「ふー、私はこちらの世界にあまり影響を与える事が許されていません」
ため息をつきながらメイヤはヤレヤレの仕草をします。
「えっ!?」
キュートル戦士達はメイヤの言葉に驚き、さみしそうにうなだれました。
「ですが、少しくらいならいいでしょう。特別ですよ。そこのエルフ族の族長が目をさますまでくらいなら、お相手いたしましょう」
メイヤの両手が黒いモヤをまとい、真っ赤な稲妻が音を立てて飛び散ります。
その言葉でキュートル戦士達がメイヤを囲みます。
強烈な悪党を囲む5人のヒーロー戦隊に見えます。
メイヤが、手招きをしました。
「はああああぁぁっぁっっっぁぁぁああああああーーーーー!!!!」
5人がメイヤに向かって走ります。
「ふふふ……」
メイヤがめずらしく笑顔で笑います。
でも、顔に影が落ちてとても不気味で恐怖を感じます。
ふつうに悪の組織の親玉です。
テレビなら最終回の戦いのようです。
「きゃああああぁぁぁーーーー!!!!」
ユウキが胸に一撃をもらいました。
「うおっ!! メイヤめ! なんて容赦のない攻撃をするんだ!! あれでは死んでしまうぞ!!」
エイゼン様が猛烈な勢いで飛んでいく、キュートルブルーを目で追いながら言いました。
大森林の巨木の中にキュートルブルーが飛ばされると、大森林の中に轟音が続きます。
同時に、木々がきしめきながら次々倒れます。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
「ぎゃあああーーーーっ!!!!」
「きゃああああぁぁぁーーーー!!!!」
「きゃっ!!」
キュートルホワイト、キュートルブラック、キュートルグリーン、キュートルイエローの順で大森林に噴き飛ばされます。
キュートル戦士達はメイヤの動きを見きれないようです、全員まともに攻撃を受けました。
「なななななな……」
エイゼン様がくちびるを震わせながら驚いています。
大森林の木が次々倒れます。
「驚きましたねえ。全員、私の攻撃を耐えてしまわれるのですねえ」
メイヤも驚いているようです。
でも少しにやけています。
まあ、メイヤが本気と言っても、冥界魔法の冥装を使っていません。
本気の本気の攻撃ではないという事ですけどね。
「はあああああぁぁぁぁーーーーー!!!!」
大森林の中から、キュートルブルーが弾丸のように飛んできました。
メイヤに攻撃をしようとしています。
「がふっ」
でも、やはりキュートルブルーの攻撃はメイヤに届きません。
再び大森林に飛ばされます。
次々、キュートル戦士達が代わるがわるメイヤに向かって行きますが、全員返り討ちにあって大森林に押し戻されます。
「やれやれ、もうあきれて驚くのも馬鹿らしくなってきたわ。姫様や、あの者達は強すぎる、本当に何者なのだ?」
「うふふ、あの者達は、勇者エイゼン様のパーティー仲間以外の何者でもありませんよ。正義の勇者エイゼン様の正義の為なら、お力になる存在です」
「ふふふ、そうか。やはり明かしてはもらえないか。まあいいさ。あの者達がいれば、俺様は本当の正義の勇者エイゼンになれるのかもしれないなあ」
「そうですよ。エイゼン様が正義の為に行動するのなら、本物のエイゼン様だって許してくれるはずです」
この会話の間にもキュートル戦士達が、何度もメイヤに向かって行き、弾き飛ばされます。
まるで、球技の壁打ちのようです。
「うっうううぅぅぅぅ……」
どうやら、時間切れのようですね。
エルフ族の族長ギデルさんがお目覚めのようです。
「皆さん、お楽しみの所申し訳ありませんが、お目覚めのようです」
僕は少し大きめの声で言いました。
「ふおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!! ここここ、これはすごいのじゃーーーー!! もう成長などはあきらめておったのに、ワラワが……ワラワが成長しておるーー!!」
キュートルホワイトのシラタキ様が金色に輝きながら、両手を見つめて震えながら歩いて来ます。
「わ、わたくしもです。もう上限まで達していたと思っていましたのに。うっうぅ」
キュートルブラックのマッチャさんが、シラタキ様と同じように金色に輝きながら、両手を見つめて震えながら歩いて来ます。
「うふふふ」
その後ろからキュートルスリーが金色に輝き、笑いながらスキップで近づいて来ます。
「姫様!」
メイヤが僕を見ました。
どうやら、メイヤにはバレたようですね。
僕は、メイヤの攻撃で失神しない程度に、全員の防御力を高めるように、小指の紋章に魔力を込めていたのです。
おかげで、魔力が少し減少しました。
――??
あーーっ!!
メイヤの奴、どさくさにまぎれて、姫様と呼びやがりました。
ふーーっ、もういいや。
あきらめました。
「くそーーっ!! くそーーっ!! なんなんだー! お前達はーー!!」
ギデルさんが言いました。
「あら、この方をご存じないのですか?」
ノブコが、エイゼン様を手の平で示します。
「ふんっ!! われらエルフ族が下等な人間族の事など知るかー!! 知ってたまるかー!!」
「そうですか。では、質問を変えます。勇者エイゼンという名をご存じありませんか?」
「お前はバカなのか! その名を知らぬ者がこの世界に存在するかー!! エルフ族の子供達は物心ついた時に、最初に教えられるのが勇者エイゼン様の伝説だー!! バカめ!! あの偉大な御方の名を知らぬ者がいるはずがない」
エルフ族の族長ギデルさんが、まるでエルフ族の英雄を自慢するように胸をそらせて言いました。
「おかしいですね。勇者エイゼン様は人間ですよ」
「うるせーなー!! それがどうしたというんだ!! お前のいうことは、いちいち意味がわからねーんだよ!! いったい何が言いたいんだよーー!!」
ギデルさんが開き直りあぐらで座り、悪態をつきはじめます。
「うふふ、それではよく聞いて下さい。あなたの目の前にいる御方こそ、伝説の勇者エイゼン様ですわ」
「ふん、なんだ! そんなことか――そそ、そ、そんなこと、そんなことーーっ!! えーーっ!! えーーっ!! まっ! まさか、まさか! そんなこと!!」
「俺様が勇者エイゼン様だ!!」
うーーん、勇者エイゼン様はきっとそんな言い方はしませんよ。
もっと控えめに「僕が、その、エ、エイゼンです」くらいの言い方のはずです。
「なっ!! はっ!! ははぁーーっ!!」
ギデルさんが平伏しました。
「うふふ。こちらの勇者エイゼン様が、ヒザを汚してまで非礼をわびて、あなたの許しをこいました。でありましたのにあなたは、エイゼン様に失礼の数々、断じて許すことができません。つきましては、あなた達エルフ族の支配者である龍王様の謝罪を要求します。猶予は1ヶ月、その間に謝罪がなければ、勇者エイゼン様が龍王様の覇業の障害になることでしょう」
「そ、そんな! 龍王様は関係ないはず」
「でも、あなたの謝罪では、勇者エイゼン様の謝罪と釣り合いがとれませんよ。どうするのですか? 見てください。この森を」
ノブコは大森林を指さしました。
「なっ!? な、な、なんてことだーーっ!!」
ギデルさんが視線を、ノブコの指さした方に向けました。
大森林の巨木が薙ぎ倒されて、見渡す限り真っ青な空が見えるようになっています。
「ふふふ、これが勇者エイゼン様のお力です。ほんのちょちょいのちょいで、このありさまです」
「……」
ギデルさんは地面に額をつけました。
まるまった背中が震えています。
自分のしでかしたことの重大さに気が付いたという事のようです。




