第二百二十話 正義の為
「ぐわああぁぁぁーーーー!!!!」
勇者エイゼン様が悲鳴を上げます。
「くっくっくっ」
エルフとオークのお姉さん達が笑います。
「くあぁぁ! マモリちゃんや! もう少しましな味にはならんもんかのう」
「全く、だまって食べるのじゃ。このマモリ粉乳は、体にはいいのじゃからのう。ぐはっ、だめじゃまずいのじゃ!!」
僕達は、国境を越えて何度目かの晩ご飯を食べています。
僕の出す食料は、今ではマモリ粉乳という名誉な名前が付いています。
日本人の栄養失調を救ったあの食品由来の名前です。
「ふふ、エルジッタ様こそ、マモリ様に失礼ですわ」
「これ、ジャスよ! ワラワはシラタキじゃ!」
「こ、これは、申し訳ありません。シラタキ様! でも、わたくしもジャスではなく、マッチャです」
「あの、私はエルフ族のナバッテと申します。直接話しかけるなど、恐れ多きことにございますが、エルジッタ様とは龍族の白龍、長老のエルジッタ様でございましょうか?」
「ふ、ふむ。そうじゃ。じゃが、エルジッタという名はすでに亡霊の名じゃ。ワラワの名はシラタキじゃ」
「で、では。ジャス様とはあの有名な破壊龍、ジャス様でございましょうか?」
えっ?? 破壊龍??
ジャスさんが破壊龍?
「うふふ、破壊龍ジャスは既に返上した名前にございます。今はマッチャでございます」
「ふ、ふぇっ!! こ、これは、失礼しましたー!!」
エルフとオークのお姉さん達が、座っている石から飛びおりて、地面にヒザをつくと頭を下げて平伏しました。
「これ、やめるのじゃ!! さっきも言ったとおり、すでに白龍エルジッタは死んだ事になっておる。そして、ジャスも今頃は死んだ事になっておるじゃろう。生きておるとわかれば、龍族から刺客が送られてくる。死んだままで良いのじゃ」
「あの、どういうことでございますか?」
「ふむ、説明しておいた方がよいな。いいかよく聞くのじゃ。龍王は既にこの大森林の統一を決断した。龍王には西の盟主様と魔王との不可侵の盟約があった。じゃが、盟主が死に魔王が死んで、その盟約も意味がなくなった。じゃがのう、龍王は動かなかった。その理由はただ一つ伝説の勇者エイゼン様の存在じゃ。あの龍王が勇者エイゼン様を恐れておったのじゃ。しかし龍王は、勇者エイゼン様も死んだと判断したのじゃ。このままでは、間もなく大森林も戦争になる。わらわたちはそれを止めるための行動をしておるのじゃ」
「なななな、は、は、白龍! は、は、は、破壊龍!!」
勇者エイゼン様が、座っている石から転げ落ちてペタンと尻もちをつきました。
「何を驚いておるのじゃ。エイゼン殿。勇者エイゼン様は龍族など、圧倒する強さじゃぞ」
シラタキ様が冷ややかな目で、勇者エイゼン様を見つめながら言いました。
「まっ、まさか?? 龍族は世界最強種族、いくら勇者エイゼン様でも無理だろう」
勇者エイゼン様がいいました。
「ふふふ、わたくしは勇者エイゼン様の最後の戦いを、この目で見ました。あの方の攻撃は龍族でも耐えられる者はいません」
丘で見ていたシラタキ様の密偵はマッチャさんだったのですね。
この、おとなしそうな、淑女のようなマッチャさんが破壊龍ジャスさんなのですか。
少し信じられません。
「それで、あのう? マモリ様とはどのようなお方なのですか?」
ナバッテさんが質問します。
シラタキ様が僕をチラリと見ます。
僕はうなずきました。
「このお方こそ、西の大森林の新しき盟主になられた姫神の一族、族長の姫神マモリ様じゃ。そして、ワラワとマッチャのご主人様じゃ」
「ええーーっ!!」
エルフとオークの美女達、そして勇者エイゼン様と僕が驚きの声を上げました。
いつの間にか、シラタキ様とマッチャさんのご主人様にされています。
それに、新しい盟主様ってまだ決まっていませんよ。
「あ、あの、ということは、本物のエイゼン様が見つかったのですから、戦争は防ぐことが出来るということですね」
ナバッテさんが言いました。
「本物ならのう。どうじゃ、マッチャが見た本物の勇者エイゼン様と似ておるかのう」
「わたくしは、遠くの丘から見ておりました。顔まではわかりません。どうですか、シラタキ様が戦ってみて確認されては」
「ひっ! ひぃぃぃーー!! ま、ま、ま、待ってくれーー! 俺はヤランソッテという、ちんけな男だ。偽物だ。まっかな偽物なんだーー。本物だと思っていたのなら謝る。だから、許してくれーー!!」
素早く土下座をしました。
「いいえ、それは出来ません!!」
ノブコが立ち上がり、勇者エイゼン様ことヤランソッテさんの前に立ちます。
そして、メガネをくいっと上げました。
「なっ!?」
勇者エイゼン様がノブコを見上げます。
「うふふ、あなたにはこの先、本物の勇者エイゼン様になってもらいます」
「ま、まってくれ。許してくれ。俺にはできねー! もう勘弁してくれ!!」
「うふふ、そうですか。もし、勇者エイゼン様を演じてくれるのなら、あなたには龍族の長老白龍様と破壊龍様、そして西の森の盟主様までが、仲間になるのですよ。もちろんわたしたちキュートルスリーもです。最強の名を欲しいままに出来るはずです。仲間ですから命も守りますよ。どうですか?」
「なっ、なに!?」
勇者エイゼン様が悪い顔になりました。
「わたし達の実力はよくご存じのはず。うふふ、私達は正義の為なら勇者エイゼン様に忠義を尽くしますよ。どうですか?」
「正義の為……本当か?」
勇者エイゼン様が、僕達の顔を1人ずつ丁寧に見て目を合せていきます。
目が合った人は、コクリとうなずきます。
あのメイヤまでうなずきました。
「どうですか?」
ノブコが再度詰め寄ります。
「条件は正義の為か。俺は、正義の味方をしてみたかった。力がなかったから、泣く泣く見て見ぬふりをしたこともある。俺様が勇者エイゼンとして正義を実行する。いいじゃねえか。最高じゃねえか。よし、決めた。共に高めよう。勇者エイゼンの名を。正義の勇者エイゼンの名を!! メガネの嬢ちゃんよろしく頼む」
「はっ!! エイゼン様!!」
ノブコが膝をつき頭を下げました。
僕もノブコにならいます。
全員がひざまずきました。
そして、深く頭を下げます。
「よし! 皆の者よろしく頼むぞ!!」
勇者エイゼン様が立ち上がり僕達を見おろします。
「ははっ!!」
全員が返事をします。
「ふふふ、はあぁーはっはっはっ!! うわあぁはっはっは!!」
すごいものですね。
勇者エイゼン様の顔が少し輝いてみえます。
正義と言う言葉には、人を輝かせる力があるようです。
「ふふふ、マモリ様。最初の策にもどしましょうか」
ノブコが僕にだけ聞こえるように、耳に口を近付けて言いました。
最初の策?
ああっ、勇者エイゼン様を探して、戦争を止めるという策ですね。
ノブコは3つ目の策、人間の街へ行き、人間と龍族との対立をあおり、人間と龍族の緊張を高め、龍族の動きを止めるという策を実行しているところだったのですが、ここで第1の策に切替えるようですね。
「でも、まってください。エイゼンの絆のおかげで、龍族と人間の対立も成立できませんか」
「さすがは、マモリ様です」
ふふふ、ノブコもそのつもりだったようですね。
大森林の龍族の支配下のエルフやオークを人間がさらって、もてあそんでいます。
それを龍王が知れば激怒するはずです。
人間との対立、勇者エイゼンの存在。
これで、なんとか龍族の侵攻が止められそうです。




