第二百十九話 メルの実力
「大丈夫です。心配はいりません」
僕は、おびえるエルフとオークのお姉さんに、優しく声を掛けました。
「ぐふうううぅぅぅぅ」
エルフとオークのお姉さんは、全身を震わせて、しゃがんだまま僕の顔を涙目で見あげます。
僕は、微笑んで安心してもらえるようにつとめます。
これ程、人をおびえさせるなんて。
何をしたんだ、あいつら!!
ゆるせませんねえ。
「みなさん! ここは既に森の奥です。骨は折らないで下さい。街に帰れなくなります。動かなくなるまで痛めつけるだけにしてくださーーい!!」
「はーーい!! わっかりましたーー!!」
「わかったのじゃ!!」
「ふふふ、わかりました!」
キュートルスリーとシラタキ様とマッチャさんが返事をしてくれました。メイヤは返事の代わりに僕に一礼してくれました。
そして、姿が消えます。
素早く移動して散開したようですね。
パーーンと何度も大きな破裂音がします。
大きな破裂音は、森の太い木の幹で反射されてエコーがかえってきます。
森から一斉に鳥の飛び立つ音が聞こえます。
動物たちが悲鳴を上げて逃げて行く音が聞こえます。
驚かせてしまったようですね。
「うわああぁーー!! いってぇーー!!」
「ぎゃあぁぁぁ!! いてぇーー!!」
「どわああぁぁぁぁぁ!! いったーー!!」
皆は手のひらで叩いているようですね。
叩かれた男達の顔がみるみる腫れていきます。
ふふふ、平手打ちはたいしてダメージはないのですが、痛いですからねえ。
お仕置きにはちょうどいいですね。
「くそーっ!! 偽勇者エイゼンと震えている女どもをねらえーー!! 人質にするんだーー!!」
その声で、こっちに向かってくる者がいます。
「ひっ!」
偽勇者エイゼン様が小さく悲鳴を上げます。
でも大丈夫です。
僕達に近づきすぎた男達は、メイヤに少しきつめの攻撃をうけて噴き飛ばされて、僕達から遠ざけられます。
エイゼンの絆の冒険者達は何度も不屈の精神で立ち上がりますが、その都度叩かれて、大きな破裂音と共に噴き飛ばされて倒れます。
すでに、その顔は腫れ上がり真っ赤になっています。
鼻血を出していない人がもう一人もいません。
「すげーもんだなあ。まるで相手にならねー。全員ありゃあ、もう目が見えてねえんじゃねえか」
ツルツル頭の隊長もその手下も、倒れている時間が長くなります。
やっと立ち上がると、すぐに平手がとんできます。
平手が当たると、大きな破裂音が大森林にこだまします。
「ぎゃあああぁぁぁぁーーーぁぁぁ!!」
大きな悲鳴が森にこだましました。
この悲鳴を最後に、もう立っている者はいません。
地面に伏せて、全員おとなしくなりました。
「おいおい、なさけねえじゃねえか。Fクラス冒険者と執事とメイドに、天下の『エイゼンの絆』の冒険者様が制圧されて、動けなくなっているじゃねえか。ぎゃああぁーーはっはっはっ!! みじめだねえー」
「ぐっ、ぐぞーーっ!! きさまーー!! きさま達はいったい何者だーー!!」
真っ赤にはれ上がったツルツル頭は、まるでピンクのイチゴ大福のようになっています。
イチゴ大福がはれて細くなった目で偽勇者エイゼン様をにらみ付けます。
パーーンと大きな音がしました。
偽勇者エイゼン様が倒れたイチゴ大福に近づき、大きな平手でイチゴ大福の天辺に平手を打ちおろしたのです。
偽勇者エイゼン様は、バカ力があるみたいです。
イチゴ大福が、舌を出して目を回しています。
「ふふふ、だから言っているだろう! 俺様は勇者エイゼン様だとなあ!!」
「ぐっ!!」
イチゴ大福が目をさましました。
「きけーー!! あほうども!! おめー達は森の中にいて、まだ知らねえだろーが、おめー達の当主バルテンも副当主のゼキとオズデンも俺様と俺様のパーティーで、打ち倒した!」
「な、嘘だろ! バルテンさんが!」
倒れたエイゼンの絆の冒険者が驚きをかくせません。
「まあ命は助けてやったがな。がはっ! がはははは!! いいかよく聞け!! 次に森の中で悪いことをしているのを見つけたら、手足を折って森の中で放置してやる。俺様はやさしいからなあ、1度だけは許してやる。これにこりたら、真っ当に生きるんだな。この先悪党は、この勇者エイゼン様とそのパーティーが許さねえ。わかったかーー!!」
「まっ、まさか、本当に、本当に勇者エイゼン様なのですか?」
手下の若い1人が目をキラキラさせて聞いてきました。
「そうだ! 俺様がエイゼン!! エイゼンなのだーー!! がはっ! がははははは!!」
「あ、あの、まさか、勇者エイゼン様とは、あの伝説の勇者エイゼン様の本物なのですか?」
オークのお姉さんが、偽勇者エイゼン様に震えながら聞きました。
お姉さんも本物だとは思っていなかったようですね。
「すまないなあ。そうだ! 俺様が本物の勇者エイゼン様だ。だが、恐れないでくれ。俺様は反省した。だから今は、助けを求めて泣いている者を人知れず助けながら、目立たず静かに生きている。おい、ツルツル坊主、ということだ。俺様の事はあまり広めるなよ。静かに目立たず生きて行くのだからなあ。まあ、おかげで偽勇者エイゼンなどと呼ばれてしまうがな。ひゃははは」
――わかる! わかります!!
僕は感動しています。
その気持ち痛いほどわかりすぎます。
きっと、この人は本物の勇者エイゼン様です。
まちがいありません。
「う、うそだーー!! しんじられるかーー!! 証拠だ!! 証拠を見せろ!! 証拠を見せてみろぉーー!!」
イチゴ大福が最後の抵抗をします。
「ちっ!! 往生際の悪い奴だ! なあ皆! 俺様、勇者エイゼン様のパーティーの実力をこいつらに見せてやってくれねえか」
その言葉で、全員が僕を見つめます。
僕はコクリとうなずきました。
「ふふふ、しかたがありませんねえ」
ユウキが言いながら大森林の大木の前に行きました。
全員が、それを真似してひとりずつ大木の前に立ちます。
木の直径は自動車くらいあります。
樹齢4000年位ありそうな木です。
「……」
全員静かに拳を木に当てました。
6本の大木がゆっくり傾きます。
そして、大きな音を立てて倒れました。
「うっ!! うわああぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
見ている全員の目玉が少し飛び出しています。
勇者エイゼン様が1番驚いています。
アゴが外れたように口を開き、鼻水まで出ています。
「なななな!! なんじゃ!! なんじゃぁーー!! お前達はーー!!!! ありえねーー!! しんじられねえーー!!」
勇者エイゼン様が1番大きな声を出しました。
「ええっ!? あのぉー、あれは勇者パーティー『メル』のメンバーですよ。勇者エイゼン様が驚いてどうするのですか! あんなの小手調べですよ」
「ここここ、小手調べだとーー!!」
勇者エイゼン様が大きな声で言いました。
口の前まで垂れていた鼻水が、口からでた息でビュルルルンと揺れました。
「そうですよ。メイヤ、あんなの力は入れていませんよね」
「はっ! もちろんにございます。動かないものに加える力など、ほぼゼロにございます」
「なっ!!!! なんじゃとーー!!」
「なっ! なんですってーー!!」
シラタキ様とマッチャさんが大きな声で驚きました。
「えっ!? お二人は全力だったのですか?」
「なななにゃ、にゃにをいうかー! ワラワもほぼゼロじゃ!!」
「わわわ、わた、わたくしも、ほぼゼロで、ゼロでございます」
シラタキ様とマッチャさんが言いました。
そうとうあせっています。
まあ、そういうことにしておきましょうか。
「ふふふ、3人ともまだまだですねえ。私はマイナスです」
ユウキがニヤニヤして余裕で言いました。
「そ、そんなわけあるかーー!!!!」
メルの全員に突っ込まれています。
「くひっ」
「ぎゃははははははは」
ユウキが吹き出すと、ノブコとエイリが楽しそうに笑いました。
「す、すげーーーー!!!!!! 俺の名は『エイゼンの絆』の幹部ケルファだ。勇者エイゼンは、まだ信用できねえが、あんたらパーティー『メル』の実力は本物だ。認めさせてもらうぜ」
「ふん、悪党共め。今後、オクジイールでの悪事は慎むことだな!!」
勇者エイゼン様が、イチゴ大福こと幹部ケルファに吐き捨てるように言いました。




