第二百十八話 悲しい悲鳴
「メイヤ、気が付いていますか?」
「いえ。わたくしは何も」
「じゃあ、僕の勘違いかなあ」
「いえ。おそらくは、わたくしが感知できないほど弱い気配なのかと」
「なるほど。メイヤにとっては、この気配は弱すぎるのですね」
僕はある気配を感じ取っていました。
20人くらいの人の気配。
おそらくは冒険者です。
「はっ! ですが、わがあるじの気配なら、100キロ先からでも感知できますが」
うん、すごいですね。
でもそれは、知りたくなかったです。
いっそ、気持ちが悪いです。
「なるほど、マモリちゃんは弱いかわりに、周囲の気配を感知する能力が優れているんだなあ。なるほど、なるほど」
「あー、はい」
僕は、妙に納得する偽勇者エイゼン様の言葉に、適当にあわせて返事をしました。
「見てください!」
マッチャさんが、大森林の中に現れた立派な石柱を見つけて指さしました。
「なんですか、あれは?」
ユウキが質問しました。
「これは、人間の住む世界と大森林の住民の世界との国境の目印です。ずっと東西に等間隔に並んでいます。」
「石柱だけで柵とか壁はないのですね」
「はい。出入りは自由です。でも、この石柱を越えて中に入れば人間は殺されても文句は言えません。逆にここを越えて森の住人が、こちら側に侵入してくれば、人間達に何をされても文句は言えません」
「そうですか。そう聞くと恐ろしく感じます」
ユウキがゴクリと唾を飲み、立ち止まって柱のむこうの暗い森の中を見つめます。
「では、行きましょうか」
石柱の手前で足を止めたユウキに、マッチャさんが言いました。
「お待ち下さい」
背の高いオークのお姉さんが言いました。
「どうされました」
マッチャさんが優しく笑顔で答えます。
「先程の説明の通り、ここから先、中に入れば皆さんは命を狙われます。森の住民は人間をこころよく思っていません。なぜなら、この国境を大勢で越えて入って来ては、森の恵みを根こそぎ持って行きます。それだけではありません、私達のように人さらいまでしていきます。ですから、もうここまでで十分です。ここから先は私達だけで帰れます。だから、皆さんは危険ですので、お戻り下さい」
このオークのお姉さんはやさしいですね。
僕達を心配してくれています。
「うふふ、それならなおのこと、ちゃんと集落までお送りしないと、どこでまた人間に出会うかもしれません。僕達は皆さんを守ってちゃんと家まで送り届けるところまでが仕事です」
僕達が柱の奥に進もうとすると、後ろの藪がザワザワします。
「ひひひ、残念だったなあ!! お前達は家になど帰れねえぜ!!」
藪の中から嫌な声が聞こえてきます。
茂みをかき分けて5人の男達が出て来ました。
体の大きなツルツル頭の男が笑いながら先頭に進み出ます。
こいつが隊長でしょうか。
気配を消していますが、茂みの奥にまだ15人ほどが隠れています。
さっきの気配はこいつらです。
エルフとオークのお姉さんを連れているので、あまり速く移動出来ませんでした。
面倒なので追いつかれたくはなかったのですが、とうとう追いつかれてしまったようです。
「あなた達は、なにものですか?」
ユウキが代表して質問してくれました。
「ひゃははは!! 見ろ!! じょうだまばかりだ!! ついているぜ!! 大収穫だ!!」
ツルツル頭は、ユウキの質問には答える気がないようです。
僕は藪から出て来た男達の胸に、ギルドの階級章が付いているのに気が付きました。
5人はそろってCクラスです。
冒険者確定です。
しかも、なかなかの実力者ぞろいです。
「見ろよ!! あの美少女4人はFクラスだ!!」
「ひゃはは、楽勝じゃねえか!!」
手下の男達が言いました。
「あの、僕達は冒険者です」
「くっ、くっ、くっ! みりゃあわかる!! それがどうした!! Fクラス冒険者が、大森林の奥地で行方不明になるのは日常茶飯事のことだ。じょうだまの女なら間違いなく行方不明になる。なぜなら、俺達が連れ去るからだ。ひひひ、今日も4人のFクラス冒険者が行方不明になっちまったなあ。ひゃあぁあはっはっはっ」
ツルツル頭が喜んでいます。
この人達は冒険者でもお構いなしに、捕まえて暴行して売っぱらうようですね。
しかも、こんなことが日常茶飯事で行なわれているのですね。
どこの冒険者組織でしょうか。
「くくく、今日はお祭りか。楽しみだ!」
「ぎゃぁあはっはっはっ!!」
手下の男達が下品に笑っています。
「うっ、ふっ、ふううっ!!」
エルフとオークの美女達の呼吸が乱れ、全身が震えだし恐怖におびえています。
以前にもこうして、むごい仕打ちを受けたのでしょう。
かわいそうに。
「あの、マモリ様。このバカ共は、たかだかCクラスですが、なにを有頂天になっているのでしょうか?」
メイヤが、大きな声で言いました。
「なっ! なんだとー!?」
「てめー!! 執事ごときがーー!!」
「Cクラス冒険者の実力も知らねえのかーー!!」
ツルツル頭が顔を真っ赤にして、いかっています。
配下の男達も激怒しているようです。
「まったくよう。ぎゃーぎゃーうるせーーぞ!! てめーら、よーーく、耳の穴をかっぽじって聞きゃあがれ!! 俺様は勇者エイゼン様だー!!」
偽勇者エイゼン様が、前に出て言いました。
「なっ!?」
ツルツル頭達、極悪冒険者が驚きの表情です。
さすがは偽とはいえ、エイゼン様ですね。
「うわあぁはっはっはっ!!」
「ぎゃあぁぁあーあーはっはっはっ!!」
爆笑がおこりました。
「バカが!! こっちは、あきるほど偽勇者エイゼンをたたき殺しているんだよ!! 良く見たらおめーも銅像そっくり――いや、滅茶苦茶そっくりじゃねえかーー! ここまでそっくりな奴は初めてだが、だからこそ偽物なんだよ。あれは、一人の芸術家が想像で作った真っ赤な偽物なんだよ。俺達『エイゼンの絆』じゃあ有名な話なんだよ」
なるほど、とんでもない冒険者だと思ったらエイゼンの絆の冒険者だったのですか。
「バカは、てめーらなんだよ! あの銅像は本物の俺様が、芸術家に強い魔力波を送って作らせた物なんだよ!! だから、俺こそが本物の勇者エイゼン様なんだよ! ここにいる者達は俺様の現在の勇者パーティーだ。戦士ゲンバ、魔導師ライシャのちの大魔導師ライシャ、武闘家ロウジョウのちの聖戦士ロウジョウ、賢者ガクシュのちの大賢者ガクシュ、聖女ユウリンのちの大聖女ユウリン。それらの過去の仲間にも、勝るとも劣らない仲間達なんだよ」
偽勇者エイゼン様が、それらしいことを言いました。さすがです。
まあ、今のユウキ達の実力なら、この偽勇者エイゼン様を本物にも出来るかもしれません。
僕はおとなしく様子を静観しましょうか。
「ぎゃははは!! そのごたいそうなお仲間さんが、そろいもそろってFランク冒険者に、ただのメイドに執事かよっ!! ふざけるなあーーっ!! もういい! おい!! 全員出てこいっ!!」
隠れていた手下も姿を現わしました。
胸のプレートはDクラスです。
なかなかの実力者ぞろいです。
「ヴァルキリーー!! レヴォリューション!!」
ユウキとノブコとエイリが声をそろえて言いました。
キュートルスリーに変身です。
やる気満々のようです。
「よし! 俺様は嬢ちゃん達を守る。マモリちゃんは弱いのだから俺様から離れないようにな!」
偽勇者エイゼン様は、僕とエルフとオークの美女を守ってくれるようです。
「くそがっ!! 目つきの悪い執事と偽勇者エイゼンは殺せ!! 抵抗するなら女も少々痛めつけていい!! やっちまえーー!!」
ツルツル頭が、頭に大量の血管を浮き上がらせて言いました。
男達が一斉に襲いかかりました。
「ひっひいいいぃぃぃぃーーーー!!!!」
エルフとオークの美女達がしゃがみ込んで悲鳴を上げました。
悲しい、悲しい悲鳴です。




