第二百十七話 濃い緑で思い浮かぶ物
「おい! マモリちゃんや!」
「はい!? どうしました?」
「あれを見てみろ!!」
僕達はオクジイールの北門を出て、大森林に入りました。
しばらく歩いていると、偽勇者エイゼン様が僕を呼びました。
偽勇者エイゼン様は、後ろを指さしました。
何か、大森林にめずらしい物があるのでしょうか?
「ああっ!!」
僕は思わず声が出ました。
「ふふふ、マモリちゃんはすごいのう、1番弱いくせにタフだ!! いやタフすぎる!」
後ろを歩いている、エルフとオークの美女達が遅れています。
全員肩で息をしています。
偽勇者エイゼン様は、肩で息どころかヒューヒューと言ってフラフラしています。
僕は魔力を温存したくて、エルフとオークの美女達の体調を気遣う事を失念していました。
時々回復魔法を使ってあげるべきでした。
「ふん、それはお前が疲れて休みたいだけじゃないのかのう。じゃが、休憩は必要じゃ。どうじゃ、ここらで食事休憩でもしてみては?」
「そうですね。シラタキ様の言うとおりです。では、ひらけた場所を探して食事にしましょう」
「ふふふ、ならばバニラがいいのじゃ。バニラはきっと疲れが取れるのじゃ」
シラタキ様は、よほどバニラアイスが気に入ったようです。
「あの、エルジッタ様、バニラとはなんですか??」
「ふふ、ジャスよ。ワラワは、エルジッタからシラタキへ名前を変えた。本当はバニラと名前を変えたいくらいじゃった」
「申し訳ありませんシラタキ様!」
ジャスさんは、深々と頭をさげて続けます。
「シラタキ様が、名前にしたいほどの食べ物……どんな食べ物なのですか?」
「そうじゃのう……ワラワのように真っ白で美しく、そして甘くて最高にうまいのじゃ。ワラワにふさわしい名前と思ったのじゃが、食べ物の名前じゃ。だから、泣く泣くあきらめたのじゃ」
「そうですか。そうだマモリ様、私は濃い緑色の龍なのですが、良い名前はありませんか?」
「えっ!?」
僕は急にふられて驚いた。
でも、僕の頭にはあれしか思い浮かびません。
「それなら、抹茶です。マッチャがぴったりだと思います」
ユウキが言いました。
僕もそう思っていました。
「マッチャ! なんと素晴らしいひびき!! とてもいい名前です。きっと濃い緑色の素晴らしい最高の物なのでしょうね。私は今日からマッチャに名前を変えます。ふふふ、マッチャですか。うふふ」
ジャスさんが、いいえ、マッチャさんがとてもうれしそうです。
「よかったのう。マッチャ! われら龍族は食べ物や飲み物の名をとても嫌う。マッチャなら良い名じゃろうて」
ユウキがどうしようという顔で僕を見てきました。
飲み物もダメなのですね。
僕が言わなくてよかった。
あやうく龍族の実力者2名に、とんでもない名前をつけるところでした。
まあ、僕もシラタキ様にシラタキと名前をつけてしまったので、あいこです。
これは、シラタキ様とマッチャさんを日本に連れて行かないようにしないといけませんね。
日本になど行けば、どこでバレるかわかりませんからね。
バレなければ大丈夫です。
ということなので、ユウキ安心してください。
「あそこなら、よいのではないか?」
シラタキ様が指をさしました。
真っ平らで草木のない場所がありました。
13人いますので、それなりに広い場所が必要ですが、あそこなら全員分のイスを出して広いテーブルも置けそうです。
落ち着いて食事が出来るでしょう。
「僕が持っている食料は兵隊が食べる携帯食料と、新潟名物黄金焼きそば丼と、バニラアイスだけなのですがどれがいいかなあ」
「神様!! 何をなやむのですかー!! 黄金焼きそば丼とバニラアイスに決まっています。ユウキは今、丁度それが食べたいと思っていましたーー!!!!」
「ふんふん!!」
めずらしくメイヤまでまじって、うなずいています。
――ふふ、メイヤもなじんできたなあ。
僕はとてもうれしい気持ちになりました。
逆に、それは僕の携帯食料がくそまずいと言っているようなものです。
悲しい気持ちになりました。
僕は全員分の黄金焼きそば丼とバニラアイスを出しました。
ふふふ、収納魔法から出しましたので一瞬で用意が終わります。
「これじゃーー!! ジャス、いや、マッチャ! 食べてみるのじゃーーっ!!」
「いただきまーーす!!」
3人娘が手を合せて言いました。
そして、丼をかき込みます。
「?? い、いただきます!!」
他の人達も真似をして、食べ始めました。
「ななななな、なんとっ!! なんとおいしい!! いままでの人生の中で食べた、どの食べ物より1番おいしいです!!」
マッチャさんが頬をふくらませたまま言いました。
偽勇者エイゼン様がしきりにうなずきます。
偽勇者エイゼン様も美味しかったようですね。
「ぉ、ぉぃしぃ……」
ここまで無言だった、エルフとオークの美女達が消えそうな声ですが言いました。
「待つのじゃ!! バニラアイスは、黄金焼きそば丼を食べたあとから食べるのじゃ」
マッチャさんが、バニラアイスを食べようとしたので、シラタキ様が止めました。
「そ、そうでしたか! 申し訳ありません!」
マッチャさんがシラタキ様の剣幕に驚いてあやまりました。
そこまでの事ではないと思いますが、シラタキ様もリリイさんと同じでバニラアイスの溶けたところが好きなようです。
「お、おほん!!」
ユウキがセキを一つしました。
そして、机をトントンします。
「まさか、おかわりですか?」
「まさかではありません。黄金焼きそば丼は2杯食べるのが作法です」
「ふふふ、それは申し訳ありませんでした」
僕は全員に2杯目を用意しました。
2杯目を完食すると、バニラアイスを食べ始めます。
「ぎゃああぁーぁぁぁーー!!!! こここ、これは!! わたくしは濃い緑色ですが、バニラに名前を変えたい気持ちになりました!! 1度の食事で人生最高の食べ物が2度も入れ替わりましたーー!!」
「お、おいしい」
エルフとオークの美女達が今度は、はっきりと言ってくれました。
美味しい物の力は偉大ですね。
心を閉ざしていたエルフとオークの美女達の心の扉が、少しだけ開いたみたいです。
「それは、よかったです」
僕は、最高の笑顔を意識して笑顔になり、その顔を5人に向けました。
「あの……マモリ様、私達はこの先どうなるのでしょうか?」
1番年長のエルフの一人が代表して、不安そうに質問してくれました。
「ああ、説明していませんでしたね」
ふふ、やっと説明ができます。
これまでは、話しかけられる雰囲気ではありませんでしたから。
「は、はい」
「それは、申し訳ありません。皆さんは、これから家に帰るのですよ。家族のもとへ」
「そ、それは、本当ですか?」
「はい」
僕はもう一度安心してもらうため笑顔になります。
「でも、なぜ??」
「うふふ、あそこにいる3人は、ユウキ、ノブコ、エイリといいます。あの3人は正義の味方、キュートルスリーを名乗っています。正義の味方は、助けを求める人を助けるのが仕事です。あなた達の心の中の助けを呼ぶ声が、きっと届いたのでしょう。本当は世界中の人を助けたいのですが、3人なので救える人の数があまり多くありません。救助が遅くなって申し訳ありませんでした」
僕が頭を下げると、ユウキ達も頭を下げました。
「お、おやめください。おやめください。うぐっ!」
安心したのか、5人が泣き出しました。
よかったです。
やっと、安心できたのですね。
つらい毎日とはこれでお別れです。
「この世界には、こうして泣いている人が多いのでしょうね。本当は力を持つ冒険者が、正義の味方をしないといけないのに、こんな不幸な人を作るのが冒険者達なのですから」
僕はつぶやいていました。
「ほんとうだ!! ゆるせねえ奴らだ!!」
偽勇者エイゼン様が言いました。
この人は、嘘をついていますが根はいい人なのでしょうか。
僕達は食事をすませると、エルフとオークの美女達の家を目指します。




