第二百十五話 勇者は守られたい
「ふん、なんだ言ってみろ!」
偽勇者エイゼン様が、アゴのヒゲを右手で擦りながら言いました。
「あ、あの、皆さんが連れて行かれるはずだった先に――」
受付のお姉さんのメブラクさんが、足が折れて行動不能のバルテンさんをチラチラ見て気にしながら、言いにくそうに小さな声でゴニョゴニョ言っています。
「はあぁーーっ! 何が言いたいのか、わからないんだよ!! はっきりいいやがれ!!」
「……」
偽勇者エイゼン様は、考える気もないようですね。
偽勇者エイゼン様に怒鳴られると受付のお姉さんは、悲しそうな顔をして下を向いて黙ってしまいました。
待ってください、整理してみましょう。
そもそも、僕達はなぜエイゼンの絆のバルテンさんに襲われたのでしょうか。
それは、あのエイゼンの絆のりっぱな建物に連れ込まれて暴行されて、商品として売り飛ばされる……。
受付のお姉さんのメブラクさんは『お願いがあります』と言いました。
そして、エイゼンの絆の当主バルテンさんをとても気にしています。
以上のことを総合して考えると導き出される答えは。
「ノブコ、何があるというのでしょうか?」
僕が考えだした答えは、ノブコに聞くでした。
「はい、エイゼンの絆のアジトに行けばわかりますよ」
ノブコがけわしい顔で言いました。
言い終わると、メガネを右手の人差し指でクイッと上げました。
キラリとレンズが白く光ります。
さすがはノブコです。
すべて、謎はとけてしまったようです。
「嬢ちゃん、あんたは行かんほうがええ」
路上生活者のおじさんが僕に心配そうな表情で言いました。
スカートの中に頭を突っ込まれたおじさんなので、いまでは親近感を覚えています。
おじさんもそうなのでしょうか?
「どうしてですか?」
「ふむ、この街をよく見れ。衛兵がほとんどいないじゃろ。兵士は戦場に持って行かれた。この街の治安は、冒険者組織が守っておる。だが、それがいかんのじゃろう、増長してしまって手が付けられんようになってしもうた。とくにあの建物じゃ。あの中は治外法権じゃ。中で何をされても外からは何もわからん。何をされてもな。わかるじゃろ」
この街は、良くも悪くも冒険者に支配されているということでしょうか。
まだ、外には一般の人の目があるので、常識的な事しかできない。
でも、一歩あの建物の中に入ったら、暴行されても、殺されても外からは何もわからないということでしょうか。
悪党にとっては住みやすい街です。
「それならば、なおさら行かなくてはなりません」
「嬢ちゃん、さっきから見ておったが、あんたが一番弱いのじゃろ。悪いことは言わん。あの6人に任せておけばよいじゃろう。嬢ちゃんが人質にでもされたら、いくら強い6人でも動きが取れなくなる。わしと一緒にここにおった方がええじゃろう」
僕は、このおじさんに心配されているようです。
まもってもらえるみたいです。
すこしうれしい気がします。
「だが、断ります。僕も行かなくてはなりません。あの6人が心配です」
「な、なに?? あの6人が心配?? あの強い6人が?」
「はい。あの6人は僕がいないと、悪党は皆殺しにしてしまうかもしれません。違いますね、悪党は皆殺しです。僕はそれを止めないといけません。それが出来るのは僕だけなのですから」
「そ、そっちかいな!! やっかいなもんじゃのう。わかった。もう止めん! 行くがええじゃろう。気を付けてな」
「はい」
僕達は、エイゼンの絆のアジトへ歩きはじめました。
「お、おい!! 俺様を忘れるんじゃねえ!! お前達は俺様のパーティー仲間なんだろうがよう!! おいていくんじゃねえよ!! こ、こわいじゃないかー!!」
取り残された偽勇者エイゼン様が、あせって小走りで追いかけて来ます。
エイゼンの絆のアジトの前まで来ると、異様な雰囲気があります。
街はゴミだらけ、そして落書きだらけで汚かったのに、この建物はとても綺麗です。
街はどうでもいいけど、自分の家だけは綺麗にするという横柄な感じがにじみでています。
ユウキのお婆さんが家の外を掃除するとき、家の周辺から前の道路までしっかり掃除するのとはまるでちがいます。
「なんだ、誰もいねえじゃねえか」
偽勇者エイゼン様が言いました。
中には、受付があり受付の後ろに机が並んでいます。
でも人の気配がありません。
「ふふふ、あなた達は、おろかですねえ。ここに足を踏み入れたらどうなるのか。誰も教えてくれなかったのですか? オイッ!!」
長髪を後ろで束ねた頭の良さそうな男が奥の扉から出て来ました。
目は細く、一見優しそうに見えます。
胸のプレートはBランクです。
男の声に反応して、窓際で隠れていた男が立ち上がり窓のカーテンを閉めました。
これで外からは何も見えなくなりました。
男は、僕達の視線が男の胸のプレートに集中しているのに気が付いたようです。
「ああ、これですか。ふふふ、Bクラスです。だいたい、こういう組織には副当主は2名いるものなのです。わたくしはエイゼンの絆副当主のゼキと申します。オイッ!! 歓迎の用意をしねえか!!」
会話と命令の口調がまるで違います。
表情は穏やかで優しそうですが、命令の口調は横柄で高圧的です。
違和感がありすぎて、背筋が寒くなります。
「ひひひ」
いやな笑い声と共に机の影に気配を消していた手下が立ち上がりました。
手には弓を構えています。
それが歓迎ということなのでしょう。
その矢が全部僕に向いています。
僕はそれほど、か弱く見えるのでしょうか?
それならこの姿は変装としてもとても役にたっています。
キュートルスリーが、僕のほうを見て指をさしてハートを書きました。
真似をして、黒と白のメイドも同じ仕草です。
――まさか!?
しかたがありません。
不本意ですがやるしかありませんね。
「きゃあ!! なんで僕をねらうのですかー!」
そう言って僕は頭を抱えてしゃがみ込みました。
「くひっ!!」
メイヤが声をもらして肩をふるわせます。
表情がいつも通りなので不気味です。
キュートルスリーと白と黒のメイドも肩がガクガク震えています。
偽勇者エイゼン様だけがキョトンとしています。
「ふふふ、やっぱりな!! スカートがひるがえった時に、一人だけ恥ずかしそうにしゃがんだから、そうじゃねえかと思ったが、やっぱりお前だけは弱いみたいだな。全員動くな!! 少しでも動いたら、あの女の命はねえ!! おとなしくしろ!!」
「まったく、いわんこっちゃない!! 嬢ちゃんあんたはわしが守ってやる!!」
せ、正義のヒーローがあらわれました。
と、おもったら、さっきの路上生活者のおじさんでした。
猫背気味に立って、顔が下を向いています。
立っているのがやっと、という感じです。
だ、大丈夫なのでしょうか。
「ちっ! おい!! 2、3本お見舞いしてやれ!!」
副当主のゼキがいうと、手下が矢を放ちました。
「ふんっ!!」
路上生活者のおじさんが酔っ払いのようにフラフラ揺れながら飛んできた矢を打ち払います。
「なにっ!?」
ゼキが驚きの表情になりました。
「おい!! あんた達!! ぼさっとしないで仕事をするんじゃ!!」
路上生活者のおじさんが大声を出しました。
「うぎゃあぁーー!!」
「ぐえぇーー!!」
「げはっ!!」
「ごあぁぁーーっ!!」
次々男達が倒されます。
頭をかかえてしゃがんでいる僕をねらった矢が、数本飛んできましたけどそれらはすべて路上生活者のおじさんが打ち払ってくれました。
なかなか、すごいおじさんです。
「しかし、すごいもんじゃのう。あれだけ威張りちらしていたエイゼンの絆の冒険者達がまるで歯が立たないとはのう。おどろきじゃ!! ぐはっ!!」
ゼキが路上生活者のおじさんの脇腹を蹴り飛ばしました。
おじさんがなんどもなんども転がります。
強烈な一撃です。大丈夫でしょうか?
いつの間にかゼキは、こっちに来ていたようです。
そして、僕を羽交い締めにします。
大ピンチです!!




