第二百十二話 偽勇者
「ふふふ、そこまで喜んでもらえたら、悪い気がしないなあ……まてよ。なんで、そんなに喜んでいるんだ?」
このひげもじゃの勇者エイゼン様は意外と鋭いですね。
危険を察知したようです。
「ふふふ、簡単ではありませんか。これで大森林の大戦争が止められるからです」
「はあぁーーーーぁぁーっ!!」
ひげもじゃのエイゼン様が大きな口を開けて驚いています。
「おい、あいつら、何を言っているんだ?」
「大森林の大戦争?? だいたいエイゼン様と呼んでいないか?」
「見ろよあの顔、ありゃあ街の中央の伝説の英雄、勇者エイゼン様の銅像と同じ顔じゃねえか!!」
「ほんとうだ! ありゃあ勇者エイゼン様だ!!」
食堂の方で冒険者達ががザワザワしてきました。
「まずいわねえ。ザワザワしてきましたわ。少し外へ出ましょう」
受付嬢さんが僕達をギルドの外へ連れ出しました。
「おい、メガネの嬢ちゃん、大戦争とはいったいなんの話だ?」
「はい。私達は、龍族が大森林を支配しようと準備を始めたので、それを阻止するために勇者エイゼン様を探していたのです。こんなに早く見つかるとは思っていませんでした」
ノブコと僕達は違う作戦で動いていましたが、勇者エイゼン様が見つかったのでノブコは、作戦を修正して勇者エイゼン様が見つかった時の作戦に切替えたようです。
「まてまて、話がみえねえ。大森林の戦争がなんで俺に関係あるんだ?」
「戦争を止められる程の強さをお持ちですから、龍族に戦争をやめるように一言言って欲しいのです。『おい、龍王! 戦争をやめないとぶち殺すぞ!!』と」
「はあーっ!! このメガネの嬢ちゃんは可愛いのに頭はバカなのか? 何を言っているんだ? 大森林のことなんか俺にはまったく関係ないじゃないか!! それにいくら俺が強いと言ったって、龍族には勝てないだろうよ」
「ぎゃははは!! こいつは勇者エイゼン様ではないな」
「本当です!!」
シラタキ様がいうとジャスさんが同意しました。
「な、なんだと!! この白黒メイド共!! 使用人のくせに偉そうに!! 見て見ろ!! どこがどう違うんだー!! 言ってみろってんだよー!!」
僕達は、受付嬢さんにいつの間にか銅像の前まで歩かされていたようです。
「うわぁーーっ!! そっくりです!!」
銅像を見たら思わず口から出てしまいました。
「ばかやろう!! そっくりじゃねえ。俺なんだよ!! 俺っ!! ホラ見ろ!!」
勇者エイゼン様が銅像の横に並びました。
銅像の勇者エイゼン様は、やはり四角い顔でひげもじゃです。
体には鎧をつけて、剣で体を支え仁王立ちです。
勇者エイゼン様は銅像と同じ剣と鎧を装備しています。
だから、同じ姿勢になると。
「確かに同じです」
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
歓声が起こりました。
銅像は広場の中央にあるため、広場にいた人達が集ってきました。
「生きていたのですね!!」
「すごい!! 本物だーー!!」
「よかったーー!! エイゼン様! ばんざーーい!!」
「ああっ!! みんなーーっ!! 静かにしてくれーー!! 見ろーーお前達のせいで、騒ぎになったじゃねえか!!」
自分が銅像と同じ姿をしているからだとは思いますが、大変な騒ぎになってきました。
どうしたらいいのでしょうか。
勇者エイゼン様は、今でもなお人気者のようです。
「しずまれーー!! しずまれーー!! 俺は冒険者組織『エイゼンの絆』の当主バルテンである!!」
「うわっ!!」
「やばい!!」
「バルテン様だ」
「行くぞ!!」
蜘蛛の子を散らすように群衆が逃げて行きました。
有名な人のようですね。
「お嬢さんがた。あまりこの街で騒ぎを起こさないでほしいものですね」
バルテンさんが笑顔で言いました。
金髪で爽やかな美形の男の人です。
でも、体は魔王軍の将のように立派です。
おそらく、相当腕が立つと思います。
「す、すみません」
一応、僕があやまりました。
「うおっ!! いろいろな可愛い女とやって来たが、おどろいた。メチャメチャ可愛いじゃないか。いままで見た中で一番かわ――かわ――いやまて、こっちの方が少し上だ!! ふふ、楽しみだ」
いろいろ言いたい事はありますが、バルテンさんはユウキを一番だといいました。
それなら、許す!!
全てを許しましょう。
「まさか、あんたは本物の勇者エイゼン様なのか?? 連れている女がすべて一級品だ!! 特にこの二人が飛び抜けて美しい」
全てを許そうと思いましたが、なんだかこのバルテンという男を好きになれませんねえ。
いきなり、嫌いになりそうです。
「お前はなんじゃ!?」
シラタキ様が不快そうに言いました。
その気持ち良くわかります。
「ほう、真白なメイドさんですか。美しいですねえ。ぐひっ! わたくしは、冒険者組織『エイゼンの絆』当主のバルテンと申します。そこの建物で街の治安の維持から、魔獣退治、要人警護、薬草採取まで幅広く手がけております。たまたま窓から見ていたら、面白いものが見えましたのでやってまいりました」
そこの建物を見たら、とても大きな建物です。
幅も広いし、縦にも高い。
この広場から見える建物の中でも、もっとも高くて立派な建物です。
あっ、でも同じ位の建物が他に2つ見えます。
「気づかれましたか。あの2つが他の冒険者組織『エイゼンの光』と『エイゼンの影』の建物です」
受付のお姉さんが教えてくれました。
この街では冒険者パーティーが力を持っているようです。
パーティーとは言わずに、格好をつけて組織と言っているようです。
「おや、珍しいギルドの受付嬢、メブラクさんじゃないですか?」
「うふふ、すこし興味を持ちましたので、街を案内しておりました」
「ほう!? というと、この偽勇者エイゼンを本物と勘違いなされたのですか?」
「うふふ、いいえ。あたしが興味を持ちましたのは、こちらのお嬢さんがたの方ですわ。何か深い事情がありそうでしたので」
「くそう!! なんなんだよてめーらは!! 俺は本物のエイゼンだ! 馬鹿野郎!!」
そう言うとエイゼン様は、剣を前に出しました。
「バカはてめーの方だ偽勇者エイゼン!! すでに情報は入っているんだよ!! 他の街でエイゼン様の名をかたり、商人から金をまきあげ、飲食店では無銭飲食をしていると被害届が出ているんだ!!」
「な、なんだと、勝手に使ってくれ、食べてくれと寄付されたものだ。被害届なんて出ているわけがねえ」
「ばかめ!! それは本物だと思ったから渡したんだ。偽物とわかったら返せと被害届が出るんだよ!!」
「くそーーっ!! 俺は本物だ!! やるというのなら相手になるぞ!!」
偽勇者エイゼン様は剣を数回前に出しました。
でも、「エイゼンの絆」の当主バルテンは、腰の引けた牽制に少しもひるみません。
「ふふふ、剣を向けた時点で、もう、戦いは始まっている。殺されても文句を言うんじゃねえぜ」
バルテンは顔に影を落とすとニヤリと笑いました。
ゾクッと背中に嫌な感覚がする笑いです。
こっちの顔が本性なのでしょうか。
そして、ゆっくり腰の剣に手をのばします。
「嬢ちゃん達!! 囲まれないうちに逃げるゾーー!!」
そう言うと、偽勇者エイゼン様は一目散に逃げ出しました。
これで、偽物決定です。
本物だったらよかったのに。
「おい、オズデン!! 逃がすな!!」
「うわっ!!」
偽勇者エイゼン様が驚きの声と共に立ち止まります。
遠巻きに見ていた群衆の中から、武装した男達が出て来ました。
既に囲まれていたようです。
「オズデンは、『エイゼンの絆』の副当主ですわ。残虐非道の男です。偽勇者エイゼンはギルドの有力者に指名手配書を渡してあります。銅像にそっくりだと。だからオズデンに切り刻まれて残虐に殺されます。その仲間の皆さんは、今から捕まえられてあの建物でいっぱいやられますわ。そして、あたしは少しお小遣いをいただきます。うふっ!!」
ギルドの受付、メブラクさんがかわいい笑顔で教えてくれました。




