第二百十一話 森の都
「やあ、メイヤ」
メイヤは林の中にある、廃村の一軒家を手入れして待っていてくれました。
「わが、あるじ。お待ちしておりました」
「さすがはメイヤだね。大きさといい、古さといい、僕の理想通りだ」
「ははっ! ありがたきお言葉!」
林の木々の隙間から、森の都と呼ばれるオクジイールの街が見えます。
街までの距離も丁度いいですね。
オクジイールの街は、アッガーノ王国の北に位置する城塞都市で、大森林に最も近い大きな街です。
「ねえ、この井戸もつかえるの?」
ユウキが井戸を見つけて質問しました。
「はっ! ユウキ様、掃除は済ませておきました。水脈も生きているので今すぐにでも使えます」
「この村は、街から近いから便利に感じますが、なぜ人がいないのでしょうか?」
こんどは、エイリが質問しました。
「王国では、占領した魔王国の領地に、移住者を大勢送り込んでいます。ここの住民も、新天地を目指して移動したのではないでしょうか」
「オクジイールの街は、へんぴな場所にあるように見えますが、なぜ発展してあんなに大きな街なのでしょうか?」
ノブコも質問します。
「ああ、それですか。ここは王国内で、もっとも大森林に近い街です。大森林からは薬草や、高価な果物、他にも様々な食べられる動植物に魔獣などがいます。つまり、森の恩恵がこれでもかと受けられるのです。その恵みの売買でうるおっているため大きな街に成長したのだと思います」
メイヤは3人の質問にすらすら答えます。
さすがです。
たったの3日でここまで。
僕は感動して、メイヤに抱きつきたくなる衝動をおさえるのに必死です。
「さあ、さあ、荷物を置いたら、さっさと街へいくぞよ!!」
シラタキ様は、既に手荷物を家の中に置いて来て足踏みをしています。
もう街へ行きたくて、しょうが無いようすです。
僕とユウキとノブコ、そしてエイリはいつもの様に幸魂女学園の制服。
メイヤは、真っ黒な執事服。
シラタキ様は真っ白なメイド服。
ジャスさんは、真っ黒なメイド服です。
結構、街では目立ちそうな服装ですね。
「うわぁっ!!」
街の北門をくぐると、ユウキとノブコとエイリの3人娘が声を出しました。
眉間にしわがより、とても嫌そうな顔です。
きっと想像と違っているのでしょう。
街にはゴミがあふれ、生ゴミのような悪臭がしています。
「まあ、王国の街などみんなこんなもんじゃ!! 魔人の国とはわけが違う」
シラタキ様が、3人娘に言いました。
ゲドル領の領都は、外は難民の死体があふれていましたが、街の中はとても綺麗でした。ちり1つ……は、言い過ぎですが、この街とは比べものにならないほど綺麗です。
「てめーーっ!! このやろーーっ!!」
「うるせーーっ!!」
通りでは殴り合いのケンカが始まりました。
これも日常的な光景です。
王国ではケンカやスリ、泥棒だって日常茶飯事です。
落とし物は目の前で落としても持ち去られます。
「ここですね」
僕は看板を見上げます。
冒険者ギルドの看板です。
冒険者ギルドは大森林に一番近い北門を入ってすぐの場所にありました。
「わあっ!!」
こんどは3人娘の目がキラキラ輝きます。
ここの冒険者ギルドは冒険者が多いためなのか、とても大きなギルドです。
扉を入って受付まで、距離が遠いですね。
受付の左奥には、食堂もあり冒険者が飲食も出来る様に配慮されています。
まあ、大きなギルドの定番のつくりです。
「みんな、行きますよ」
メイヤ以外の人が足を止めてキョロキョロしています。
食堂で朝食を取りながら、僕達の行動を全員が見ています。
中にニヤニヤ気味の悪い笑いをする、ガラの悪い人が大勢います。
「はーーい!」
僕の気も知らないで、楽しそうな返事です。
「あの、すみません。よろしいですか?」
髪がボサボサの、少しやさぐれた女性の受付があいていたので声をかけました。
「チッ!」
――えっ??
いま、舌打ちのようなものが聞こえました。
「あの、すみません」
「うるさいねー! 聞こえているよ! 返事をしただろ!」
いきなり切れているみたいです。
しかも「返事をしただろ!」ときました。
僕には舌打ちに聞こえました。いいえ舌打ちにしか聞こえません。
あれがここの返事のようですね。
先が思いやられます。
「登録をしたいのですが」
「やめときな。あんた達みたいなガキじゃ。今日中にレイプされて、どこかに売り飛ばされるのがおちだ。売り飛ばされりゃあ、二度と普通の暮しには戻れないよ。悪いことは言わない、この街はやめときな!」
このおば……お姉さんは結構いい人なのでしょうか。
僕達の事を心配してくれているようです。
「大丈夫です。登録をお願いします」
「あんた、あたしの言うことがわからないのかい。このあたしでさえ週に数回襲われるんだ。間違いなく、今日襲われるよ。悪いことは言わない、明るいうちにこの街を出て、もう少しましな街へいきな」
「ご心配はわかりました。ありがとうございます。でも、僕達にも事情があります。どうか、登録をお願いします」
「ふーーん! 事情ね。わかったよ! でも、これだけは憶えておいておくれ。あたしがちゃんと帰るように言ったことをさ」
「はい」
「じゃあ、手を出しな。握手をするんだ。決りでね」
「はい、お願いします」
僕は、受付のお姉さんと握手した。
僕が終わると3人娘が次々握手をする。
これで、体温の確認をする。
ちゃんと人間か確認するのです。
「後ろの3人はいいのかい?」
「はい、後ろの3人はただの使用人です」
「そうかい。わかった。次は名前だ」
「僕は、姫神マモリです」
「私は姫神ユウキです」
「わたしは姫神ノブコです」
「わたくしは姫神エイリですわ」
「全員ヒメガミというのかい。登録料は1人銀貨1枚だ」
しまったー。
お金がいるのでした。
「マモリ様、これを」
メイヤが大きな袋を出しました。
中をのぞくと色々な薬草が入っています。
「あのこれでどうでしょうか?」
「ふん、なんだい。もんなしかい。どれどれ、えっ!? これは、すごいねえ。ちょっと奥で査定させてもらうよ。おそらくこの量なら、銀貨4枚以上の価値はあるだろうさ」
受付のお姉さんは袋をもって奥に入って行きました。
戻ってくると、そのまま言いました。
「銀貨9枚だそうだ。5枚返すよ。で、パーティーはどうするんだい。あたしはどこか大きなパーティーに入ることを勧めるけどねえ」
「たとえば?」
「そうさねえ、3大パーティーなんかはどうだい『エイゼンの光』『エイゼンの絆』『エイゼンの影』なんてのがあるけどねえ。あんたらの顔なら合格間違いなしだ」
「いいえ。私達は4人でパーティーを組みます。名前は……」
ユウキはここまで言うとメイヤと、シラタキ様とジャスさんの顔を見ました。
「どうしたんだい?」
「はい。メルです」
――メル?
そうか、メイヤの冥と、シラタキ様とジャスさんの龍。
冥龍と書いてメルだ。
いい名前です。
「じゃあ、それで登録するよ。これで手続きはおわりだ。Fクラスの冒険者プレートだ。胸に付けておきな。まあ、なくしたら再発行するだけだけど、銀貨1枚いただくよ」
「おい! おわったのか? じゃあ次は俺だ!!」
ひげもじゃの四角い顔をした男が僕を押しのけて言った。
「初めてかい。まずは握手だよ。うん、体温はよし。名前は?」
「俺の名はエイゼンだ!! ふふっ!! あまり大きな声では言えねえがあの勇者エイゼンだ!!」
「ええええええーーーーーーっ!!!!」
受付のお姉さんと、僕達全員が声を出した。
「ば、ばかっ! 声がでかいよ! もっと小さい声で驚けよ! 皆にしられてしまうだろ!! 俺はお忍びで旅をしているんだ!」
「す、すみません。そういえば、街の中央にある、エイゼン様の銅像にそっくりです」
「そっくりじゃねえんだよ。あれは俺なんだからよお」
聞き捨てにできませんねえ。
あとで銅像を見てみましょう。
「嬢ちゃん達、俺が嬢ちゃん達のパーティー、メルに入ってやる。どうだ、うれしいだろ? 俺がいれば誰にも襲わせねえからよ!!」
「そうしてもらいなよ」
受付のお姉さんが言いました。
「すごい。さすがはマモリ様です。もっているものが違います。あの無理だと思っていた勇者エイゼン様にすぐに会えました。是非入ってもらいましょう」
ノブコがピョンピョン飛び上がりながら言いました。




