第二百十話 いざ王国の町へ
「うーーむ」
僕は、龍族が攻めてきたときの事を想像すると、自然にうなり声が出ていました。
龍族の最終形態である龍人が、巨大なドラゴンを率いて、さらには大森林東側の少数部族全てを引き連れて、西の盟主連合の従属を目指して進軍してくる姿を想像しています。
大森林の中を大軍勢が行進し、木々がザワザワ広範囲にゆれ、地震のような地響きが頭の中に聞こえてきました。
西の盟主連合の最強種族の一つオーガ族は、既に盟主連合から離反して龍族に従属しています。
いにしえの盟主様を信仰する西側の部族で、いまのところ僕に協力してくれるのはカルッパーン族とオーク族、ゴブリン族だけです。
今、ミミイさんとズラーとコング達が、エルフ族を説得するためにエルフ族の集落を訪ねていますが、これも成功するかどうかは未知数です。
オーガ族は龍族に人質を取られて仕方なしに従属しています。
龍族の集落に忍び込んで、人質を全員助け出せばオーガ族を盟主連合に引き入れることは可能かもしれません。
でも、はたして龍族の集落から、誘拐されたオーガ族を無傷で助け出すことが出来るのでしょうか。
救出に失敗してオーガ族に死者が出れば、オーガ族に恨まれます。
龍族に死者がでれば、龍族が怒りに燃えて最悪の結果が予想されます。
何もしないで戦争になれば、それもまた大勢の死者を出す事になります。
なんとか話し合いで解決できないでしょうか。
――それも無理ですね。
ジャスさんの話では、龍族の長老白龍様を僕達が殺した事になっています。
龍王の号令で弔い合戦となり、怒りで士気を高めています。
「平和的に解決する方法は無いものでしょうか。そうお考えですか?」
僕の耳元で声がしました。
「えっ!?」
「すみません。はしたないとは思いましたが盗み聞きをしてしまいました」
ノブコです。
後ろにユウキとエイリが心配そうな顔をして立っています。
まったく気が付いていませんでした。
「ノブコ、僕は困っています。なんとか大森林での戦争を止めたいのですけど、なにか名案はありませんか?」
「はい、いくつか案があります」
「えっ!? あの、戦争を止めるのですよ。龍族の長老を殺したと怒りに燃える龍王の軍との戦争をです」
「はい」
ノブコはニコニコ楽しそうな笑顔です。
「うふふ、ノブコの笑顔を見ているとなんだか安心できます。教えて下さい」
「では、まずは一つ目です」
一つ目ということは、他にもあるというのでしょうか?
この瞬間でいくつも考えついたのでしょうか?
「は、はい」
僕の喉がゴクリとなりました。
「これが出来れば確実に止められます。うふふ、それは――」
「そ、それは」
「勇者エイゼン様を探し出すことです。エイゼン様に仲裁を頼めば龍王も断れないでしょう」
「それは無理です」
――はっ!! いけません。僕は即答してしまいました。
「ですね。一番確実な方法だと思いますが、エイゼン様の居場所を探し出すのが一番むずかしい事のようです。では次の案です」
ノブコは何もつっこまずに次にいってくれました。
まるで、僕が「無理」と言うのがわかっていたみたいです。
「はい、次の案をお願いします」
「マモリ様が、龍族の集落を襲い大暴れをして、その力を見せつけるというものです。龍王をぶち殺せれば、戦争は回避できるかと思います」
「なっ、ななな」
ジャスさんが可愛い目をグリグリ動かして驚いています。
そりゃあそうです。
嘘でしょという顔でシラタキ様の顔を見ました。
でも、シラタキ様は真剣な顔をして無言でうなずきました。
――でも、僕にはそれができません。
以前どこかの王様を殺してしまって、すごく後悔しているからです。
だけど、それも言えません。
「ノブコ。僕は今、魔力が不足しています。龍族を大勢切り倒し、龍王の首をはねることぐらいは、たやすいと思いますが、倒した龍族全員の治癒をすると魔力が不足して、治しきれない龍族が出るかもしれません」
「そうですか。治癒は大量に魔力がいります。龍族ともなれば魔族や人間を治癒するのとはわけが違います。死者が出るかもしれないということですね。マモリ様はおやさしいから、死者が出るのが許せないのでしょうね」
「えええーーっ!! ま、まさか、龍王様の首を切るのが、た、たた、たやすいですってーーっ!! 治癒が出来ないかもしれない。そ、そそ、それで、できないですってーー!! そっちですかーー!!!! そっちが原因で、できないのですかーー!!!!」
ジャスさんが大きな口を開いて驚いています。
「ぷひっ!!」
いつの間にかメイヤが来ています。
ジャスさんの驚く顔が面白かったのか、吹き出しています。
一体ノブコは、何が言いたいのでしょうか。
出来ないことばかりを言っているようです。
「では、次の案です。耳をお貸し下さい」
ノブコは、僕の耳の中だけに言いました。
「そうきましたか」
「はい!!」
「それなら、あるいはうまくいくかもしれませんね」
「はい」
「でも、それは、ただ、ユウキ達と遊びたいだけということではありませんか?」
「あら、ばれました」
「でも、二度も断ってしまったので、現実的なこの案に乗らないといけない気がしてきました」
「うふふ。これが、世にいうあの有名な3段逆スライド方式というものです」
ノブコが言いながら、メガネを人差し指で持ち上げました。
そして、ユウキとエイリに耳打ちします。
「ノブコ! あと2日、いえ3日ください。少し子供達や難民の様子を見てから、出発しましょう」
「はい!!」
ノブコとユウキとエイリの3人が返事をしました。
「メイヤ!」
「ははっ!!」
「アッガーノ王国、北の都市、森の都オクジイールに飛んで下さい。そこで、生活の拠点を作ってください。準備ができたら3日後に小指の爪をこすってください」
「ははっ」
「あの、わたくしは、オクジイールに詳しいのですが、案内役として同行させてはもらえませんでしょうか?」
ジャスさんが案内を買って出てくれました。
「それなら、ワラワも行くのじゃ!! オクジイールの事は、まったく知らないが行きたいのじゃ! 止めても無駄じゃ! 絶対行くのじゃ!!」
「ふふふ、仕方がないですね。ユウキとノブコとエイリとシラタキ様とジャスさんの5人と同行しましょうか。でも、遊びに行くのではありません。大森林の戦争を止めに行くのですよ」
「はーーい!!」
「みんなーー!! この人はちーちゃんです。皆のお母さんでーす。そしてマオのおか……、ママです」
マオはちーちゃんを、親を失った子供達のお母さんにしてあげたようです。
でも、自分は特別でいたいためかママと呼んでいます。
それとも、最初からママと呼びたかったのでしょうか。
「みなさーーん!! こっちは、ナナお母さんでーす。レイコのマ……おかあさんです」
レイコはママとは恥ずかしくて呼べなかったみたいです。
青い肌のほっぺが、真っ赤になっています。
「ちーお母さん!! ナナお母さーん!!」
子供達がちーちゃんとナナさんをお母さんと呼びました。
まだ、はずかしくって、それとも本当のお母さんが忘れられなくて、うまく呼べない子もいるようですが、だいたいの子は呼んでいるみたいです。
「かわいいもんですなあ」
「ああ、コウさん。いいですよね。元気な子供達は」
「ここを、学校にするのですな」
「はい、子供達に読み書きと算数を憶えてもらいます」
「読み書き??」
「ふふふ、日本という国では、読み書きできない子供の方が少ないのですよ。読み書きが出来れば、あとは自分で勉強が出来ますからね」
「なるほど!!」
「コウさん、僕はしばらくここを留守にします。難民と、子供達をよろしくお願いします」
「お任せください!! ゴホッ! ゴホッ!」
コウさんは強く胸をたたきすぎてむせながら、引き受けてくれました。
僕は、お手伝いをしてくれるお婆さんと、ユゼさん達メイドさん達にも、あとのことをお願いして、オクジイールに移動しました。




