第二百九話 伝説の勇者
領都の門の前に戻ると、炊き出しのお婆さんにまざって、ユゼさん達30人のメイドさんが参加をしてくれていました。
ユゼさん達は、魔王城奪還後に魔王城のメイドをお願いしているメイドさん達です。
「ユゼさん、ありがとうございます。お婆さん達もいつもありがとうございます」
「うふふ、マモリ様。お城にいても暇ですから、気になさらないで下さい」
ユゼさんが笑顔でこたえてくれました。
「ふふふ、マモリ様。わしらがやるのはあたりまえじゃ。わしらの方こそマモリ様に感謝しなくてはならん立場じゃて」
お婆さん達が笑顔で言ってくれました。
「マオちゃーん! レイコちゃーん!」
子供達がマオとレイコを呼んで手を振っています。
すでに仲良しの友達が出来ているようです。
「お母さん、はやくー! はやくー!」
マオがちーちゃんの手を引っ張って子供達の方へ急ぎます。
「お母さん、ワタクシも行ってよろしいですか?」
レイコは言葉遣いも丁寧です。
「どうぞ」
ナナさんが笑顔で言いました。
「……」
レイコが不安そうにナナさんを見つめます。
「うふふ、安心して下さい。すぐに私も行きます」
素早くナナさんがレイコの視線に気がついて言いました。
「はい」
レイコはうれしそうに走り出しました。
親を失った子供達が集められています。
すでに100人近くになっているようです。
「じゃまだーー!! どけーー!!」
荷車の集団がやって来ました。
少し態度がでかいですね。
「お前達はなんじゃ?」
「うるせーババアだな。見てわからねえのか。領主様直属の輸送隊だ!」
「輸送隊じゃと?」
「まったくよう! マモリ様の食料はくそまずいから、前線の王国軍からいただいた食料を運んで来てやったのさ。『マモリ様の食料はわしら前線の兵士が食べる。避難民にはうまいとは言いがたいが、こっちの方がマモリ様の食料よりはましだろう』そう言ってお優しい領主のゲドル様が、俺達に運ばせたんだ。そんなくそまずい食料の代わりにこっちを使うんだーー!」
「さあ行くぞ!! おい、こむすめーー!! 道をあけろーー!! ついでにババアも道をあけろーー!!」
「ひひひ、嬢ちゃん、わしらは邪魔だそうじゃ」
お婆さんが、いたずらっぽくいいました。
ゲドル大将軍はゲドル大将軍なりに、難民のことを気遣っていたみたいですね。
でも、くそまずいは余計です。
「えーーーーっ!! な、ななな、なんだってーー!!!!」
輸送隊の兵士から驚きの声が上がりました。
「ぷっひっひひっ」
お婆さんが吹き出しました。
「ももも、申し訳ありませーーん!! あっちに美少女がいたのであっちがマモリ様だと思いましたーー!!」
隊長さんでしょうか、僕の所へきて土下座をしました。
ユウキを僕より上の美少女と判断したみたいです。
正解です。
ユウキこそが世界一の美少女です。
「いいですよ。お手をお上げ下さい。勘違いは誰にでもあります」
なんだかユウキをほめられたみたいで、気分が良くなっていたのか自然と言っていました。
「ははっ! ありがたきお言葉!! 失礼いたします」
隊長はそそくさと部隊にもどっていきました。
ゲドル大将軍のおかげで、難民の皆さんに少しはましな食事が提供出来そうです。
「マモリ様や、少しよいかのう」
僕は喧騒から離れて1人静かな場所で、全体を見ていました。
そこへ、白いメイドのシラタキ様がヒソヒソ声で話しかけてきました。
横に美しい女性がいます。
「はい、大丈夫です」
「この者はワラワ直属の配下の者じゃ」
「初めましてマモリ様。わたくしはジャスと申します。白龍エルジッタ様の密偵部隊の隊長をしております。お見知りおきを」
美女は頭を下げました。
「はい。それで、何がありました」
シラタキ様の雰囲気と、ジャスさんの雰囲気で嫌な予感がします。
「はい。龍王様が白龍様を見捨てる決断をなされました」
「えっ!?」
そういえば。
白龍のシラタキ様は、龍族が攻めてこないようにするための、人質ということになってもらっていたのでした。
「失敗したかのう」
シラタキ様が暗い表情になりました。
「えっ!?」
「ふふふ、ワラワはどうやら、龍王に嫌われておったようじゃ」
「なるほど」
龍王は、僕に目の上のたんこぶである白龍様を殺させるつもりのようです。
「龍王様は盟主様の森を攻めるよう、兵の動員を開始いたしました。『ふふふ、これであのババアが死んで、龍族達にはババアの弔い合戦ということができる。一石2鳥だ』と申しておりました」
「すまなんだのう。ワラワが浅はかじゃった。まさか、見殺しにされるとはのう。この上は、マモリ様にお願いじゃ」
「はい」
「マモリ様にとっては、龍族など皆殺しにするのもたやすい事じゃろう。じゃが、このババに免じて出来るだけ生かしてやってはもらえんじゃろうか。そのかわり、龍王が死んだあかつきには、ワラワ共々新王にも絶対の服従を誓わせる」
「ええっ!? 龍族を皆殺し……??」
ジャスさんが、両目を見開き驚いています。
さすがに、龍族相手に皆殺しが簡単なんて言い過ぎです。
それに、今の僕は魔力にいささか不安があります。
「シラタキ様、お手をお上げ下さい。僕を買いかぶりすぎです。でも、龍族が戦争を仕掛けてくるなら戦わねばなりません。僕は出来るだけ戦争はしたくないのですが、なにか良い方法はないのでしょうか」
「ワラワが人質になるのが一番良い方法と思っておったのじゃが、裏目にでてしまった。ワラワに策なしじゃ」
「あの、エルジッタ様。マモリ様とはどの様なお方なのですか? 失礼ですが龍族を皆殺しにできるなど――」
ジャスさんが言い終わる前にシラタキ様はかぶせるように言いました。
「ば、ばかたれっ!! 何を言い出すのじゃ! このおんかたは、崇高なるおんかたじゃ。大森林の盟主にして、姫神の一族の族長にあらせられる。今は、魔王様も七剣氷のレイゾールト様も姫神の一族じゃ。配下の黒い執事メイヤ殿は龍の硬い首をやすやす切り落とす。そして、今はこの白龍エルジッタ改め、シラタキも姫神の一族じゃ」
うーーん、どさくさにまぎれて、シラタキ様まで姫神の一族を名乗りました。
魔力に不安があるのに、また、魔力が減りました。
シラタキ様の小指にも紋章を付与しました。
「おおっ!! 見よこれを、この紋章こそが姫神の一族のあかしじゃー!! これでワラワは黒龍に変身ができるようになったのじゃー!!」
シラタキ様が、ジャスさんに見せびらかして喜んでくれます。
「魔王様にレイゾールト様、大ばば様までが配下になっておられるのですか。す、すごい。すごすぎです」
「そ、それほど、すごくはありませんから、ほんとに」
「大ばば様!! 勇者エイゼン様と比べるとどうなのでしょう?」
ジャスさんは無邪気に疑問をシラタキ様にぶつけました。
「むっ!!」
シラタキ様が動きを止めました。
そして、深刻な表情になります。
「おそらくは、勇者エイゼン様じゃろうのう。もし勇者エイゼン様があらわれたらワラワは迷わず、勇者エイゼン様にひざまずく。すまんのうマモリ様、勇者エイゼン様とはそれほどのお方なのじゃ」
シラタキ様は正直な気持ちを言ってくれました。
姫神マモリに、堂々と裏切ると言ったのです。
「シラタキ様にとって、勇者エイゼン様はそれほどのお方なのですか」
僕は思わず聞いてしまいました。
「ふふふ、それほどじゃ。どこかで野垂れ死んでくれておらんかのう」
勇者エイゼンが、この世界の人々の伝説になっているのだと知りました。




