第二百八話 魔王軍進軍開始
姿勢を崩し楽にしていた兵士達が、姿勢を正して声の方を注視します。
多くの兵士が鎧を装備していますので、ガチャリと金属音が響きました。
「ぴっ!!」
マオとレイコが驚きの声を上げました。
2人の全身が恐怖に震え出します。
丘の下には十万人弱の兵士が整列しています。
圧倒的な迫力があります。
大人でも威圧される景色です。
「ぐうわあぁはっはっは!!」
ゲドル大将軍が楽しそうに、そして2人を安心させるように豪快に笑いました。
「マオ様、恐れることはありませんぞ。すべてをゲド爺に任せて、安心して肩に座っていてくだされ」
「おお、そうじゃ、レイゾールト様。ああ、いえ! レイコ様! レイコ様は安心して、このゴル爺に全てをお任せください。恐がることはなにもありません。目の前の大勢の兵士は魔王国正規軍、すべてマオ様とレイコ様の家臣、いえ家族にございます」
ゴルザード将軍は優しい笑顔でレイコの目を見つめます。
レイコはゴルザード将軍に可愛い笑顔でこたえました。
「みなのものーー!! わが肩の上とゴルザード将軍の肩の上を見よーー!!」
全員の視線が集中します。
まるで、光を集める虫眼鏡でもあるように、一点に兵士の視線が集中します。
「わが、肩を見よ! この美しい青い髪を、そして透き通るような青き肌をーー!! これこそが青きレイゾールト様の生まれかわりぃーー! レイコ様であらせられるぞぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!!!」
レイコは器用にゴルザード将軍の肩にピョンと立ち上がりました。
そして、右手を前に出します。
「レイゾォーーート!!」
レイコの手に青き剣が凄まじい光を出しながらあらわれました。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! レイゾールトさまああぁぁぁーーーーーー!!!! レイコさまあぁぁぁぁーーーー!!!!」
大歓声が上がります。
その時爽やかな風が吹き、レイコの美しい青い髪を、そして子供用の幸魂学園の制服をゆらします。
「しずまれえぇぇぇーーーーいぃぃ!!!! そして、わが肩のうえを見よぉぉーーーー!!!! この黒い髪、黒い瞳をぉぉぉーー!! この方こそ――このおんかたこそ――まっ、魔王様の生まれ代わりぃぃぃーーーー!!!! マオ様だあぁぁぁーーーー!!!! われらが魔王様だぁぁーーーー!!!!」
ゲドル大将軍の目から涙があふれ出しました。
魔王様が亡くなってからの苦労が、頭の中によみがえっているのでしょうか。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!! ま、まおうさまあぁぁぁぁーーーーーー!!!!!! 魔王さまあぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
鼓膜がビリビリ震動するほどの歓声が上がります。
兵士達の中には涙を流す者も少なくありません。
マオも器用にゲドル大将軍の肩の上で立ち上がります。
「何をなされておられます。マモリ様!!」
「えっ??」
「わしの、肩にお乗り下さい」
ゲドル大将軍とゴルザード将軍があいている方の肩を叩きます。
「えぇーーっ!! いやだよーー!!」
「ふぁははは、マモリ様!! 兵士が待ちくたびれてしまいますぞ!! ほら!! はよう! ささ、はよう!!」
ゲドル大将軍が楽しそうに鼻水を垂らしながら肩をポンポン、ポンポン、ポンポンと叩きます。
「はぁぁーーーーっ!!!!」
僕は大きくため息をつくと、ゲドル大将軍の右肩とゴルザード将軍の左肩に片足ずつ乗っけて立ちました。
「みなのものーー!! そして、このおんかたこそ!! このおんかたこそぉぉぉぉーーーー!!!! わが魔王軍の救世主にして、女神、姫神マモリ様であらせられるぞぉぉぉぉーーーーーー!!!!!! ぜんぐーーん!! 臣下の礼をとれーーーーい!!!!」
全軍が一斉に膝をついた。
鎧の音がガチャァァァーーンと天にこだました。
魔王軍全軍を静寂が包んだ。
ガヨツダラム将軍が、涙ぐみながら僕達の後ろで王の文字の入った魔王軍の旗を揚げた。
その時、突風が吹いた。
黒い魔王軍の王の旗が音を立ててひるがえった。
僕の幸魂学園の制服のスカートがひっくり返って大変な事になった。
魔王軍、全軍の前でパンツ丸出しです。
「意地悪な風です!」
僕がスカートを必死でなおしていると。
「くっくくくく」
笑いをこらえる声が聞こえます。
その声が段々大きくなり、やがて爆笑になりました。
「ぎゃあぁぁあはっはっはっ!!」
「わあぁぁぁーーーーはっはっはっ!!!!」
「な、なんてぱんつなんだーーーー!!!!」
「あの美しいマモリ様が、あんなパンツをぉぉ。ぎゃあはっはっは!!」
そうです。
僕は、どんな時でもピンクの短パンをはいています。
後ろには激豚のプリントの入ったあのピンクの短パンです。
「さすがは、神様です!!」
青い激豚の短パンを丸出しにしているユウキだけが、真面目な顔でしきりに感心しています。
「ふふふ、さすがは、マモリ様です。一気に場がなごみました」
ゴルザード将軍が、真面目な顔でこっちを見ていいました。
「ぜんぐーーん、しずまれーーい!!!! せいれつせよーー!!!! これよりわが魔王軍は、魔王様の名声を高めるため、マモリ様の名声を高めるため進軍を開始する!!!!」
ゲドル大将軍はここまで言うと、大きく息を吸った。
「ぜんぐーーーーん!!!! しんぐんかいしじゃーーーー!!!!」
吸った息をいったん止めると、それを一気に吐き出した。
それは、魔王軍全体に届く大音声だった。
「おおーーっ!!!!」
魔王軍全軍が短くそれに応じた。
短い返事だったが、魔王軍全軍、1人1人が腹の底から声を出したので大きな声となり響き渡った。
その声は、山とはいえないほど低いゴルザードの丘に反射されて、なんどもなんども、こだまがかえった。
魔王軍は綺麗に3つに割れると、それぞれの街道を目指し進軍をはじめた。
「では、マモリ様、マオ様、レイコ様、そして、ノブコ様、私達はまいります」
将軍達も丘を下りていきます。
「いやーー、すごい軍師様じゃ。我らが負けるとはつゆほども考えてオラなんだ」
サルハ将軍がフィアリス将軍に話しかけています。
「ふふふ、信頼に応えたいものですね」
フィアリス将軍が言いました。
「では、わしも行きます。逃げのゲドルの汚名を返上すべく、常に軍の先頭で戦ってまいります」
「あの、常に斥候を出し、情報の収集をして電光石火、敵の守備体制が整う前に敵をたたいて下さい」
ノブコが心配そうに言いました。
「ふふふ、お任せください。このゲドル、すでに敵の状況を抜かりなく調べておりまする」
ゲドル大将軍はノブコに片目をつむりました。
「あの、ゲドル大将軍、よろしいですか」
「む、どうなされました。マモリ様。うかない顔ですなあ」
「はい。僕は今、少しまずい状態なので、大将軍にだけは話しておこうとおもいます」
「な、なんですかな?」
ゲドル大将軍は足を止めて僕の方を見ました。
「はい。僕は今魔力の使いすぎで、回復が追いついていません。少し回復のため、安静にしますのでその事を伝えたかったのです。ああ、でもピンチの時は遠慮なく呼んで下さい。そのために静かに暮らすということなのですから」
「な、なんと。たいへんではありませんか」
「いいえ。本当に少しいつもより魔力が減っているというだけで、念のために安静にするということです。心配には及びませんので」
「はっ!! わかりました。では、吉報をお待ち下さい」
ゲドル大将軍は深々と頭を下げると歩きはじめました。
「ご武運を!!」
姫神の全員が声をそろえます。
「ゲドじいー!! またねーー!!」
マオが大きな声で言いました。
ゲドル大将軍はその声に、振り返ることはせず片手を上げて応じました。
「では、ゴルザード将軍、僕達も帰ります」
「はっ!!」
ゴルザード将軍は、心配そうな表情をしましたがすぐに頭を下げました。
「ゴルじい、またね!!」
レイコが青い髪をゆらしながら言いました。
「ははあーーっ!! レイコ様もお元気で!!」
ゴルザード将軍の目に一瞬にして涙がたまりました。




