第二百七話 姫神の軍師
「魔王国の街道はすべて魔王都に続いております。我が軍は魔王都につながる3街道を東に進軍します。中央の一番太い街道は、わしゲドルとダラムが3万で、北の街道をフィアリス将軍とサルハ将軍が2万で、南の街道をギゼイ将軍とフェイ将軍が2万の兵で進軍いたします。残りの兵はゴルザード将軍がこの砦で守備を固めます」
僕がノブコを姫神一族の軍師と紹介したらゲドル大将軍が、地図を開いて説明を始めました。
この世界は北に大森林が有り、その南に山地はなく、あっても丘ぐらいの平地が広がります。
山岳地帯はすべて大森林の北に集っていて、龍族が支配しています。
東西に広がる平地を真ん中で縦に線を引いて2分割し、東が人間の国、西が魔人の国になっていました。
今は人間に侵略されて、平地の八割が人間の国、残りが西側に追い詰められた魔人の国になっています。
魔王国の中央に魔王都が有りますが、すでに落城し人間の国の中におさまっています。
魔王軍はその魔王城の奪還を、第一の目標として進軍します。
「うふふ、私から言うことはなにもありません。ですが」
地図には太い道が、南の端と北の端にあり、中央にも1本、全部で3本描かれています。
その道が、西の都こと現在のゲドル領、領都へつながります。
領都の東にゴルザードの砦、すなわちこの場所が位置します。
ノブコはなにもありませんと言いながら、なにか言うつもりのようです。
「ですが?」
ゴルザード大将軍がくりかえしました。
「はい。わたしはこの数日間だけですが、魔人国の方達とすごしましたが感動がとまりませんでした。年端もいかない子供達が行儀良く整列し、どんなに苦しくても我慢強く耐えていました。わたしは涙が止まりませんでした。わたしは、この戦争はどうしても避けられないと思います。もし戦わなければ、魔人は王国軍に皆殺しにされてしまうでしょう。――きっと、魔人軍の皆さんは仕返しを考えている事でしょうね。でも、わたしは、その考えを捨てて欲しいと考えています」
「なっ! なんですと?」
ゲドル大将軍だけではなく、他の将軍達まで言いました。
きっと、全員復讐に燃えているのでしょう。
「まさか、敵兵を殺すなとか言うつもりですか?」
フィアリス将軍が言いました。
すぐにノブコは首を振ります。
「いいえ。敵兵を殺すのはしかたのないことです。戦争ですから。ですが、民間人は殺さないで欲しいのです。それだけではありません。村や町を襲い村人に暴行したり、物資を奪ったりするのもやめてもらいたいのです」
「で!?」
ゲドル大将軍の目が殺気を帯びました。
「うふふ」
笑ったノブコの目にも殺気がこもります。
「レイコちゃん、剣を貸して下さい」
ノブコはレイコの方に手を出します。
「レ、レイゾォート」
レイコは剣を出して、ノブコに渡しました。
重い青い剣をノブコは軽々と片手で受け取ります。
「うおっ!!」
「あっ! あれはレイゾールト様専用の剣!! レイゾォートだ!!」
「まさか、あの青い少女はレイゾールト様の生まれかわりなのか!」
将軍達が驚きの表情です。
「レ、レイゾールトさまーー!!」
ゴルザード将軍がレイコに駆け寄ります。
そうでしたゴルザード将軍はレイゾールトさんの副将でした。
「無礼者!!」
マオがレイコに抱きつこうとしたゴルザード将軍を投げ飛ばしました。
「げふっ!!」
でも、骨が折れる音はしませんでした。
ちゃんと手加減したみたいです。
仰向けに倒れるゴルザード将軍を見おろして、ノブコは少し笑うと続けます。
「うふふ、あなた達は先程、マオちゃん、いいえ、魔王様に臣下の礼をとりました。となれば魔王様の配下です。そして、これより進軍するのは魔王軍です。魔王様の軍が村人を殺したり略奪したりすることは、魔王様の名をおとしめることになりはしませんでしょうか。それどころか、それはすなわち、姫神マモリ様の名声をおとしめることにもなります。マモリ様の名声をおとしめる行為は、このわたし姫神の軍師が決して許せません。不服のあるものは、このレイゾォートのさびになってもらいましょうか」
ノブコは足元で大の字になっているゴルザード将軍の首にレイゾォートの切っ先を近付けました。
剣の方を見たノブコのメガネがキラリとひかり、青く光を反射します。
そして、視線をゲドル大将軍に向けるとメガネの、ガラスの奥のノブコの目が青く怪しくゆらりと輝きます。
「うおっ!」
ゲドル大将軍が、ノブコの迫力におされます。
「うふふ、わたしは敵国の民間人にやさしく出来る軍人は、世界に2つしか存在しないと考えています。一つは日本の自衛隊、そしてもう一つが魔王軍です」
「し、しかし、それでは」
フェイ将軍が言いました。
「いいではありませんか。逃げる村人は、どうせたいして荷物を持っていけません。背中に背負える分だけです。残りはどうせ置いていかなくてはなりません。略奪などしなくても、村人がいなくなってから、ゆっくりいただけばいいではありませんか。それに、村人を大切に扱うとわかれば、前線で必死に戦う理由もありません。苛烈な抵抗はなくなります。多くの荷物を運ぶ村人は賊に狙われます。そんな村人の護衛まで引き受けて、賊を追っ払ってやれば村人は感謝をしてくれますよ。それは、すなわち魔王軍の名声を上げることになります」
「な、なるほど」
ギゼイ将軍がうなずきます。
「うふふ、難民の苦しみを一番わかるのが、魔人の国の人ですよね。昔、私の国、日本国は戦争をしました。敵国は民間人を狙って攻撃をしました。可哀想に武器も持たない女子供が焼かれて大勢殺されました。魔王軍は民間人を狙って殺してはいけません。そんなことをすれば、魔王軍の名をおとしめます。王国軍と同じ事をしてはなりません。むしろ、あえて逆をして、魔王軍の名声を、ひいてはマモリ様の名声を上げるよう、つとめてください」
ここで、ノブコは青い剣をレイコに返しました。
剣を返すと話を続けます。
「それでも納得が出来ない人には、さらにこう伝えて下さい。これは、策略であると」
「えっ??」
将軍達は既に納得していたようなので、ノブコのこの言葉に驚きの声をあげました。
「うふふ、大勢の難民が領都におしかけてくれば、その難民に食料を支給しなくてはなりません。領都の食料はたちまち底をつくでしょう。財政難にもおちいります。難民を大切に全員元気に送り出してやれば、それが食料庫を空にする攻撃になるのです。魔王軍は名声を上げながら、敵国の食料を減らす攻撃をするという策略です」
「な、なるほど!!」
「さ、さすがだ!!」
「さすがは姫神の軍師!!」
「これこそ、姫神の一族にふさわしい策略だ!!」
「マモリ様の名声、魔王軍の名声を上げながら、したたかに食料を奪い、王国を苦しめる策略だ!!」
「見事だ!!」
将軍達が感服しています。
「では、ゲドル大将軍、出陣の掛け声をおねがいします」
「むふふ、その前に、マオ様。おじちゃんのところへ来てくれますかな」
ふふふ、それは無理です。
マオは人見知りで、ちーちゃん以外には初対面で近づきません。
「えっ??」
マオはちゅうちょせず、ゲドル大将軍の所に歩いていきます。
僕は思わず声が出ました。
「おおーー!! おじちゃんの肩に乗って下さりませ」
ゲドル大将軍がしゃがむと、マオはうなずいて、うれしそうに素直に肩に乗ります。
――えーーっ!!
「で、では、レイコ様はゴルザードおじちゃんの肩に」
――えーーっ!! なんでーーっ??
レイコも素直にゴルザード将軍の肩に乗ります。
「ぜんぐーーん!! 注目せよ!!」
ゲドル大将軍が大声を出します。
コウさんの声も大きかったのですが、ゲドル大将軍の声も大きいです。




