第二百六話 最前線の丘
将軍達がゴルザード砦の丘の頂上で僕達を待っていました。
丘の頂上からみると砦は塹壕が縦横無尽に掘られ、もはや要塞と化しています。
丘の下から、兵士の姿を見られる事もなく、どこへでも移動出来るようになっています。
まさに難攻不落の要塞です。
視線を少し上げると、荒野に兵士が綺麗に整列しています。
その数およそ十万。
「準備万端ということですか?」
「はい」
答えてくれたのは美しい、そしてグラマーな女性です。
「まさか、ギゼイさんですか?」
「はい。毎日マモリ様からいただいた食料を食べて、体を鍛えておりましたらこのようになりましたわ」
「すると、あなたは?」
ギゼイ将軍の横に赤髪で顔立ちが上品な女性が立っています。
ニコニコと可愛い笑顔で僕を見ています。
「うふふ、フィアリスです」
「ええ! あの御姫様のようなほっそりした、フィアリスさんですか」
七剣の紅一点、炎のフィアテシアの娘さん、フィアリスティーナ将軍が筋肉りゅうりゅうになっています。
背も高くなっているのではないでしょうか。
「うふふ、わたくしもギゼイ同様、成長しました。胸まで成長してビックリです」
言われて胸に目をやってしまいました。
確かにでかいです。
「見違えました」
僕は、視線をギゼイさんの横の男の人に移します。
「フェイです」
「フェ、フェイさんですか。わかりませんでした」
ギゼイ将軍の弟のフェイさんです。
フェイ将軍も驚くほど成長しています。
フェイ将軍の横に白髪の老人がいます。
老人ですが体は大きくて、筋肉が発達しています。
誰なのでしょう。
「わしはサルハでございます。体が衰えて引退して、寒村に領地をもらい、村長をしておりましたが、マモリ様にその村を救っていただきました。その時にいただいたマモリ様の食料を食べておりましたら、健康で元気になりましてな。こうして馳せ参じた次第にございます」
僕の視線を感じて自分から名乗ってくれました。
「ひひひっ、われらと同じじゃな」
一緒に来た老兵士達が笑いました。
「ゴルザードさんも、一回り大きくなっています。見違えました」
この砦を守っていたゴルザード将軍も、やせてやつれていましたが、肌がつやつやになり、体がやはり一回り大きくなっています。
「ふふふ、愛着のある鎧が使えなくなりもうした」
ゴルザード将軍が頭を深く下げてしばらく静止して、ゆっくり顔をあげました。
と、いうことは前より体が成長したということなのでしょうか。
「あなたは――ガヨツダラムさん。見違えました」
はげ頭だけは同じですが、見た目が変わっています。
ゲドル領のお城であったときは、ただの脂肪が付いて顔も膨らんでいて、腹も出ていましたが、いまはもう脂肪までが筋肉になり、巨大な筋肉のかたまりのようになっています。
「ふふふ、頭だけは変わりませんでしたがな。がはははは」
ガヨツダラム将軍は頭をペシペシ叩きます。
「あれっ?? 肝心な人がいません。ゲドル大将軍はどうしたのでしょうか?」
「あの、横を……」
ギゼイ将軍が、申し訳なさそうに言います。
「さっきから、この大男近いんですよね。なれなれしい!!」
僕の横に背が高くて、顔立ちが上品で、とてもりりしい、女性にもてそうな色男が、僕にさわりそうな位置で立っています。
僕が顔に視線を向けると、人なつっこい笑顔になりました。
美形ないい男ですね。
「全く大事なときに遅刻とは、ある意味キモが座っていますね。だから、だれなんですかあなたは、近いんですよ!!」
また、少し距離を縮めてきた大男に、つい声を荒げて言ってしまいました。
「あ、あの、マモリ様。その方がゲドル大将軍です」
フィアリス将軍が、笑いをこらえながらいいました。
「ふぇっ!! か、変わりすぎでしょう!!」
「そ、そうですかな。もとに戻っただけにございます」
将軍達が首をふっています。
「ふふふっ、全員が否定していますよ」
待ってください。
じゃあ、ゲドル大将軍は顔まで変わったのですか。
僕の収納していた携帯食料には整形の機能まであるというのでしょうか。
たぶん違いますね。
太っていたために、ずっとつぶれたカエルのような顔だったのでしょう。
やせたらこの顔だったということなのでしょう。
「ところで、このチビはなんでしょうか」
ゲドル大将軍は、こともあろうにマオの頭をなでようとしました。
「無礼者!!」
マオはゲドル大将軍の指をつかむと目にも止まらぬ速さで地面にたたきつけました。
「げふっ!!」
ゲドル大将軍は地面に叩き付けられると、口からツバが空高く飛び出しました。
体からは、ボキバキと何かが砕ける音がします。
真っ直ぐ天高く飛んだツバが長い滞空時間のあと、そのままゲドル大将軍の顔にビシャリとかかりました。
「ぐああぁぁぁーーーー!!!!」
ゲドル大将軍は一瞬意識が飛んだみたいですね。
タフなゲドル大将軍の全身の骨を一撃で砕いたみたいです。
「マオちゃん、ダメですよ!! ちゃんと治してあげてください!!」
ちーちゃんがマオに言いました。
マオはコクンとうなずくと手をゲドル大将軍に向けます。
「がはっ!! これはきついマモリ様に投げられたときよりきつかった」
ゲドル大将軍は体の土を払いながら立ち上がりました。
まあ、僕はケガしない程度に手加減していましたからね。
「ところで、この御方はどちら様ですかな」
サルハ将軍がマオを見ながら言いました。
いい質問ですね。
「ふっふっふ。皆さんこの子は、この子こそは、魔王国の――」
僕はもったい付けて将軍達の顔を1人ずつ見ていきます。
「ごくり」
将軍達全員に緊張がはしります。
「魔王様の生まれかわりです。名前を姫神マオといいます」
「ま、ま、ま、まま、魔王さまーー!!」
全員が膝を折り、臣下の礼を取りました。
「残念な事に生まれ変わっていますので、生前の記憶はありません。ですが、その実力は生前を上まわっています。マオ! その実力を――」
マオはゲドル大将軍の治癒が終わるとちーちゃんの後ろに隠れていましたが、腕まくりをしながら前に出てきました。
その顔には不敵な笑顔が浮かびあがります。
「そ、そ、そ、それには及びません。タフなゲドル大将軍を投げ飛ばし、全身骨折にした時点で十分わかっておりまする」
将軍達が頭を下げて言いました。
それを聞くとマオもしょんぼり頭を下げました。
そして、定位置のちーちゃんの後ろへスゴスゴと帰って行きます。
僕は、その後全員に同行した姫神の一族を紹介しました。




