第二百四話 大声
魔人達は相変わらず綺麗に整列して我慢強く順番を待ちます。
たぶん自動販売機が壊されずに、道端に置いておける国は日本国と、この魔人国だけでしょう。
「あっ!!」
僕は整列している魔人の長い行列を見てがくぜんとしました。
がくぜんとして、膝をついてしまいました。
「まもりざまあぁーー!!」
泣き声が聞こえます。
すごく大きな人です。
いいえ、もはや巨人です。
そんな人が泣きながら僕の名前を呼んで、領都の北角を曲がってドタドタと近づいてきます。
――今は、それどころじゃないのにーー!
「なんですか?」
「ずびばぜーーん。ばぼりざばのお考えを知りもせずぅーー!! かいでくだざーい。大勢のお母さんを抱きしめてきましたーー!!」
「ぎゃあぁぁーー!! くさーーい!! なんなんですかーー!! ばかなのですかーー!! 皆が食事をしようとしているのにーー!! 臭すぎです! あっちへ行ってくださーーい!! しっ! しっ!」
あんのじょうユウキに怒られました。
「はーーっ!! ずびませーーん!!」
巨人はユウキに頭を下げてあやまります。
「ユウキ、ダメだよー! この人は領主代行のコウさんだよ」
「えっ!? でも、臭いものはくさいのです。人の迷惑は領主代行様でも考えるべきです」
「そんな事より、コウさん! ただちに衛兵の埋葬作業を止めてください!!」
「そんなことより……」
ユウキが小声で言いました。
「わ、わかりました。なぜかは、わかりませんがわかりました」
コウさんはそう言うと大きく息を吸いました。
胸だけではなくぽっこり、おなかまでふくらみました。
「ワレは領主代行コウであーーる!! 埋葬作業中の全兵士にめいずぅーーる!! ただちに作業を中止せよーー!! くりかえぇぇーーす!! ただちに作業を中止せよーー!!」
大きな声です。鼓膜が痛くなるほどです。
領都周辺数百メートル位には届きそうです。
コウさんは留守番を任されていますが、戦場では優秀な将なのでしょう。
体の大きさからいっても、ゲドル大将軍とだっていい勝負をするのではないでしょうか。
「ありがとうございます」
「いいえ、マモリ様。このような事は、ぞうさもございません。頭をお上げください。私ごときにもったいないことにございます。して、どういう理由で作業を止めたのでしょうか?」
「あーーっ、それですか。それならば、この整列をする行列を見てください。なにか、お気づきになりませんか?」
「だれか、行列を乱すようなやからでもいるのでしょうか? ふむ! 綺麗にそして静かに整列しております。問題はないことのように感じますが?」
コウさんは行列を見つめます。
「お、お願いします。私は盗賊に全てを奪われました。うつわがありません。どうか、手の上に直接おねがいします」
湯気の出る熱いスープを手の上に直接のせて欲しいと懇願する女性の声が聞こえて来ました。
みすぼらしいビリビリの服を着て頬はこけ髪はボサボサです。
やっとの思いでここまでたどり着いてくれた尊い命です。
この言葉を聞いて、姫神の女性陣の目に涙がうかびます。
熱いスープを子供のところへ素手にうけて運ぼうというのです。
「お母さん、安心してください。ちゃんとこちらでウツワもスプーンも用意いたします。とてもまずいスープですが、少しずつでも食べてください。きっと元気がでるはずです。まずすぎても捨てないでくださいね。はいどうぞ」
ユウキが、ウツワとスプーンを用意してスープを渡しました。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。ありがとうございます」
お母さんが、お辞儀をして急ぎ足で帰っていきます。
きっとその先にはお母さんの帰りを待つ子供がいるのでしょう。
「うふふ、次の方どうぞ」
ユウキはうれしそうに見送ると次の人にスープを配ります。
「あの、マモリ様。私にはこの行列を見てもマモリ様と同じ景色は見えていないようです。どうか、私にもわかるように説明をしていただけないでしょうか?」
「見てください。行列の中に子供がいます。見えますか?」
「はい。あのあたりは、子供ばかりです」
コウさんは後ろの方で、おびえながら行列に並ぶ子供ばかりの場所を指さしました。
「ふふ、コウさんにも僕と同じ景色は見えていますね。僕はここについてすぐに、治癒と回復の魔法を広範囲にかけました。なるべく広範囲にしたかったので薄く弱い効果しかないと思いますが、魔力を大量に消費して魔法をかけました。その程度の弱い効果の魔法でも、生きている人なら歩くことが出来るぐらいには回復しているはずです」
「はあ、そ、そうですか」
コウさんはまだわからないみたいです。
「うふふ、ですから。ここに子供だけで来ているということは。お母さんが死んでいるという事になります」
「おおっ!!」
「すっと、一緒にいたかったのでしょうけど、お母さんの遺体を残してここに来てならんでいるのです。いいえ、お母さんの死を受け入れられずに、生きていると思って行動しているのかもしれません。スープを受け取ると、自分の帰りを待つお母さんのもとに走ってもどり、横たわるお母さんの口にスープを『フーフー』して良くさましてから、流し込むかもしれません。残念な事に僕のスープに死者をよみがえらせる力はありません」
僕は暗い気持ちになりました。
「うおっ! マ、マモリ様……」
コウさんが心配そうな顔になり僕の顔を見つめます。
僕はいったいどんな表情をしているのでしょうか。
「子供達が戻るのは、母の遺体の所です。僕達はその遺体を勝手に埋めてしまったかもしれません。だから、作業を中止したのです。最後に子供達にお別れをする時間をあげたいと思ったのです」
「ぐっ」
コウさんは、くちびるを噛みしめました。
「コウさん、衛兵を集めて、こっそり子供達のあとを追わせてください。その先には残念ですがお母さんの遺体があるでしょう。その死を伝えてください。こころある対応をお願いします。恐らく遺体がなくて、泣き叫んでお母さんを捜す子供もいるでしょう。お母さんのもとを離れるのじゃなかったと、後悔してぼうぜんと立ち尽くす子供もいるかもしれません。それは僕達が勝手に埋葬してしまったお母さんの子供です。お墓の場所を教えてあげて下さい。お母さんの特徴を聞いて、できるだけ本当のお母さんのお墓に案内してあげて下さい。親身になって対応してあげて下さい」
「ははっ!! このコウ、マモリ様の期待にこたえられるよう、遺児達に心ある対応をいたしまする。ただちに行動にうつります。失礼します!」
「はい。お願いいたします」
「うふふ、とてもやさしい、いい領主代行様ですね」
吉田先生が優しい笑顔で僕に言いました。
「ほんとにーー!!!!」
姫神の女性達が声をそろえます。
「うおぉぉーーっ!! 衛兵どもーー集合だーーっ!! マモリ様は素晴らしいぞーー!! あの可愛さ、美しさで、心までそれにふさわしい美しさだーー!! 俺はあの御方に生涯の忠義を尽くすぞーー!! あの御方のためなら命すら投げ出せる!!」
コウさんの大声が聞こえて来ました。




