第二百話 初めてのお母さん
「ぎゃあああぁぁーーーっ!!」
阿鼻叫喚の悲鳴があたりに響きます。
「どうしたー!!」
増援の兵士が来たみたいです。
「ろ、狼藉者だーー!! 捕らえろーー!! 抵抗する者は切り捨てても構わない!! 捕らえるのだー!!」
「なんという事じゃ! 兵士達が子猫の様にもてあそばれておる!!」
お婆さん達からため息のような声が聞こえます。
増援もまるで役に立たないほど圧倒的な強さです。
「くそーーっ!!!! 増援だーー!! もっと増援を集めろーー!!」
この頃になると、力加減がわかってきたのか、行動不能の兵士が増えてきました。
全員かなり手加減されて倒されていきます。
毎日の魔王様との修行で、皆さんはそうとう腕を上げているようですね。
修行の成果が見えてきました。
マオは、衛兵の体をぬいぐるみのように扱います。
ここから見ていると大人の兵士に重さが感じられません。
次々放り投げていきます。
いつもちーちゃんの影に隠れていますが、その実力はやはり魔王様ですね。
「なっ! なっ! なっ! なんなんだーーっ!! なんなんだおまえたちはああぁぁぁーーーー!!!!」
衛兵の隊長が絶叫すると、大きな口を閉じることが出来ません。
目も見開かれて閉じることを忘れてしまったようです。
隊長の前に行動不能の兵士がみるみる増えていきます。
「しずまれーー!! しずまれーー!! 領都の前で騒々しいぞ!! お前達は何をしているのだーー!!」
領都に続く道から声がしました。
僕は声のする方を見ました。
護衛をつれた身分の高そうな知らない大男が近づいてきます。
顔は優しげですが、体には発達した筋肉が付いているのが服の上からでもはっきりとわかります。
さらに、身長がとにかく高い。
護衛の兵士の頭が胸までしかありません。もはや巨人です。
人間山脈です。
「領主代行の御前である。一同の者、ずがたかーーいひかえおろーー!!」
戦っていた兵士達が手を止め臣下の礼をとります。
「皆さん、僕の後ろへ!! すぐに平伏して下さい」
姫神の一族の皆さんが僕の後ろで素早く平伏します。
お婆さん達まで僕の後ろで平伏しました。
僕とユウキとメイヤとシラタキ様は最初から正座をしています。
後は頭を下げるだけです。
僕は頭を下げて再び地面にひたいを付けました。
話のわかる人だといいのですけど。
「なにごとだ!! そうぞうしい!!」
領主代行の副官でしょうか。
領主代行の横の男が大きな声で言いました。
「理由を申してみよ」
領主代行が声を荒げることなく、いいえ、むしろ静かに言いました。
「ははっ!! そこにいる狼藉者が暴れているので捕らえようとしておりました。見てくださいこの惨状を!」
衛兵の隊長が頭を下げたまま言いました。
そして、倒れたまま動けない兵士の方を指さしました。
「な、なんじゃとー!! お嬢ちゃん達はわしらを守ろうとして――」
「だまれーーっ!! 領主代行の御前である!! 勝手に発言をするナーー!! 愚か者め!!」
お婆さんが言うのをさえぎって副官が怒りを爆発させました。
「ふむ、衛兵に反抗するとは許しがたいな。この者達の顔が見たいおもてを上げさせよ」
「ははっ!! 一同の者、おもてを上げよ!!」
「みなさん!! 顔を少しだけあげて下さい。でも、領主様の顔を見てはなりません。目は伏せたままでお願いします」
僕はあわてて付け足していいました。
下賤の者が直接領主様を見たらそれだけで死刑になるのがルールです。
領主代行とは僕達から見れば領主様です。
領内においては王様と同じ権限を持っています。とにかく偉い人なのです。
きっとユウキ達は知らないでしょう。
「なっ!!」
領主代行様は驚きの声を出しました。
でも、それを隠して続けます。
「代表者よ、発言を許す。もうし開きをしてみよ」
「はい。ありがとうございます。僕の配下が馬鹿な衛兵をこらしめていました。僕が命令をしてやらせました。悪いのは僕です。罰するのなら僕だけでお願いします」
僕はふたたび平伏して答えました。
「ふふふ、衛兵達よ。正直に申せ、この者達はいったい何をしようとしていたのだ?」
「こ、この者達は突然我らに襲いかかって来ました。そして殴る蹴るの狼藉を」
「突然襲ってきたと申すのか? 理由もなく」
「ははっ!! その通りにございます。厳しいさばきをお与え下さい。ひひっ」
衛兵の隊長の勝ち誇った嫌な笑いが聞こえました。
「ふーーっ!! まいったなあ!! これじゃあ、俺が一番の悪者じゃねーか! 代表者様お手をあげてお立ち下さい!!」
領主代行様が言いました。
「えっ??」
領主代行様が言えば従わないといけません。
僕は、立ち上がりました。
「ばか者! 何をしている。全員ずが高い。平伏するのだーー!!」
そういうと、僕の前で領主代行様みずから平伏しました。
「えっ??」
「わかりませんか?? マモリ様、私はコウです。ギゼイの弟のコウです」
「コウさんですか? そんなに大きかったでしたっけ?」
「ふふふ、マモリ様からいただいた食料を毎日3度食べておりましたら、このように成長いたしました。で、本当のところ何をしていたのですか?」
「はい。難民に食料の炊き出しをしようとしていました。と、その前にコウさんも皆さんも楽にして下さい」
「ありがとうございます。おい! お前達! 黒い執事と美少女には自由にさせよと言ってあったはずだが、なぜこのようなことに?」
コウさんは御礼をいうと立ち上がり、衛兵の隊長に質問しました。
「お、おそれながら、おそれながら申し上げます。この方は黒い執事と白いメイドを連れていました。さらには美少女ではなく超絶美少女です」
「ふふふ。そうか、やはり私の責任か。マモリ様、私の説明不足のせいでお手間をとらせてしまいました。罰はこの私が一身に受けます。煮るなり焼くなりご存分に処分を」
コウさんはふたたび平伏しました。
「もう、いいですよ。すんだことです。そんなこと」
僕は衛兵の隊長を見ました。
衛兵の隊長はガタガタと震え小さく丸くなっています。
「それより平伏ついでです。紹介したい人がいます。そのまま平伏したまま待っていて下さい。ちーちゃん、ナナさん! マオとレイコと僕の横に来て下さい」
「はい」
ちーちゃんとナナさんが返事をして、幼いマオとレイコの手を引いて連れて来てくれました。
僕の横に来るとマオとレイコはちーちゃんとナナさんの影に隠れます。
「みなさん!! おもてを上げて下さい。良く見てくださいこの二人を!!」
「……」
魔人達全員が、2人に注目しましたが何の事か分らない様子です。
「うふふ。僕の左にいる幼女が姫神マオ、そしてその隣がお母さんのちーちゃんです」
「えっ!」
ちーちゃんが驚いた顔をして、すぐに涙ぐみました。
「お、おか、おかあー……お母さん!」
そしてマオがちーちゃんをお母さんと呼びました。
ちーちゃんが、マオをギュッと抱きしめます。
そうですよね。
マオは「ちーちゃん」と呼んで「お母さん」とは呼んでいませんでしたものね。
初めてのお母さんですね。
よかったですね。
「僕の右にいるのが姫神レイコ、横にいるのがお母さんのナナさんです」
「お母さん」
レイコがマオの真似をしてナナさんに抱きつきました。
レイコは既にお母さんと呼んでいましたね。
「この姫神マオこそが魔王様の生まれ変わりです!! そしてレイコこそあの七剣氷のレイゾールト様の生まれ変わりです!!」
「おおっ!!」
魔人達から声があがりました。
でも少し小さいですね。
信じられないということでしょうか。
ですよね。
「あの、マモリ様、なにか証拠のようなものを見せていただけたら、より実感がわくのですが」
コウさんが言いました。
「確かにそうですね。レイゾールト様は専用の武器がありましたね。確か専用の剣レイゾォート。レイコ持っていますか?」
レイコはパソコンの前に座って一覧表を見ているような目の動きをはじめました。
体は微動だにせず、目だけをキョロキョロ動かします。




