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勇者はマモリたい  作者: 覧都
第2部

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199/208

第百九十九話 可哀想な衛兵

 隊長の前には、やはりメイヤの黒い靴とズボンのスソが見えます。

 そして、その横には白い靴です。

 たぶん、僕の頭に何かが落ちた感覚があったのは、隊長の吐いたツバですね。

 僕にツバを吐きかけてメイヤがキレないはずがありません。

 ついでにシラタキ様もキレてしまったのでしょうか。

 嫌な予感は的中です。


 となれば、隊長の体は3枚におろされていますね。

 これでまた治癒魔法を使用しないといけません。

 体の損傷が大きいとそれだけ沢山の魔力が必要です。

 節約したいのですが、僕は目の前で助けられる魔人の命は守ると決めていますから、たとえ理不尽な事をされてもやはり助けます。

 すでに、3枚におろされる痛みと恐怖を味わっていますからみそぎは終わっていると考えてあげましょう。


 僕は隊長が3枚におろされているのならいいかと、視線をさらに上にあげました。


「えっ!?」


 驚きました。

 黒い執事メイヤの、硬い龍の首すら一刀両断する漆黒の剣。

 真っ白なメイド、シラタキ様の白い長い爪。

 その2つを人差し指と親指の2本で止めている人がいます。

 体には幸魂女学園の制服です。


「うふふっ」


 僕と目が合いました。

 そのとたん天使の笑顔です。


 ――か、かわいい!!


「ユ、ユウキ!!」


 僕が名前を呼ぶとユウキは急にきっと眉をつり上げました。

 ユウキが怒りの表情を作ると、ゆっくりメイヤと目を合せ、シラタキ様と目を合せました。


「メイヤ!! シラタキ様!! 2人とも神様の横に座りなさい!!」


 ユウキがきつい口調で言いました。

 メイヤとシラタキ様が一瞬驚いた表情をしましたが、素直に僕の両横におとなしく座ります。

 僕の右横に座ったシラタキ様が僕の体に密着して、うれしそうにします。

 それをユウキがすぐに見つけると、その間に割り込んで来ました。


「ぎゃーーっ!! くさーーい!! 神様、なんでこんなに近くにすわるのですかーー!! くさいから、もっとあっちへいってくださーーい!!」


「ええっ!!」


 僕は最初からここに座っていたのですけどねえ。

 仕方が無いので僕は、メイヤに少し移動してもらってユウキから1メートル位離れて座り直しました。

 メイヤ、僕、1メートル位の空間、ユウキ、シラタキ様の順で隊長さんの前に正座をしています。

 隊長さんは、ボウゼンとしていましたが僕達全員が平伏すると我に返りました。


「き、き、きき、きさまらーー!! よくも衛兵の俺に剣を抜いたなーーっ!! 全員死刑だ!! 皆殺しにしてやる」


 僕は、顔を上げて隊長の方を見ました。

 隊長の顔には狂気が宿っています。


 ――やばいですねえ。


 隊長は、手に持つ木の棒を投げ捨てると、腰の剣を鞘からゆっくり抜きます。

 抜きおわると、僕達の姿をゆっくり1人ずつ見てニヤリと不気味に笑います。

 舌をニュルリと出すとくちびるを舐めて剣を振りかぶります。

 どうやら、本気のようですね。

 絶体絶命のピンチです。


「よすんじゃ!! お前さんは、その子に命を助けられたんじゃぞ!! いい加減腹が立ってきたわい!! その娘さん達を殺すというのなら先にわしを殺すとええじゃろう!!」


「そうじゃ!」

「そうじゃ!!」


「どうせ生い先短いババアじゃ!! わしらから先に殺せばええじゃろう!!」


「ころせーー!!」

「ころせーー!!」


 お婆さん達が両手を広げて隊長の前に立ちはだかってくれました。


「なにーー!! ババアーーッ!! ふふっ!! おもしれえ!! いいだろう、てめー達から冥土に送ってやる!! お前達なにをしている!! このババア達から先に皆殺しにしろーーっ!!」


 隊長が叫ぶと、手下の衛兵が手に持つ木の棒を投げ捨て、全員が剣を抜いた。


「ふーーっ。まいりましたねえ。僕達だけなら黙って死刑になろうと思っていましたが、こうなってしまうと僕達は罪のない、か弱いお婆様を守らなければなりません。みなさーん出番ですよー!!」


 僕の声を聞くと最初にノブコとエイリが走ってきました。

 そして正座する僕の前に立ちます。


「……」


 うーーん、目のやり場に困ります。

 2人の制服は、スカートがとても短い、ミニスカートというやつです。

 この位置からだと中が丸見えです。

 セクシーな大人の下着です。

 誰に見せるつもりなのでしょうか?

 み、見るつもりはなかったのですが、一瞬だけ見えてしまいました。


 遅れて皆がお婆さんの前に立ちます。

 そうですよ。

 ノブコとエイリは立つ位置が間違っています。

 なんで僕の前なんですかー。

 お婆さんの前に立たないとー。


「なんだー!! きさまらーーっ!! 邪魔をするならてめーらからぶち殺すぞ!!」


「みなさん、かまいません、少しこらしめてやって下さい。ただし、子猫と遊ぶぐらいの力でお願いします。皆さんは強すぎるはずですからね。さあ、姫神の一族の恐ろしさを教えてあげてください」


「おおーーっ!!」


 吉田先生も後藤先生も、会長も、ちーちゃんもナナさんも。


 ――ええーーっ!!


 マオとレイコのちびっ子二人も右手をあげて雄叫びを上げました。


「なにーーっ!! 子猫だとーーっ!! なめやがってー!! ヤロウどもーー!! ぶちころせーー!!」


「おおーーっ!!」


 衛兵達もやる気のようです。


「ユウキは行かなくてもいいのですか?」


「かみしゃま」


 ユウキは僕のにおいが臭いのか、鼻の穴に指をつっこんでいます。

 全く残念姫です。

 千年の恋もさめてしまいます。

 しかし、女の子が指を鼻の穴に突っ込みますかねえ。

 でも。


 ――めちゃめちゃ、かわいーいぃ


 僕はヨロヨロ、ユウキに両手を広げて近づこうとしました。


「いくら、かみしゃまでも、それ以上近づいたらぶちころします!!」


 ――うわーーっ


 ユウキが滅茶苦茶恐ろしい顔をしています。

 本気です。

 本気でキレています。


「ねえ、メイヤ。僕ってそんなに臭い??」


「はい。腐った死体と同じ臭いがしています」


 うん、メイヤに聞いた僕がバカでした。

 全く臭そうにせずに言われてもなー。

 きっと、メイヤには鼻の穴がないのです。


「ぎゃあぁぁぁぁーーーー!!」

「な、なんなんだーー!! こいつら攻撃がまったく当たらねえ!!」

「うわああぁぁぁぁーー」


 衛兵達の悲鳴が聞こえてきます。

 僕達にはお婆さんの背中しか見えません。

 まあ、声の様子から心配は必要なさそうです。


「ねえ。ユウキ、全員楽しそうですよ」


「ふぐっ!! かみしゃま、ユウキはさみしいのです」


「えっ??」


 僕が驚くと、ユウキの目から大粒の涙がポロリと落ちました。


「中学を卒業してから、高校に行ってユウキはずっと、かみしゃまに会えませんでした。でも、ユウキは毎日、食事の前には安土様とおばあさんと、かみしゃまに手を合せていました。それで会えない寂しさを誤魔化していました」


「そうだね。中学まではずっと毎日、何時間かは一緒だったからね。土日は朝から晩まで一緒だったね」


 僕が言うと、ユウキはコクンとうなずきました。

 その時、また涙が玉になって地面に落ちました。


「この異世界に一緒に来られると聞いて喜んでいました。でも、かみしゃまはこっちに来てからの方がいそがしいみたいで、会うことが全然できません。元気でいるのかとても心配でした」


「――そ、そうでしたか。ユウキは僕を心配してくれていたのですね」


「かみしゃま、ユウキはこちらの世界に来てからマオちゃんと必死で修行をしました。本当に死ぬ気で毎日頑張りました。マオちゃんにはまだ勝てませんが、すぐには負けないくらいにはなりました。だから一緒に連れて行って下さい。離ればなれはもう嫌です」


 まっ、待って下さい。

 マオちゃんと戦える?

 それって、魔王と戦えると言うことですよ。


 ――はっ!?


 さっき、ユウキはメイヤの一撃とシラタキ様の一撃を楽々受けていました。


「ねえ、メイヤ。ユウキの実力について聞きたいのですが」


「はい」


「さっき、剣を止められていましたが、あの攻撃はどの程度でしたか?」


「ふふふ、わがあるじを愚弄したのですから、本気も本気でした」


「ワラワも本気も本気だったのじゃ」


 ――シラタキ様も本気だった……


 メイヤとシラタキ様の本気の攻撃を人差し指と親指でぇーー!!!!

 めちゃくちゃ強いじゃないですかーー!!

 待って下さい。

 このユウキよりマオちゃんの方が強いのーー!?


 そうか、魔王も現役召喚勇者と修行をすれば成長をするんだー。

 今の魔王は、ひょっとするとめちゃくちゃつえーんじゃないですかー。


 ――かわいそうな衛兵達、南無ー

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