第八話:河豚食うお馬鹿、食わぬお馬鹿
第八話
明日から春休みである。
バレー部とかが河川敷を走りぬけて行く。それを尻目に俺はある計測機械を手にうろうろしていた。
「んー」
片手で持てる黒い四角の箱に零から十と書かれた文字が振られている。そして、メモリがあり、アンテナもついている。
これが一体何なのかと言うと……なんと、幽霊を察知する事が出来る機械なのだ。
本当かどうかはわからない。由乃から渡されたものだから。
この前、この河川敷で幽霊に出会ったと話したら貸してくれたのである。
「俺より由乃が行けばいんじゃね?」
「あ、あんたが見つけたんだから冬治が行くべきでしょ」
由乃は忙しいと言ってついてきてくれなかった。一人よりも二人で探したほうが早い気がするんだけどなぁ。
「しかし、ちっとも動かねぇな」
壊れているようで由乃の家でスイッチを入れたらずっと十を指したままなのだ。夕暮だし、幽霊が出やすい状況だと思うが……。
「半径一メートル以内にいたら十を指すって言ってたけどなぁ、いないよなぁ」
本当は目の前に居て、俺が気付いていないだけなのだろうか。
「あちょー」
格闘家の真似をして拳をつきだす。虚しく空を切るだけであった。
「本当にこの機械、ちゃんとしたものなんだろうな?」
改めて装置を眺めてみた。
機械にはスイッチが二つあって起動用が赤、たしか姿を隠している幽霊を見る事が出来るのが青だった気がする。
計測値のメモリが十であれば確実に見る事が出来る代物だそうだ。単純にすごいなーと思ったよ。これを作った奴はさ。
それが本当ならな。
さっきから連打しているけれども、目の前にいるわけでもない。
「がらくたか」
もうそろそろ帰ってもいい時間だろう。調査をし始めて一時間を超えてしまっているし、朱音さんから『晩御飯出来ました』とメールが来ている。
幽霊を科学の力で見る事が出来る日が来るとは……そんな気持ちもすっかり萎えた。心なしか、肩が重い。
来た道を帰って居たらすれ違う人達は驚いていた。中には悲鳴をあげて逃げて行く人たちもいる。
「はて?」
自分の格好がおかしいのだろうか?
まさか、世界の窓が全開……ではなさそうだな。
結局、原因がわからないまま由乃の家に帰りついて虎の威を借る狐の話を思い出した。
「まさか……ね」
計測機械のメモリを確認すると、零だった。
つまり、周囲に幽霊がいるわけではない。
「ただいまー」
「おかえりなさい。今日は肉じゃがよ」
「あ、そうなんですか。俺、大好きなんですよね」
手を洗って席に着く。この家は全員が帰ってくるまで(とは言っても、俺を除くと由乃と朱音さんだけしかいないが)晩御飯はお預けである。
計器をテーブルの上に置いて肉じゃがを見つめているとそれを見た朱音さんが懐かしそうな目をしていた。
「これ、知っているんですか?」
「ええ、知ってるわ。幽霊を見る機械ね。冬治君、幽霊でも探しているの?」
「はい。河川敷で幽霊を見たような気がして探していました」
特に隠すような事でもない。河川敷で幽霊っぽい何かを見つけた事とさっきまで探していた事を伝えると朱音さんは笑っていた。
「探し方を間違えているわ」
「え、そうなんですか?」
「一つで探すのは大変よ……複数持ってなきゃ駄目ね。高価な物だからそうそう集められないし、NKKからも貸し出されなかったんでしょう。ちょっと絵にかくわね」
朱音さんは紙とペンを準備してテーブルに置いた。
「ここが、A地点ね。冬治君が幽霊さんを見たって場所」
「はい」
テレビから今、駅前がパワースポットとしてブームですと聞こえてきた。
うるさかったので消しておいた。
「ここにまず一つ置くの、次に冬治君がうろちょろして計器が動いた場所にもう一つ……こうやって徐々に狭めて行けばいいわ」
「なるほど」
「人数がいればバラバラに動けるけど一人で探すのならこの方法がいいと思う」
「でも、十を指しっぱなしだったんですよ」
今スイッチを入れてもいなので零……いや、計器が触れだした。十だ。
すぐさま青色のスイッチを押すが、幽霊は現れない。
「それは……あれね、もう一つ計器があれば冬治君にもすぐに教える事が出来るわ。わたしが計器をもって冬治君から離れれば零になって近づけば十に成るもの」
どこ吹く風で俺の方を見ている……ように見えて、実は俺の後ろを見ていた。
「まさか……」
「そのまさか、ね」
慌てて後ろを振り向いた。其処にはあの、長髪の女の子がいた。
「ばあっ」
「……ぎゃああああああっ」
俺の絶叫がリビングにこだまし、二階から階段を駆けおりる音が聞こえてきた。
「ど、どうしたの冬治っ……」
「ばあっ」
「ひっ……はふぅ……」
俺の腹部からいきなり女の幽霊が顔を出した。それを見て由乃は昏倒……パンツ丸出しで倒れてしまった。
「おい、由乃っ、大丈夫か由乃っ」
「幽霊ねぇ……久しぶりにみたかも」
ただ一人、平常時と変わらない朱音さんが幽霊を見ていた。
俺が由乃を介抱している間、話をつけたらしい。
「新しい住人よっ。わたしの娘と思って接してね。由乃、振ってわいた姉妹よ」
「よろしくっ」
照れたような笑顔を向ける幽霊に俺と由乃は凍りつくのであった。




