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第九話:始めが大事

第九話

 今日から三年生……最上級生である事を自覚し、責任をもった行動をして欲しいと思います。

 それがこの学園の学園長の言葉で、共学になった事に対してこうおっしゃられたのだった。

「本学園は本年度から共学になりました。男子生徒は一名ですが、今後は増えていく事でしょう」

 つまり、俺だけ。

 まぁ、何だ。結局男子が入ってくるのは難しかったらしく(学園側が急にハードルをあげ、入試を受ける側は準備が出来なかったらしい)男子生徒約十名が受けて全員落ちた。

 男子が増えなかったのはちょっと残念である。

 男子トイレは非常に距離がある。一番近くて職員室近くか、旧校舎のトイレだ。

 共学目指しているのなら何とかしろと言いたいところではある。

「いやー、また同じクラスでしかも、隣の席とか運命感じちゃうな?」

「……最悪だ」

 そして、三年になってクラスのほとんどが変わらなかった事に俺は落胆していた。担任教師も変わっちゃいない。心なしか、二年三学期より疲れている気がする。

「えー……三年生という事でそうだなぁ、一日目だから自己紹介でもしてもらおうかな」

 疲労感が顔からにじみ出ている先生が一人ずつ順番に自己紹介をさせて行く。

 そして俺の順番だ。面白い事を言う予定は無い。

「初めましての人もいるかもしれません。夢川冬治です」

 知ってるよーと言う声が聞こえてきた。隣からだが……。

 自己紹介が終わって座ると隣にいる間山椎子が立ちあがった。

「ノーパンの間山椎子ですっ。よし、掴みはオーケー……あたしは……」

「はい、間山ありがとう。次の子、自己紹介お願いな」

「あ、と、富木です。富木菜奈です。苦手な物は……男性です。先生もちょっと苦手です」

 俺と先生、心にナイフを突き立てられた。いや、知っていたけどね。本人からそんな事を言われたらショックだ。

「ねぇねぇ、冬治君聞いた?」

「何をだ」

「富木ちゃん、男の人嫌いなんだってさ」

「知ってるよ」

「だったら富木ちゃんに嫌われないため、息子を切断しないといけないね。先生、先生も切っちゃいましょう」

「さー、次の人行こうか―」

 椎子の恐ろしい提案を無視して自己紹介が進んでいく。

 やれやれ、これじゃあ三学期とあんまり変わんないな。

「夢川君またねー」

「ああ、またなー」

「じゃあねー」

「さよならー」

 放課後となり、生徒達が帰っていった。俺に挨拶して帰ってくれる人たちも増え、俺としてはようやくここの学園に慣れてきたところだ。

「冬治君冬治君」

「何だよ」

「新しいパンツ、買ったんだ。見てみる?」

「見ない。以上。さよなら」

「あ、ちょっとー」

 転校してきたばっかりの頃、変な空気が俺を取り巻いていた。というのは単純に椎子の存在が大きかった。

 完全に周りの人間から変人扱いを受けている。変人じゃないなら変態だ。

 廊下に出て下駄箱へ向かおうとする俺の腕を椎子が掴む。

「ちょっとー」

「今度は何だ」

「何でそんなに冷たいの?」

「これで常温だぜ」

「寒いときは局所の自家発電で身体を温めるんだね……ごめんってばー」

 本当、付き合ってられないぜ。

 俺にはこの学園で人外を探す仕事があるんだよ。あと、椎子の近くにいると友達だと思われかねないからな。調査に支障をきたす事間違いなしだ。目立ち過ぎていい事は無い。

 ちなみに、ちゃんとした報告を由乃にすれば五百万約束されていたりする。

「わかった。わかりましたー。かくれんぼしよう。それであたしが勝ったら今日はあたしと遊ぶ」

「俺が勝ったら?」

「何と、男子生徒が夢見る制服プレイ……夕暮れ編」

「一人で隠れてろよ」

 俺は既にこの学園でかくれんぼしているようなもんだ。こっちが探す方だけどな。しかも、相手がどこの誰だかわからないときている。

「悪かったってば―」

 なおも食い下がってくる椎子は俺の腕にぶら下がり、引きずられている。女子生徒がすれ違ってそのまま歩いていくものの、奇異な目で見て行く。

「じゃあ、冬治君が勝ったらあたしの秘密を見せてあげる」

「興味ねぇなぁ」

「ちょっとは持ってくれてもいいんじゃないの? バストサイズを教えちゃうぞ」

 胸部を強調している。なるほど、確かに大きいが……。

「……実際はBだろ、お前」

「んがっ……何故、それを……」

「初日に下着姿になっただろーが。あと、いつも言いふらしてるだろ。今度こそさよならだ」

「ちぇー」

 学園内をうろつく前にトイレに行っておこう。間に合わなくなって女子トイレに駆け込んだら大変な事になるからな。

 職員室の男子トイレに入って用を足して下駄箱へと向かう。

「ん?」

 手紙が入っていた。

 まさか、ラブレターか。

 ちょっとした期待を胸に、広げてみるとミミズののたくったような文字が書かれていた。


『靴は預かった。返してほしかったらあたしの正体を暴いてみなさい。せくしーだいなまいと様より』


 最後にキスマークまで残していた。

「ふー……ここまでしてかくれんぼしたいのか」

 だったら俺にも考えがある。

 俺は職員室へと向かい、担任教師に手紙を見せた。

「これは悪質ないじめです」

「……むぅ、まさかこんな事が起こるとはな。犯人は分かっている気もするが、一応他の先生にも見せておくよ」

「ありがとうございます」

「今日は……そうだな、わたしの予備靴があったと思うから……サイズもあうんじゃないかな。それでよければ貸してあげるよ」

 先生は疲れた笑顔を俺に見せて、引っ込んでいった。

 その日は無事に帰る事が出来た。次の日、俺の靴箱の中に靴と手紙が入っていたりする。

 手紙にはめげないもんと書かれていた。

「やれやれ、何であんなに絡んでくるのかね……」

 柱の影から誰かがこっちを見ている気がする。

 手紙を丸めてぶつけると頭を掻きながら出て来やがった。

「反省したか?」

「この歳でもう、しぼられました。椎子ちゃんの生しぼり」

「そうか、反省してないみたいだな」

「嘘だって。そんな怖い顔しちゃいやん。でもさ、冬治君も悪いんだよ? せっかく、遊ぼうって誘っているのに無碍にしちゃうしさ。あたしは冬治君と仲良くしたいんだ。駄目かな?」

「駄目ってわけじゃないが……」

「じゃ、放課後予約ねー。朝一だもん。絶対守ってよね」

 椎子はそれだけ言って走っていってしまった。

「……ま、そうだな。せっかく仲良くしようって言ってくれてるんだ。ちょっとぐらい調査が遅れてもいいだろう」

 卒業まで時間はあるんだ。ゆっくりやろう。


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