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第十話:槿花一日の栄

第十話

 俺の名前は夢川冬治。紆余曲折の果てに吸血鬼の家に居候させてもらっている。やはり、吸血鬼と一緒に住んでいる為、そっちに詳しくなったりもするもんだ。

 吸血鬼は人間と比べて身体能力が桁違いである。以前は日光に弱かったそうだがNKKの研究部門の活躍により日光対策の日焼け止めが完成。それを使用することにより、日中の活動プラス日光に対してかなりの耐性を持つまでに至ったそうだ。

 夜間を中心に活動していた吸血鬼をより人間社会に順応させると言う副次効果も期待でき、その目論見は完全に的中した。

 ただ、NKKに所属していない吸血鬼も存在している。彼らの場合はやはり夜間に行動、人を襲って血をすする。過度な吸血行為を続けると人間側の社会で問題になり、NKKの吸血鬼が派遣される。最初はNKKに所属し、吸血行為を控えるように説得するがノーと言えばその場で制裁が下される。返り討ちに遭ってもその時点で他のNKK派遣員が近くに数名派遣されているために制裁が加えられるのだ。実に組織的行動である。

 まぁ、人間の中にも吸血鬼がいる事を知っている人がいる。好意があれば協力し、嫌悪があれば吸血鬼を攻撃する。嫌悪する人は吸血鬼に対して凄まじい戦闘能力を見せるらしく……俺の中にもそんな血が流れているかもしれない。

 長々と説明してきたが、何がいいたいかと言うとわたくし、夢川冬治は特別な存在なのではないだろうか?

「ふぬぬー………」

「そんな力じゃ勝てないわよ」

「くっそーっ」

 由乃に腕相撲を挑んでみた。ちょっとぐらいはいけるだろうと思っていたらこれがびくともしない。

 自分が特別な存在とか思っていいのはさ……中学生までだわ、うん。

「決着はついた?」

「まだよ、ママ」

 リビングに入ってきた朱音さんが面白そうに俺を見ている。

「あきらめないのねー」

「そりゃあ、まぁ」

「男の子ね」

「男のくせにこの程度じゃ、駄目でしょ」

「次、たぶんおそらくもしかしたら俺の身体のどこかにある覚醒するかもしれない」

「今、お腹が成ったわよ?」

「よし、覚醒した。オーケー、次がラストだ」

 俺の中の何かが覚醒しようと勝つことは無いだろう。だって、人間の特殊部隊とか一人で撃退できるし、戦車もひっくり返すほどの力があるからどんなに頑張ったところで無理だろうよ。そんな奴に俺が勝てるわけないのだ。

 しかし、だからと言って素直に負けを認めるのは俺のプライドが許さんのだよ。

「じゃあ、ちょっとだけ本気出してあげようかな」

 そういって由乃は前かがみになった。豊満な谷間が腕の向こうに見えている。テーブルの上に乗って俺を誘惑しているではないかっ。

「うおっ……」

「はい、終わり―」

「……あっさり負けちまった」

 改めて吸血鬼というのは強いんだなーと思い知らされた。別に、胸に見とれて負けたわけじゃあない。

 だからこそ、思った。

「なぁ、由乃」

「何? もうしないわよ。あんた弱いし」

「いや、腕相撲じゃないんだ。何で、吸血鬼はこんなに力が強いのに世界征服しないんだ? 人間なんてあっという間だろ」

 人間の中でさえ弱者は強者にやられちまうのだ。人間より吸血鬼の方が強いのなら余裕だろう。

「まずくなるのよ」

「え、何が?」

「血が。恐怖とか、怒りと言った負の感情を人間が抱いているとね。苦くて酸っぱくて、飲めたもんじゃない。中年のおっさんの血の方がまだ飲めるわ」

「へぇー」

「吸血鬼なんて架空の存在だって事にしておけばふらふらっと外を出歩いている奴らを襲えるからね。雨が降るって天気予報が言ってたら傘を持って行くけれど言われてなくて雨が降ったら濡れるでしょ? そんなもんよ」

 それもそうか。

 改めて吸血鬼の事を少し知ったところで晩御飯が運ばれてきた。

「今日はオムライスよ」

 オムライスが好きとか言うと何だか子供っぽいな。そう思いつつも、好きなのでうずうずしながら自分の席へ着く。

「冬治、晩御飯の前に血、飲ませなさいよ」

「え、今か?」

 オムライスは出来たてが美味しいんだが……由乃って血を飲むのが遅いからオムなライスが冷えそうだ。

「いいじゃない。減るもんじゃないし」

「いや、減るだろ血が……別に飲ませるのはいいんだけど、オムライスが……」

「オムライスは逃げないわよ」

「えーやだー」

「ぐずぐず言わないっ。力で勝てると思ってるの?」

 二の腕を掴まれ、壁に押し付けられる。

 やれやれ、早く終わらないだろうかと思えば十分間そのまま磔にされていた。その間ずっと血を飲まれているわけではなく、由乃は余韻に浸っているだけだ。

 朱音さんは俺たちを黙って見ている。

「終わったわ」

「そうかい」

「さ、晩御飯を食べましょう」

「由乃」

 席に着くと同時に朱音さんが由乃を呼んだ。俺は遠慮なくオムライスを突かせてもらおう。うん、少しさめちゃったけど美味しいな。

「何?」

「あなた、ちょっと血を飲むのが遅いわね」

「味わってるから」

「毎日続けていると冬治君に負担がかかるわよ」

 そうなのか……全然知らなかった。

 俺の体に負担がかかるって具体的にどのような事が起こるのだろう。

「あの、負担がかかるって結構やばい話ですか?」

「吸血鬼の唾液には快楽を覚えるような分泌液が含まれているの。それのおかげで痛みはそこまで無いでしょうけれど、他にも血を飲み過ぎて、流し過ぎて貧血をおこしたりするわ」

「ママ、今後は気をつけるわ」

「そうね、そうして頂戴……この話を聞いて冬治君はどう思った?」

 てっきり、由乃に話を続けてするものばかりと思っていたので今一つ、考えられなかった。まだ他にも何か話すつもりだったのではないかと俺は思う。

「えーと、由乃も大変だなぁと……オムライスも冷えちゃったし」

「ぷっ、まぁ、冬治君が許してくれているのならいいわ。当事者達の問題だから」

「あたしは冬治が嫌だって言っても血は吸うから」

「そうだな、由乃ならそうするだろうな」

 吸血鬼が人間を滅ぼさなくったって血の制約があるんだな。力で解決するよりも人間の協力者を増やしていったほうがいいのかもしれない。

 そうすればお互い、幸せでいられるだろう。


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