第十一話:細工は流流、仕上げを御覧じろ
第十一話
「由乃、カメラ貸してくれ」
「何で?」
「そりゃあ、あれだよ。ほら、俺ってば女学園で調査してるだろ? ネッシーとかが学園内を歩いてたら証拠写真が必要だ」
「……ネッシーはいないわよ。ま、いいわ。大切に扱いなさいよ」
「あいよ」
―――――――
春一番が吹いたら超、嬉しい。
何故かって? そりゃあ、俺が女学園に通っているからだ。
「きゃーっ」
「絶景を、我に運ぶは、春一番」
スカートを抑えて一生懸命隠している姿はいいねぇ……。羞恥心と萌えは切り離すことが出来ないって偉人が言っていたけれど事実だと思うよ、うん。
「きゃーっ」
「おっと、あっちでも……」
素早く声に反応して首を動かすとそこには首なし女が黒子の面を追いかけていた。
さすがにあれは刺激が強すぎる。俺は黒子の面を拾い上げてすぐさまかぶせてやる。
「夢川君……ありがとうございます」
「気にするな。見られたわけじゃ……なさそうだな」
この時間帯の生徒数は少ない。それに、風が強い為みんな自分のスカートを抑えるのに必死だった。
「いやーん、スカート、めくれちゃーう……ちらっ」
「さ、行こうぜ」
「はい」
わざわざ俺の前へやってきて自分からスカートを捲り上げようとする奴は、ただの馬鹿だ。
「ちょっとー、冷たくなーい? 恵理奈ぁ」
「知らない」
どうやら姉と妹の仲は今一つ良くないらしいな。
「なぁ、椎子」
「なぁに? 今日はストライプだよ、青と白の……爽やかっしょ?」
「へー、あっそう」
「ちなみに、恵理奈のパンツは赤のレー……」
「お姉ちゃんっ」
恵理奈に叫ばれて椎子は悲鳴をあげながら走っていってしまった。
「はは、羨ましいなぁ。俺には兄妹がいないから見てて微笑ましい」
「お姉ちゃんは我がままですよ? あれが姉って信じられないです」
余程辛酸をなめさせられているらしいなぁ……俺も舐めさせられているんだけどさ。
「いやいや、椎子が羨ましいって事だよ。恵理奈みたいな妹が俺も欲しかったな」
「同い年ですけど?」
「そうだな。それは考えてなかったよ」
それから学園へ入り、教室へと向かう。
「あのさ」
「何でしょう」
「首から上の話、聞いてもいいか? 誰にも話さないのは絶対条件として……俺も一つ、話をするから」
由乃に話すかどうかは置いておくとして、個人的に気になる事だ。わざと、顔を隠しているのかそれとも、どう頑張っても顔が見えないのか……どっちだろう。
「夢川君の秘密?」
「ああ、そうだ。俺の秘密にしていること……どうだ? 秘密の話を交換するんだよ」
「わたしにとって利益、無いと思います」
正論を言われた。別に仲がいいわけでもないし、向こうは知りたくもないと思っている事だろう。
「そうだな。だけど、俺は恵理奈のこっから上が無い事を知りたいんだよ」
自分の首を指差して、上にスライドして見せた。
「……別に、わたしは夢川君の秘密を知りたいとは思いませんから」
「そっか。じゃあ、そうだな……恵理奈、ちょっと来てくれ」
「はい? あ、ちょっとっ」
屋上の階段踊り場まで連れてくるとすぐさま黒子の面をはぎ取った。
「!」
「悪いな。はい、チーズっと……」
カメラでぱちりと一枚収めた。
「な、何するんですかっ」
俺から黒子の面をひったくると目にもとまらぬ速さで頭に付けた。データを確認するが当然、顔が映っているわけでもなく首なし人間だ。
ちょっとした心霊写真である。
「夢川君がそんな人だとは思いませんでした」
怒っていると言うよりはどっちかというと悲しい感じの声を出している。
「……俺はたとえ、恵理奈に嫌われたとしてもお前の頭の事を知りたいんだよ」
由乃はこの学園にいる人間以外の奴を(透明人間はどうなんだろう)徹底的に調べ上げるつもりである。由乃はまぁ、いいのだがNKKの調査機関には頭のいかれた奴も当然いるわけで恵理奈の正体がばれて捕まればリアルに首なし美人にされるかもしれないのだ。
「えっと、そこまでしてわたしのことを知りたいんですか?」
「ああ、教えてほしい」
俺の気持ちが伝わったのか、ようやく恵理奈は首を縦に動かしてくれた。
「えーと……とある人が……その、透明人間でして。わたしの、家系の人間ですね。その人が透明人間になって見せたので、わたしも真似てみようとしたんです。そうしたら、えっと、それ以来こうなってしまって」
恥ずかしがっているのか、肩をすぼめてしまった。
「何歳の頃?」
「五歳ですね」
「どんな事を考えていた?」
「あの人がなれるのなら、わたしも透明になりたい、負けたくないって」
「黒子の面を被っている事は先生達にどう説明してるんだ?」
「えーと、その、顔を見られたくないって言ってます。結構、理解してもらってます」
五歳の頃から顔を隠していれば、そりゃあ、慣れるか。この女学園は殆どエレベーター方式だから恵理奈が黒子の面を被って居ても問題ないようだな。
「それでもばれるんじゃないのか? 友達と一緒にいればさ」
「こんなんだから……友達、いません」
地雷を踏んでしまったらしい。凄く、暗そうな声でそう言われてしまった。
「あ、いや……俺がいるだろ?」
「ばれてます」
「だな……えーと、ま、よく考えてみれば俺もこの学園で友達なんて殆どいないし……そのー、何だ。元気づけようと思っているのに何を言えばいいのかわからん」
「気にしないで下さい。慣れっこですから」
寂しそうな声でそう言われてこの話題を撃ち切ることにした。
「あー……じゃあ好きな食べ物、教えてくれ」
「それも必要な事なんですか?」
「そうだな。言ってくれなきゃさっきの写真をばらまく」
冗談っぽい口調で言うと少しだけ笑ってくれた。
「そうですね、甘いものが好きですよ。クレープとか、パフェとか」
「そっか。趣味は?」
「身体を動かす事と読書ですね」
「文武両道だな」
「はい。でも、目立たないようにしてますよ」
苦労性である。
その後は他愛もない話をして予鈴が鳴り、それぞれ教室へと向かう。
「夢川君っ」
「何だ?」
「わたし、夢川君の秘密教えてもらってません」
「今度な」
手をあげてそれに答えると約束ですよーという声が返ってきた。
元は明るい女の子なんだろうなぁ……しっかし、首から上だけ透明人間か。由乃にはばれないようにしないといけないな。




