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第十二話:好奇心は猫を殺す

第十二話

 幽霊が出てくるシチュエーションで怖いのって何だろう。

 机の下とか、ベッドの下? それとも、背後に佇む状態か。

 夕焼けの学園、背後から幽霊が迫ってきて……すっと、抱きしめられる。耳元で好きです、なんてささやかれたら死にそうだ。死因はおそらく、萌え死に……。

 人によって怖いと感じる基準が違うから何とも言えんな。

「ユウカさん、ご飯よー」

「……はーい」

「俺は日常に溶け込む姿が一番、怖い」

「……」

 幽霊であるユウカが(本人が名乗ったが本名か不明)二階から直でやってくる。天井から降ってきたようなもんだ。

 白いワンピースに長髪……美人さんだ。儚げな印象で綺麗な幽霊でひらひらワンピースがまっているというのにパンツが見えない超不思議。

 パンチらしないかな―と思っている俺とは違い、吸血鬼の由乃は天井から出てきたユウカを見て固まってしまった。

「ふぅっ……」

「由乃? 由乃―っ」

 まぁ、何と言うか女の子にはたとえ綺麗な幽霊だろうと通用しないようだ。

 倒れて動かなくなった由乃を介抱するのも俺の仕事である。

 幽霊と一緒に住み始めて一週間、ユウカの幽霊っぷりに由乃は毎度ノックダウンだ。俺はいい加減、慣れてしまった。

 何というか、ワンパターン。四人の女の子に出会って話が進んでいくぐらい、ワンパタンだ。隠れているんだろうなぁというところには大抵隠れていてばぁ、と驚かせてくるのだ。

 恐怖も慣れちまうのか。人間って怖いもんだな。

 吸血鬼である由乃は駄目だったようで未だに倒れている。

 お風呂で、廊下で、部屋で、階段で……ユウカが変な事をするたびに由乃を介抱しなくてはならない。

「なぁ、もうちょっと普通に降りて来られないのか?」

「普通に?」

「階段を使ってさ」

「やってみる……」

 そういって消えた。もしも、由乃が目を覚まして居たらまた気絶していた事だろう。よっぽど嫌いなんだろうな、消えたりどうかすると向こうが透けるのを見ただけでやばい。

「あれ? 由乃……眼が覚めたのか」

「今、消えた……ふぅっ……」

「由乃―っ」

 由乃はさておき、階段上からユウカが手を振っている。俺も廊下の下から手を振り返した。

「先に言っておくけど、ブリッジしておりてくるのは無しだから」

「……え、そうなの?」

「それは普通とは言わない」

 少しだけ残念そうな表情でようやく普通に降りてきた。無意味にひらひらしているから階段下の俺は何かを期待してしまう。

「幽霊なのに」

「幽霊を怖がる奴もいるんだよ」

 由乃が復活したようで近づいてきた。ユウカが実に嬉しそうな顔をしている。

「べ、別にあたしは怖くないわ」

 ああ、せっかく言ってあげたのにそんな事言うとユウカが……。

 案の定、ユウカは姿を消して由乃の腹から顔だけ突き出して目をあわせやがった。

「ひっ……ふぅっ」

「ふふ、由乃ちゃん、おもしろーい」

「ったく……朱音さん、何か言ってあげてください」

「この家も人数が増えてにぎやかになったわ」

 ありがとうと言われてしまった。

 ご飯を食べ終え、お風呂に入っていると壁からユウカがやってきた。

「ばぁ」

「うっわ……びっくりしたー」

 バスタオルに長髪を頭の上で束ねている姿は単純に、エロい。

「んで、何しに来たんだ?」

「お背中、ながしましょうか?」

「どうやって流すんだ?」

「こう、普通に……流すんじゃない? そーれっ」

 洗面器が浮いて、俺の方へと近寄ってくる。

 頭上近くまで来ると急に動かなくなり、更には落下して俺の頭を直撃した。

「……除霊すっぞ、こら」

「手元が狂っただけ。幽霊だもん、ミスもするさ」

 むしろ、幽霊って失敗しなくないか? 呪って殺した相手の顔を見て『間違えた』とか聞いたことないぜ。

「あとさ、驚かせるのもワンパターンだぜ?」

「え? そうかな」

「足を掴んでいってさ、違う……違う……違っ……お前だーっとかよく言うじゃん。あれをまねてみたら?」

「個性を大切にしているから。まねるのはちょっと……」

「じゃあテレビから出てくるとかどうだ。超有名な○○子さんを参考にさせてもらってさ」

「あれ、原作だとこれだから」

 人差し指をしなりよくぴょこんと動かした。

「……お前の個性って何だよ。ああ、念仏唱えた人間の耳元で効かないよ? というのか」

「わたしの個性は……スタイル?」

 どうよとくねくね身体を動かした。

 誘惑してくる幽霊だと? 確かに新しいなぁ、おい。挿れてくれないと呪っちゃうぞとか……いや、俺は何を考えてるんだ。

「悪くはないな。でも、スタイルなら由乃の方が上だぜ?」

「そうだよね。何食べたらあんなに成長するんだろう」

「血じゃねぇの?」

 後であの子、呪っちゃうかと呟いていた。

「触ってみる?」

「……」

 なんとなく、そう、なんとなーく、彼女が巻いているバスタオルに手を伸ばしてみた。先に言っておくけれど、触れるかなーと言うやらしくない考えのもとに手を伸ばしたのだ。

「あっ……」

「え」

 何と、信じられない事に幽霊っぽいタオルが普通にはだけてしまった。

「きゃああああああっ」

「おおおおお?」

 ユウカの声が響き渡り、姿を消した。えーと、全裸は見てないからセーフだ。

「え、何事?」

 由乃がすぐさま走ってやってきて扉を開けた。

「お」

「き、きゃああああああっ」

 そして、俺の全裸姿を見て今度は由乃が叫んだのだった。

 その後、俺は朱音さんに滅茶苦茶絞られるのであった。

 好奇心は猫を殺すって言うけれどさ……本当だよな。


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