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第十三話:天馬、空を行く

第十三話

 四月下旬、火曜日……暖かい太陽がグラウンドにいる女子たちを照らしている。

「そして俺は、そんな女子たちのブルマ姿を教室から眺めるのであった」

 距離が遠いのでよく見えんがな。

 まぁ、女子生徒の尻を眺めている暇があるなら目の前の問題を眺めて考えなくてはならない。男子が女子の体育に入れるわけもなく、俺は一人で自習を行っている。

 一学期期末になって泣きを見ないためにもお勉強はしっかりとしなくては……。

 真面目に勉強していると教室の前の扉が開いて誰かが入ってきた。

「はーい、たまらなくエッチなコスプレ女教師が君に保健体育を教えちゃうぞ」

「あ、じゃあ、先生この問題解けますか?」

 数学の問題を見せてみた。とびっきり難しい奴をご所望だろうからなぁ……ご期待に添えるかどうかわからんが半年後ぐらいに習う場所だ。

「わかりません」

「グラウンドに帰れ」

「でも、いいんです。保健の先生だからっ。違う土俵の所をもって来られても先生は答えませんともっ。ぬふふ、さぁ、保健体育の思わず聞くのをためらっちゃうような問題を、あたしに投げかけてくださいなっ」

 さぁさぁさぁ、俺の手に無理やり保健体育の教科書を載せてきた。

「では問題です。健康寿命とは何でしょう?」

「え? えーと……」

 俺の質問に対して自称、エッチなコスプレ女教師(ただの体操服を着ている椎子)は真剣に悩んでいるようだった。

「……あっちが不能にならないまでの年齢?」

 指差すんじゃねぇよ。

「違います。健康寿命とは認知症や寝たきりにならず自分で生活できるまでの年齢を言います」

「そんなの知らないなぁ」

「はいはい。俺は真面目に解いているんだから邪魔しないでくれよ。そもそもな……いいや、俺勉強するわ」

「ちょっと待ってよ。 そもそも何でこんなところに居るんだってちゃんと聞いてよっ」

「わかったよ。そもそも何でこんなところに居るんだ?」

 一応、聞いてやると椎子は実に嬉しそうに言うのだった。

「そりゃあ、冬治君が教室で女子の着替えに手を出していないか抜き打ちでチェックするためだよ」

「更衣室は別の場所だ」

「……縦笛を舐めるの、阻止するため」

「縦笛使ってねぇだろ」

「じゃ、じゃあ……えーと」

「今なら正直に言えば怒らないぜ?」

 引っ込みがつかなくなったんだろうな……下ネタ大好きでこういう性格だと苦労するだろうなぁ……家族とか姉妹とかが。

「……足、挫いちゃって。先生に言ったら教室で一緒に自習してなさいと言われましたっ」

「そうか」

「うん。ちゃんと言ったよ? 褒めてよ」

 小学生がお母さんに満点のテストを見せるような表情をしやがった。

「怒らないと言ったけど、褒めるとは言ってないぞ」

「はぁ? いいじゃん。減るもんじゃないし」

「はいはい、偉い偉い」

「え? エロいエロい? 女の子に対してエロいエロいとか冬治君マジ、変態」

「わかったから、さっさと座って問題を解け」

「はーい」

 教壇から問題用紙を取って俺の隣に座る。椎子は鼻歌を歌いながらペンを取り出すと問題を解き始めた。

「二人の女の子がいます。男のが一人います。女の子は二人とも、男の事が大好きです。どうすればいいでしょうか?」

「人の机の上に座るとはいい度胸じゃねぇか」

 そして目の前で足とか組むな。

「ほら、答えてよ」

「どっちかしか付き合えねぇだろ……どっちかを選ぶよ」

 どうせそう言ったら残念ぶー、冬治君刺されて終わりーとか言うんだろうな。

「答えは3P……あがっ。チョップするなんて酷いよっ」

「何ならもう一発、ぶち込んであげようか? ん?」

「あん、まさか冬治君との初めてが体操服だなんて……興奮するね?」

 そういってちょっとずつ上半身を捲っていく。本人はブラがぎりぎり見えない位置で止めたようだ。しかし、若干目線が低い俺はブラが確認できるのである。

「ごめん、椎子……真面目な話、興奮しない」

「え? 不能なの?」

「そうじゃなくて、椎子に興奮しないんだよ」

 ちょっとからかってやったらものすごく、悲しそうな顔をしていた。

「……真面目な顔して何を言うのかな―って思ったら興奮、しないんだ。えっと……マジかぁ、本当かぁ……そうだよね、やっぱりぼんきゅぼんが好みなんだ……どうしよう」

 なんだか、おしちゃいけないボタンを押してしまったらしい。

「話は変わるけどよー……お、お前って、本当に好きだよなー、そういうの。エッチな話とか、下ネタとかさっ。女子だったら普通は毛嫌いしないか?」

 慌てて少し話を逸らして見せた。

「え? ああ、あれですよー、旦那。確かにあたしは女の子……だけれど、あたしには変態回路と下ネタドライヴが積まれてるんですぜ」

「そうか」

「うんっ」

 後は知らん。

 機嫌が直ったようなので問題の続きを解く。椎子もようやく俺の隣に座って問題を解き始めた。

「あのさー、冬治君」

「何だ。わからないところでもあるのか?」

「うん。わからないことはねー……本当にあたしに興奮って言うか、欲情しないと言うまでも……どきっともしないの?」

「ああ、嘘はついてないぞ」

「……問題なんて解いている場合じゃねぇ。あたしが冬治君を萌えさせるっ」

 そういって椎子は黒板の前に立つのだった。そのまなこは燃え上がっていた。

「間山椎子っ……冬治君を萌えさせるネタ、いきやすっ」

 こういう生き方したら楽しいんだろうなー……羞恥心とかどこに忘れてきたんだろう。直接聞いたらまた変なところを指差してきそうだからやめとくけどさ。

 椎子は宣言した後、Vサインを両手で作って白眼をむいていた。

「……汚い表情するな」

 女の子に直接、面と向かってこんな事を言ったのは生まれて初めてだ。しかし、そういう表情はするもんじゃあない。俺も椎子の友達だと言うのは諦めもついている。友達なら、変な道に堕ちてしまった奴を助けるもんだぜ。

「なっ……これが効かないのっ」

「もうちょい、大人しい感じの奴はないのか」

「なぁるほど。冬治君は大人しい感じの子が好みなんだね? ドストライク過ぎてあたしに気があるようなそぶりは見せられないってことか」

「勘違いって世界を滅ぼすよな」

 椎子が大人しいのなら恵理奈はステルス地味子確定だ。

「え? 何? ま、見ていてよ……一発で萌えさせるから」

 そういって今度は髪の毛を前に垂らした。どこからカッターを取りだしてチキチキ音を立て、ぶつぶつ呟いている。

「冬治君……恵理奈と、恵理奈と一緒にいるとかあり得ないよ。痴女みたいな服着た露出狂の女の事も同棲しているし、半透けの女の子まで仲良し。あはは、おかしいな、あたし……冬治君の彼女のはずなのに……冬治君は、あたしのものなのに……あ、そっか。あたし、冬治君とずっと一緒にいる方法、思いついちゃった。これならあの人たち、追いつけないよ、二人っきりで独占できるっ」

 カッターを取り出して、ちょあーとか言いながら振りまわしていた。

「それは行きすぎ」

「えー、注文多すぎ」

 アヘってるか病んでるかって両極端すぎるだろ。

 もう付き合ってられないので無視しようと思う。

「ちょっとー、冬治君ってば―」

「ほら、椎子も問題解こうぜ。さっさと終わらせるぞ」

 俺が問題に取り組み始めると、椎子は教壇から飛び降りてこっちにやってこようとして……こけた。

「あいたっ……」

「大丈夫かよ」

「平気平気……うーっ、いたたた……同じ所やっちゃった」

 そういえば挫いたって言っていたっけ。

「やれやれ……しょうがねぇな。ほら、背中に乗れよ。保健室まで連れていってやる」

「う、うん。ありがとう」

 ははーん、さてはそうやってあたしのおっぱいを背中で堪能するつもりだね……そのくらいのことは言われるだろうと思っていたらあっさりと背中に乗ってきた。

「ふぅ、重たくないかな」

「重くない。軽いよ」

「そっか、よかった」

 やり取りがものすごく、普通だった。

 余程、痛かったのだろうか? 少し心配になって足早に保健室へと向かう。

 しかし、保健の先生は不在だったのでテーピング等簡単な処置を見よう見まねでやって氷水を当ててやる。

「大丈夫か? 痛くないか?」

「ちょっとだけ痛い」

「そうか。ここから動くな。先生が戻ってくるまで俺もいるからよ」

 椎子の隣に座って変に動かないか監視することにした。

「えーと、保健室まで連れてきてくれたからイイコトしてあげよっか」

 また変態的な感じに胸を強調させるような事をした。

「ほれほれー」

「椎子っ」

「は、はいっ」

 俺の突然の大きな声に椎子は縮こまりながら返事をしたのだった。

「そういうのは、元気になってやれ。ふざけて、大けがでもしたらどうするんだっ。さっきも俺、少しひやっとしたんだぞっ」

「……えーと、その、すみません」

 言いすぎたかなと思っていたらそこで保健の先生がやってきた。

「どうしたの?」

「あ、いえ、何でもないんです。あたしが悪くて……」

「え? 椎子ちゃんが変な事言わずに素直に謝ってる」

 椎子がそう言ったことに対して、先生はどうやら驚いているようだった。それと同時にチャイムが成る。

「先生、椎子をお願いします。じゃあ、椎子、無理するなよ」

「う、うん。あ、あのさ、ごめんね冬治君」

「気にするな。俺も強く言いすぎたよ。怒鳴る必要はなかった」

「それとね、ありがとう。凄く嬉しかった」

「いいよ、また何かあったら連れて来てやる」

「ふざけて怪我しても、連れて来てくれる?」

「……そうだな。ま、考えておくよ」

 そう言っている間も先生は驚いた様子で俺達の事を見ているのであった。


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