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第六話:掌中の珠

第六話

 こっちの女学園に通うことになって、俺は一人暮らしを始めた……というわけではない。転校してくる前は一人暮らしをしていたんだけどさ。

「あら、冬治君お帰りなさい」

「朱音さんただいま」

「由乃ちゃんは一緒じゃないの?」

「ええ、一緒に帰っていたわけではないので」

 朱音さんは吸血鬼でNKKに所属している。

 純和風な感じでわかば色の着物を着ている。やまとなでしこって雰囲気のする奥様である。

 由乃が俺の事を母親である朱音さんに話してくれたそうだ。河川敷でNKKから大気を言い渡されていたので待っていると迎えに来てくれた。そして、行くところがなければここに住んでいいと言われたのだった。

 最初は固辞したのだが、逆らい難い握力で握手をされたのだから仕方がない。

「ママ、ただいま」

「あら、由乃ちゃんお帰り」

 俺のすぐ後に由乃が帰ってきた。相変わらず短いスカートを履いている。ここの階段を駆け上がる時にばっちりパンチラするから非常に困る。俺一人ならいいが、ここは由乃の家であり、朱音さんも住んでいるのだ。

「何?」

「いんや、何でも」

「ま、いいわ。冬治、血を寄こしなさいよ」

「へいへい」

 由乃は吸血鬼だ。そして俺は由乃に対して血を提供している。

 俺の血はどうやらややこしいみたいで、吸血鬼を虜にするそうだ。だからと言って、特別というわけでもなく昔は吸血鬼に献上される生贄みたいな存在だったとか。

 まぁ、ある意味生贄って存在も特別か?

 ぼーっと考えていたら廊下の壁に由乃が身体を押しつけてくる。柔らかい体でつい、顔がゆるみそうになるが朱音さんが見ている前ではきりっとしていなくてはいけない。

「凄いわねー、冬治君。その歳で女の子に身体をひっ付けられても表情一つ変えないだなんて」

 こういう場合はどう返答すればいいのだろう。

「……いえ、必死に緩みそうな顔を引き締めているんです」

「あ、そうなの? ごめんね変な事言っちゃって」

 何事も素直が一番である。

 そうしている間にも首に歯が当たり、ちくりとした痛みが広がった。

「ん……」

 由乃は自身の唇を俺に押し付け、血を吸い始める。そんな光景を朱音さんはしきりに感心した様子で眺めていた。

「……やっぱり、恋人同士ともなると他に遠慮がないのね」

「ぶほっ」

「うっわ、きったねぇ……血がついたじゃねぇかって、これは俺の血か」

 制服に鮮血がほとばしった。

「ま、ママっ。あたしと冬治は別に彼氏彼女ってわけじゃないからっ」

「え? 違うの?」

「違いますっ。NKKの上司と部下です」

「そうなの?」

「そうよっ」

 こんな奴願い下げよという目で見られた。それはこっちのセリフである。一緒に歩いてたら恥ずかしいような格好をする奴だからな。ここまで自己主張の強い奴は嫌だ。

「俺、着替えて来ます」

「あたしもっ」

 由乃とともに階段を上がり、別々の部屋へ入った。

「はぁ」

「ため息つきたいのはこっちよっ」

 由乃の部屋からそんな声が聞こえてきた。身体能力が人間の比じゃない吸血鬼にとってはため息の一つや二つ、余裕で聞こえるらしいな。

 最初会った時は襲われたのだが、その後、色々あって由乃の下で働くことになった。働くと言っても、他の吸血鬼の手伝いをしたり、由乃から血を抜かれたり、飲まれたりしただけだったが。

「この後も研究室に行くわ」

「へいへい」

「入るわよ?」

「早いよ」

 一応、着替え終わった。

「全く、相変わらず露出度の高い服着てるよな」

「何よ? 文句でもあるの?」

「いいや」

 目の保養にはちょうどいい。口は悪いが、スタイル抜群だしな。

 しかし、由乃の母親である朱音さんとはまるで違うタイプだ。まだ朱音さんの事はよくわからないが、おしとやかで、奥ゆかしい感じがする。由乃の方は少しではあるものの、どういった人物か知っているつもりだ。

「その着物、好きだよなー」

「ああ、これ? そうね、柄が違うの五着あるわ」

「……すげぇな」

 何と言うか、大体同じ服装なのだ。

 すらっとした足がバッチリ見える丈の短い着物だ。由乃が言うには外が黒で内側が赤い着物は戦闘用らしい。色の違いしかわからない。

 戦闘用だろうが、普段着用だろうが胸元なんて見えるんじゃないかってぐらい開けられていて、立派に育った果実が誘惑している。由乃の隣に並んでふとした拍子に彼女を見ると鼻血が出そうになっちまう。

 まぁ、最近じゃ、慣れてしまって見るのも恥ずかしいと言う気持ちがなくなっているけどさ。

「冬治」

「ん?」

「言ったと思うけど羽津女学園に吸血鬼は一人だけ……冬治があそこでやる事は人間以外にどんな奴がいるのか調べる事よ」

「そうかい」

「ええ、来年度からちゃんと調べてね。対象を見つける。もしくは卒業するまで、頑張って頂戴」

 やっぱり、俺は卒業するまで女学園にいないといけないのか。

「さ、今日も研究室に行くわよ」

「はいはい」

 さすがに、一緒に歩くのは御免こうむりたいので少しずれて歩く。

 今日も今日とて、俺は由乃から少し離れた距離で研究室へと向かうのであった。


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