第三十九話:隠すより現る
第三十九話
今日の椎子は何だか変ではないか……クラスメートが俺に何度も聞いてくる。
「ねぇ、何かあったの?」
「何も……ないよ。うん、彼女も心を入れ替えたんじゃないのかな?」
休み時間にはそんなことを聞かれた。
只今お昼休み、俺は隣人と一緒にご飯を食べている。
「お姉ちゃんと場所変わって、よかったと思います」
「そうか」
「はいっ」
隣に居るのは恵理奈だ。椎子ではない。
下ネタを言わず、授業中におっぱいとか叫ばない。クラス日誌に真面目な事を書きこむ子だ。
それが普通のはずなんだけどな……椎子はこのクラスで滅茶苦茶やりすぎたんだ。そしてクラスはとっくになれて逆に恵理奈の存在が波立たせていると言う不思議な現象が起きている。
NKKにこれを報告したら調査するかもしれないな……俺も、相当あいつに毒されちまったようだ。
「みんながわたしのことを見ているような気がするんですけど……やっぱり、お姉ちゃんには成りきれませんか」
少し寂しそうな顔をする恵理奈に俺は真実を伝えたくなった。しかし、身内の恥を教えるもんでもないだろう。
「あ、ああ……椎子の奴は大暴れしているからな」
「え、そんな暴力的に?」
「そうじゃないんだ。えーと、下ネタを授業中とかお構いなしに言うからな。ほら、今日はちゃんと授業を受けているだろ?」
「それが普通なのでは? お姉ちゃんは確かに下ネタ言いますけど、授業中とか静かですよね?」
「そ、そう……だね」
恵理奈には知られていないらしい。
それならこれ以上話すべき事でもないか。
「ま、恵理奈は俺の隣で授業を受けて、好きにすればいいさ」
「そうですね。わたしはわたしのやりたいようにします。あ、でもいちゃいちゃしてたらお姉ちゃんと仲良くしている噂が立ってしまいます」
少しでも長い間一緒に居たいと恵理奈が言った結果、それならチェンジすればいいのではないかと椎子が言った。
俺は反対したかった。いや、したよ。恵理奈のためにさ…手しかし、恵理奈が目を潤ませるもんだから賛成に回ったのである。
「……隣のクラスが怖いな。あいつ、変なことしてないだろうな」
「え? 何か言いました?」
「いや、何も……ところで、今度デートしたいって言っていただろう? どこに行く?」
「そうですね……海とかどうですか?」
海かぁ……いいなぁ。
青い海、青い空、そして俺の彼女の水着姿……恵理奈って黒子の面を被っているからイメージカラーが黒なんだよな。黒の水着かぁ……似合いそうだ。
「冬治君」
「はっ……いかんいかん」
妄想している暇があるなら目の前の彼女と話をすべきであろう。
「えーと俺も海でいい。いや、海がいい」
「そう? じゃあ、放課後水着買いに行くから付き合ってくれます?」
当然だ。
「行くにきまっているだろう? 彼女の水着姿なんて滅多に拝めるもんじゃないからな」
「そんな、大げさです。冬治君が望むならわたしは……」
「恵理奈―っ」
椎子が教室後ろから飛び込んできた。黒子の面を被っても消せない存在感、それが椎子だ。
「ごめん、ばれちゃった」
「ええっ」
「ばれる要素は一つもなかったのにっ……恵理奈、恵理奈は友達なんていないって思っていたようだけれど、結構、恵理奈の事を見ている子、いるよ」
「えっと……それ、本当?」
「本当だよ。ちょっと喋っただけでばれたから」
椎子は感動したとばかりに頷いていた。俺は間違いなく、椎子が下ネタを連発してばれたんだろうと予想を立てた。
「はい、これはやっぱり恵理奈にふさわしいよ。もっとも、被る必要はもうないだろうけどね」
「お姉ちゃん……」
黒子の面をとって恵理奈に渡す。その光景を見て俺も、自分のポケットから黒子の面を取りだした。
「これ、恵理奈に返す」
「え? 冬治君が何でこれを?」
「最初、出会った時……女子更衣室で取って行ったんだ。許してくれないかもしれないけど、謝るよ」
頭を下げたらすぐに叩かれた。
「頭が高いっ」
「椎子、お前後で覚えとけよ」
叩かれた場所を今度は恵理奈が撫でてくれた。
「いいんですよ。些細な事ですし……それに、これはもう必要ありません」
恵理奈はそのままゴミ箱へ黒子の面を捨てるのだった。
「冬治君がちゃんとわたしのことを見てくれていますからね」
「そうだな」
そして昼休みが終わりを迎え、恵理奈は自分の教室へと戻っていった。その後ろ姿を見て俺は彼女の姉に賭けをもちだした。
「……すぐ戻ってくる方に百円。お前下ネタ連発しただろ」
「じゃあ、戻って来ないほうに百円。あの程度はセーフのはず」
そして数分後、鬼のような形相で授業中のこっちのクラスに恵理奈が乗り込んできたのは想像に難くない。椎子の顔が大変な事になったので黒子の面をかぶせておいたので問題は無いだろう……多分。




