第三十八話:恋に上下の隔てなし
第三十八話
由乃に告白されてからもう毎日がテスト勉強どころじゃなかった。
「はかどってる?」
「……由乃、お前わざとやってるだろ」
「だって、私は勉強しなくていいもん」
座って勉強している俺を毎日後ろから抱きしめてくるのだ。朱音さん、俺は煩悩に頑張って逆らってますよ! 勉強、頑張ってますよ!
そして、中間テスト真っ只中の休日、由乃はテスト勉強全然はかどってないと嫌がる俺を引きずって(ズボンが脱げてもお構いなし、パンツを脱がせても遠慮なし……恐ろしい子っ)デートをおっぱじめた。
「うっわ、すっげぇ美人」
「男の方は冴えねぇな」
そりゃそうだろう。というか、ふんどし一丁とかのほうが吊り合い取れるんじゃね?
由乃の水色の着物はやっぱり露出が多すぎる。男どもの視線で由乃が汚れちまうんじゃないかとさえ錯覚を覚えた。
「どうしたの冬治?」
「……やっぱりその服は露出高すぎないか?」
「いつも来ている服じゃないの」
「そりゃそうだけどさ」
周りを見渡し、由乃は納得したのか俺の耳に口を近づけた。
「安心しなさいよ。あたしはあんたのものだから……好きにしていいのはあんただけ」
「うっ……」
慌てて鼻を押さえる。
「んー、傷をつけなくても血を出す方法ってあるわよね」
そんな俺を見て由乃は笑っている。
「……ま、確かにな」
「今度から色仕掛けで鼻血をださせようかしら」
意地悪そうな笑みを浮かべる由乃に俺は血を作る食べ物はどんなのがあったか考えるのであった。レバーとかだよな。
「ん? いや、待ちなさいよ。あんた、別に私の身体で鼻血を出したことないわよね」
「……そういやそうだ」
一緒に生活していたらハプニングもたまにはある。それでも、鼻血を出した回数は殆どない。
「何で最近になって鼻血出す事が増えたの?」
「……」
真面目に考えてみよう。なんでだろう。
露出が増えた……は、違うな。もとからこんな感じだ。胸が大きくなった……も、違うな。多分、変わってない。揉んで大きくなるわけでもないらしいし。じゃあ、何でだ。
「単純に思う事は由乃が可愛くて可愛くて仕方がないって思ったら血が出るんだよな」
「鼻血を出しながら言うと説得力あるわね」
「そうだな、由乃が可愛すぎてやばい」
「あ、あっそうっ。ほら、行くわよッ」
何やら急におおまたで歩き出した。やれやれ、今のセリフのどこで機嫌を損ねると言うのだ。そもそも、前に回ったら……にやけっぱなしのくせに。
俺たちが向かった先はデパートだ。なんでも、今年の夏の為に水着を新調したいそうだ。
「……ごくり」
当然、試着した姿も見せてくれるとの事。もう、これはあれだ、彼氏の特権だ。他の奴には絶対に見せられん。
早く出てこないかと思って待っていると、ようやくカーテンが開けられた。
「どう?」
「どうって、お前……水着、着てないじゃん」
俺の言葉に由乃は得意げに言うのであった。別に裸ってわけでもない、水色の着物だ。
「スケベには見えない水着よ」
「……よっしゃ」
スケベでよかった。
「何でガッツポーズするの?」
「嬉しいからだよ」
「じゃあ、馬鹿でスケベには見えない水着よ」
「俺はその水着が透けるって言うのなら喜んで馬鹿でスケベになるぞ……あいたっ」
拳が飛んできて顔にめり込んだ気がする。
「ばーか、水着のデザインで気にいるのがなかったからママに作ってもらうのっ」
もしかしておいてある水着全部サイズが合わなかったのでは? そんなことは無いよな。
うーむ、聞いてみたいけれど、命はまだ惜しいし……。
帰り道、俺は由乃にある事を質問した。水着のことではない。
「なぁ、最近傷をつけないで血を出す方法をよく調べているみたいだけれど……何でだ?」
「好きな人の体に傷をつけるなんて、嫌よ」
さっき殴られた気がするんだが。
「そうか? 俺は別に構わないぞ」
「私が構う。だって、力加減を間違えば大けがするのよ? それに、血を吸われる時冬治は……少し痛そうな顔をしているじゃない」
朱音さんの言う通りなのかは知らない。血を吸われるt機、それまで痛みを感じなくなったがそれ相応のいたみを感じるようになってきた。
「そうだけどさ、血は由乃にとって大切なもんだろ」
「そうね」
「だったら遠慮するな。変に遠慮して血を飲まなくなったら俺は自分を傷つけてでもお前に血を飲んでもらうよ」
言ってて思う。無理やり彼女に血を飲ませるとかどんなプレイだよ。
由乃も想像したのは微妙な顔になっていた。
「……冬治をこれ以上変態にしないよう、努力するわ」
「おう、頼む」
もう手遅れだよとは言わなかった。
「ちょっと、こっちきて」
「ああ」
俺の腕を抱くようにして歩き出した。
「……あのさ」
「うん?」
「冬治ってあまり私に触れようとしないわよね」
「そうかな」
「そうよ。スタイルには自信あるんだけれど……満足できない?」
凄い事を聞かれている気がする。
「そう言う事じゃないよ。俺はお前の事、大切なんだ」
「でも、冬治から血をもらっている。返せるものなんて身体以外に何もない」
「こらこら、外で身体とか言うんじゃない」
周りがぎょっとして俺達の事を見ていた。
「それに、ちゃんと返してもらっているさ」
「何を?」
愛、と言おうとして辞めた。これは俺が由乃に対してあげてないと取られかねない。
「冬治?」
「……外じゃ言えない事だな。ま、お前が想像もつかないところで俺はお前からもらっている物があるんだよ……いてっ。なんでそんなに怖い顔をしてるんだ」
「あんた、私が寝てる間に変な事、してないでしょうね?」
「してないっ。大体、朱音さんやユウカがいるだろっ」
ちなみにすけすけの黒い下着とか反則的な下着とかじゃないぞ。みたことはあるが、着服した事は無い。
「わからない。答えは何?」
「さてね、一本でも無くすと意味が無くなるもんでとある場所からとると辛くなるもんだよ」
これはおそらく、俺が由乃に対して与える物よりも由乃からもらっている方が大きい。なにせ、血を飲む事に引け目を感じている間はそう思えないからだ。
「教えてよ」
「こればっかりは教えられない。恥ずかしいから」
いつか由乃が気付いてくれたなら、俺は由乃にある事をお願いしたいと思う。その時俺は、あの家に居候としてではなくちゃんとした存在として迎え入れてもらえるに違いない。血は繋がって無くても、家族にはなれる。それは、人間でも吸血鬼でも一緒だろう。




