第三十七話:見るは法楽
第三十七話
ガンマンと射的対決、ストーカーと鬼ごっこ、そして、透明人間とかくれんぼ。
「これはどう考えても俺の方が不利だわ」
かくれんぼってあれだろ。鬼が十秒数えている間に隠れてそいつの身体の一部を見つけたら○○ちゃんみーっけって遊びだろ?
いきなり放課後椎子から腕を掴まれて旧校舎まで連れてこられたのだ。なんだか少し期待していたら本気で鬼ごっこしてって頼まれた。
「本気の鬼ごっこって何だよ」
訊ねたら数秒考えて首を振られた。
「ごめん、かくれんぼ」
「どっちでもいいけどよ。順にやっていくか?」
「だめ、かくれんぼ」
「わかったよ」
「十秒数えたらあたしを見つけてねっ」
そういって走っていってしまった。
そして俺は十秒数え、最初の角を曲がったのだった。
「……椎子、みーつけた」
「やっぱり、見えてる?」
椎子の手には『すてるすモード』と書かれた板をもっていた。
「ああ、バッチリ見えてるぜ?」
「おかしいなぁ」
首をかしげる椎子に俺はある提案をした。
「もしかして透明になれないんじゃないのか?」
「うーん、それは無いと思うけど」
「下ネタ連呼しなくなったから透明になれなくなったとか?」
自分の事を否定するには自分が嫌いにならないといけないよな。つまり、椎子が下ネタを連発していたのは透明になるためだと考えていたりする。
「椎子は椎子の事が好きか?」
「うん、自分大好き」
「下ネタ連発しても?」
「大好きっ。あ、大丈夫。冬治君が下ネタ言っても許すから」
「……やっぱり、透明になるなんてむりなんじゃないのか」
「いや、透明だってば。ちょっとついてきて」
そういってまた俺の腕を掴んで職員室近くまで連れてきた。
「今度は何を?」
「来た……見ててね」
膝までのフレアスカートを履いた若い女性教師が奥から職員室へ向かって歩いてきた。
椎子はそれに真正面から近づいて、あろうことかスカートをまくしあげたのである。
「えっ……」
あわてて女性教師はスカートを抑えた。
「黒下着……そして、ガーターベルト、だと……」
椎子は俺の元へと歩いてきて、言った。
「スケベ」
「うぐっ……」
「彼女がいるのに普通、女教師のパンツ見て興奮する? あたしのパンツみても特に何も言わない癖に」
「……い、いや、ほら、椎子のパンツはよく見て……そうだな、すまん。俺が全面的に悪い」
ののの屋のクレープを奢らされる羽目になった。
「ところで、椎子は何がしたいんだ?」
「あたしは透明だってことを証明したいんだよ。今だって透明だもん」
その割には俺の目にしっかりと映っている。
俺の言いたい事がわかったのか、椎子は笑った。
「あたしはね、冬治君。あたしはいないんだって他の人の脳に説得しているんだよ」
「説得?」
「そう、超能力みたいなものって思えばいいよ。だから、いるんだけど見えない、触ったとしても感触がないんだ。脳が反応しないんだよ」
「でも俺は見えるぜ。それに、触れる」
椎子の頬を撫でる。俺の腕を掴んで椎子は笑った。
「あたしが無意識に冬治君に見てもらいたいって思っている。もしくは冬治君があたしのことを好きすぎて通用しない……あるいは、両方って考えられる。冬治君はどう思う?」
「俺は……」
少し考えて、俺は考えるのをやめた。
「悪い、椎子。俺にとってはお前が透明になろうとならなくてもどっちでもいいよ。たとえ透明になってしまって周りの人から椎子の事が見えなくなっても俺が見えればそれでいい。抱きしめて、キス出来ればそれでいいよっ」
「もうっ、冬治君のエッチ」
「エッチって……」
「じゃあ、スケベ」
「……」
そういって椎子は俺の胸に顔を埋めるのであった。
「お前の方がスケベだろ。透明になれるからって人目を忍んで俺の風呂とか覗いてないか?」
「……」
「え? 何でそこで黙るんだよっ」
「む、ムービーは、撮ってないよ?」
「ムービーは? どういう意味だっ」
この後、椎子がやらないと言っていた鬼ごっこを俺たちは二人で始めるのであった。見えてしまう透明人間なんて、ただの人間である。難なく捕まえる事が出来た。




