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第三十六話:思い内にあれば色外に現る

第三十六話

 ユウカが俺の彼女になった事を由乃と、朱音さんに報告してたら口を開けていた。

「冬治君ってこういう透けてる女の子が好きなの? グラスフロッグとか?」

「えーと、はい」

 グラスフロッグって何だろう。後で調べてみたら気持ち悪かった。

「ラブラブね。私は別にいいと思うわ」

「よかったー」

 さて、此処からがちょっと真面目な話である。

「二人にお願いしたい事があるんです。厚かましいんですが、朱音さんには引き続き、ユウカをこの家に置いてほしいんです」

「え? 別にいいけど? それにユウカちゃんはもうわたしの娘みたいなものだし」

「ありがとうございます」

 ユウカもしっかりと頭を下げた。

「由乃にはNKKにユウカのような事例がこれまで無かったか調べてほしいんだ」

「はぁ? NKKは吸血鬼の組織よ? 幽霊の記録は無いと思うわ」

「それでも、お願いだ。この通り」

「二段重ねでやっちゃいます」

 土下座した俺の上にユウカがのぼって頭を下げた。

「あんた達がそう言うのならいいわよ、やってあげるわ」

 俺の意図がよくわからないようだが、頷いてくれたのだった。

 朱音さんと由乃にお願いをした次の日、俺はユウカと初めて出会った場所へやってきた。

「ここが思い出の場所だよな」

「うん」

 懐かしそうに目を細めるとユウカは川へ向かって人形を投げた。

「今のは何だ?」

「ん? さっきの? あれはおまじないかな」

「おまじない?」

 それだけでは当然わからない。ユウカは俺に教えるつもりがないのかと思ったら俺の隣に座った。

「富木さんがくれたんだ。少し話が長くなるけど、いいかな?」

「ああ、構わない」

 俺もユウカの隣に座る。

「わたしね、冬治君と初めて出会った日が目を覚ました初めての日なんだよね」

「ん?」

 いっている事がよくわからなかった。でも、腰を折るのはよくない気もする。

「名前も、いる理由も、場所もわからなくて何だか誰かが自分のテリトリーに入ってきたのはわかったよ。すごく、苛立った」

「そうか」

「うん、でも何だかその人を見て電流が走ったよ。おそらく、一目ぼれ」

「……」

「ひっついて一緒に帰っちゃった。変な機械で一生懸命わたしを探したのにはびっくりしたなぁ。青いボタンを連打するたびに心が穏やかになってった」

 聞いた事のある話だ。

「一緒に生活して、一緒の部屋で寝起きして、気付けばまるで人間みたいな生活してた。だからかなぁ、それまで名前もわからなかったはずなのに前世の記憶って奴が戻って来そうになったんだ」

「えーと、ユウカは……記憶がなかったのか?」

 それはちょっと意外な話だった。富木さんが言っていた時も驚いていた顔していたけれど、演技だと思ってた。これまで生きていた頃の話をしないのは寂しいとかそういう理由だからだろうと思っていたからだ。

「そうだよ。記憶、なかったよ。だから、ユウカって名前も仮の名前なんだよね。幽霊の、仮の名前……だから、ユウカ」

「そうか、俺はてっきり夕暮れの花だからユウカだと思ったよ」

 俺の言葉にユウカは笑った。あの時見たユウカはまさしくそうだった。河川敷に咲いた儚げな白い花だった。

「じゃ、今後はそれで。夢川夕花。これでいいね」

「そうだな、いい感じだ」

 お気に召したようでしきりに頷いている。

「それで、さっきの人形の話はどうなったんだ?」

「あ、そうそう。あれはね、生前の記憶を人形に乗せて無くしちゃうんだよ」

「……え? でも、お前さっき記憶が戻りつつあったって……」

「それは夕花じゃない死ぬ前のわたしの記憶」

「家族とか気にならないのか?」

 死んだことは無いけれど、やっぱり自分が何者なのか知りたいと思う。

「冬治君は変な事言うなぁ……わたしの家族は朱音さんや由乃ちゃん、それに冬治君だよ。……今頃きっと、家族が死んだ事を乗り越えてるよ。そんなときにこの状態で出て行ったらまずいし、こんなわたしを普通の人間が認めるなんてありえないよ」

 暮れゆく夕焼けを二人で眺める。

「俺も普通の人間なんだけどな」

「そうかな? 幽霊を選んだ変な人だよ」

 変人に人権は無いと言うのか。それはあまりにも横暴である。

「だからさ、冬治君。少しだけ後悔している気持ちをどうにかしてほしいの」

 こっちをみたユウカは泣いていた。

「どうすりゃいい」

「お任せで」

「わかった」

 ユウカの両肩を抱き、キスをする。

「ありがとう冬治君。迷惑かけちゃって」

「気にするな。こういう思い出の場所でキス出来て、嬉しいよ」

「死んだ場所でもあるんだけどね」

「生まれた場所でもあるんだろ?」

「そう、だよね」

 ユウカは笑った。気のせいか、その姿は透けつつある。

「あとさ、冬治君」

「何だ?」

「ごめんね」

 そういって、ユウカの姿がぼやけて消えた。


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