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第三十五話:直情径行

第三十五話

 どうして俺は恵理奈のためにここまで頑張っているんだろう。

「ふぅ……」

 授業なんて頭に入ってきても右へと抜けて行くだけだ。

 休み時間になっても同じ。曇りを眺めて気付けば授業が始まっている。

「何? 何か悩んでるみたいだね? そう言うときはセクシイ子ちゃんに任せなさい」

「セクシイ子ちゃん、ある女の子が気になるんだが好きかどうかわからない。どうすりゃいい、相手は俺の事が好きっぽい」

「はいはい妄想妄想。自意識過剰野郎のお帰りはこちらですよー」

 そういって窓を開けられた。おい、ここ三階だぞ。

「聞いた俺が馬鹿だった……椎子を親友だと思って聞いた俺がマジで、馬鹿だったわ」

「嘘だよー元気出してってば……こほん、まずはその人と出会ってからこれまでを思い返してみればいいんじゃない?」

「それは、もうやったよ……」

「じゃあ、次の段階だっ」

 グーを天井へ向けて、椎子はいった。

「いけ、押し倒せ」

「え」

「相手が冬治君の事を好きなら、押し倒せ。そして、キスするんだっ。それで冬治君がこれでいいって思うのならそれでいい。違うって思うんなら数ヵ月付き合って捨てろ」

「それ、最低な奴だな」

 相手に完全に甘えているうえ、好きじゃなくて、違うと思ったら捨てろって本当に最低だ。

「女の子が好きかどうかもわからないって言ってるやつのほうが、最低最悪」

 既に最低の下を行っているとは……。

「マジ、反吐が出る。ぺっ。はい、最低なクズ野郎のお帰りは屋上からどうぞ」

「何だか段階上がってるし」

 椎子の目は……強い色を称えていた。誰かを護る人の目だ。

「好奇心で近づいて、曖昧に好きになり同情みたいに接する……あの子は、そう言うのが一番嫌い。二度目なんてないよ、それがばれてしまえば冬治君はおしまい。ちなみにあたしはそう言う奴は絶対に許さないね。そいつのやばい写真を撮ってばらまく。はい、おしまい」

「おしまいって……」

 あれ、気に食わなかった? 椎子はすごく暗い笑顔を俺へと向ける。

「あのね、冬治君。話は変わるけど衆人環視の中、人が一人、落ちたらどう思う? その人の周りには誰もいなかった」

「それは事故か何かだろう?」

「そう、だよね。一般的に言ったらそうさ」

 椎子はそれだけ言うと立ち上がった。

「お膳立て、要る?」

「要らない。もうしてもらっている気もするけれどな」

 サムズアップして去っていった。

「今日の放課後、言わなかったらあたしは放送室をジャックして女子更衣室に冬治君が入ったと言うのを喋る」

「……は?」

「忘れてる? 初日、この学園に来て冬治君が入っている姿を見たんだよ。写真もあるよ?」

 渡されて驚いた。マジだ。

 俺を脅す椎子の顔はかなりいい表情をしていた。

 そして、その日の放課後、俺は恵理奈を呼び出した。

「話って、何ですか?」

 人の居ない屋上はうってつけだ。まだ夕焼けじゃないのは夏が近いからか。

「……後で話す。まずは、黒子の面を取ってくれ」

「えーと……はい」

 俺の言葉に素直に応じて黒子の面をとる。俺はそれと同時に目をつぶった。

「どうして目をつぶったんですか?」

「俺は恵理奈にキスする」

「えっ……」

「嫌なら思いっきりひっぱたいてくれ。してもいいんなら、もうちょっと俺に近づいて、肩を掴ませて欲しい」

「……はい」

 俺をひっぱたくことなく、恵理奈は両肩に俺の手を置いた。

「夢川君、わたしの顔にキス、出来るんですか? 言っておきますけど、見えないだけじゃなくて触れた感じもしませんよ?」

「それでも、実際は触れてるんだ。恵理奈のファーストキスは俺がもらうっ」

「夢川く……」

 俺はそのまま勢い付けて恵理奈にキスをした。

「ふぐっ」

「あだっ」

 そしてすぐさま顔を放す。何かに当たった感じがして眼を開けると其処には恵理奈の顔があった。

「……いだだだ……勢い良すぎです」

「わりぃ。でも、恵理奈の顔、俺、見えるよ」

「え?」

 驚いた恵理奈の顔は可愛かった。

「椎子に確かに似てる。でも、あいつより間違いなく綺麗で、優しい感じがする。他の人に恵理奈の顔は見えなくても、俺には見える。だから二人の時は黒子の面を外してほしい」

 そこで一息つく。

「恵理奈、俺と付き合ってくれっ」

「わ、わたしでいいんですか? お姉ちゃんじゃなくて?」

「ああ、椎子は知らん。俺は、恵理奈がいい。唇奪って告白なんて酷いけど、こんな俺でもいいなら付き合ってほしい」

「夢川君……」

「下の名前で読んでくれよ」

「と、冬治君っ……冬治君っ」

 抱きついてきた恵理奈をしっかりと抱きとめる。頭をなでるようにして手を置いた。うん、確かな感触だ。

「さっきのキスはなかった事にしてください。だから、ちゃんとしたキスをしてください……」

「ああ、恵理奈が望むなら……」

 お互い、目をつぶる。

 目をつぶった瞬間、凄い声がこだました。

『はぁーい、皆さんごきげんよーっ。今、屋上に行くと甘酸っぱい青春を見る事が出来ちゃうぞっ』

「お姉ちゃんっ……」

「椎子の奴……」

 後少しというところで思わぬ邪魔が入った。

「逃げるか?」

「いや、やっちゃいましょう」

「アグレッシブだな」

「ムードとか、この際どうでもいいです。早くっ」

「あ、ああ……」

 やり直しがばたばたって何だか嫌だなぁと思いつつ、唇を重ねる。記念にはなるかな。

「おーっと、行った! 皆さん見ました? あの放送があった後なのに行きましたよっ」

「ん、む……行ったとかいうなっ」

「皆さん、キスを続けるより突っ込みを選びましたっ。夢川冬治に盛大な拍手をっ」

 どう考えてもタイミングが良すぎる。こりゃ、監視されてたかな……。

 恵理奈が怒っているのではないかと思うと俺の腕の中で微笑んだ。

「見せつけてあげましょうっ」

「そうだな……」

 先生達が来るまで俺たち二人はいちゃいちゃし続けた。

 そして、二人仲良く停学を喰らうのであった。


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