第三話:面を取って疵を求む
第三話
授業時間を狙って侵入した更衣室……女学園の為、男子の更衣室があるわけないが、かといって女子と書かれたプレートがあったわけでもない。
つまり、セーフって事に違いない。男女兼用……みたいな?
「ま、さっさと着替えて出て行くのが吉だな」
由乃からもらった男子物の制服は背丈ばっちりだった。俺の何から何まで研究していると言っていた気がするのでそこらへんはぬかりないのだろう。
「ふー……ん?」
女子の制服を脱ぎ棄て、近くにあったゴミ箱へ放り込むと(これを持っているのがもし、ばれたら大変だからな)黒子が被ってそうな面を見つけた。
「なんだ、これ……ここ、もしかして演劇部とか歌舞伎部とかが使ってるのか?」
歌舞伎部って部活があるかどうかは知らないけれど、何かしらの小道具だろう。セットでおいてあるはずの首から下の衣装が無いのがちょっと気になる。
被ってみると、案外フィット感のある代物だ。結構高級な素材で作られているに違いない。
俺の鼻がカシミヤのティッシュで鼻をかむような高級感に包まれている。
「お、これすげぇ……外からは顔が全然見えないのに中からだとくっきり見える」
その時、扉の開く音が聞こえてきて、そっちをみると女子生徒がいた。
「……」
「あ……」
入ってきたのはこの黒子の持ち主の子っぽかった。
何故かって? そりゃあ、少女の顔に黒子の面があったからだ。
「あ、あの……」
絶対に叫ばれると思って身体をこわばらせていた俺は普通に声を掛けられてびっくりしてしまった。
黒子の面を被った少女は一歩近づいてきて右手を差し出してくる。
「先生、また悪戯ですか? 今度したらセクハラで訴えるって学園長に言われてましたよ?」
少しおどおどとした調子で話しかけられた。
はて、先生? どうやら、この子は先生と俺を勘違いしているようだな。
そりゃあ、そうか。この学園には男の先生がいても男子生徒がいるわけではない。
ま、この子が勘違いしている相手はどうやら碌でもなさそうだしこの際、罪を上乗せさせてもらおうかな。制服着ているんだから気付きそうなもんだけど……。
喉を指差し、口の前でぐー、ぱーを繰り返し手でバツを作った。
「喉が……痛くて声が出せないんですか?」
「……」
こくりと首を縦に動かすと困ったっぽい(何せ、表情が読めないからな)少女は再び手を出してきた。
「多分、その面とるのに喉は関係ないと思いますよ?」
「……」
それもそうだな。
「取りますね?」
「!」
少女は俺に近づいてきて、無理やり面を取ろうとした。顔を見られるわけにはいかない……マスクマンはどんな屈辱を受けても、頭のマスクは取られちゃいけないのだ。
逆に、相手の面を掴んでとってしまった。
「ああっ、せ、先生いきなり何を……」
少女が悲痛な叫びをあげる。
やっちまった。これは暴力を振るったことになるのか……と、一瞬考えて少女の顔のある方へ視線を向ける。
美人が顔を隠しているのか、それともブスが顔を隠しているのか……。
「ぎゃああああっ」
答えは……わからなかった。其処に在るはずの頭は、なかった。
「何だ、今の悲鳴はっ」
「やべっ」
「きゃっ」
少女に再度、面をかぶせて窓から逃げる。女学園に警報が鳴り響く中、俺は先ほどの首なし少女の事を考えるのだった。




