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第三十三話:小事は大事

第三十三話

 中間テストも気付けば終わり、六月がやってくる。じめじめする程度で特には行事がないかな。ああ、プールとか俺には関係ない。女子はあるけれど、俺はない。

 いつもの学園生活である……ほんのちょっとだけこれまでとは違う。

「あは、あはははは……冬治くーん……」

「間山さん? 授業中ですけれど……どこか、悪いのですか?」

 先生がそうやって恐れるのもわかる。俺の隣の人物、間山椎子はここ最近こんな感じだ。授業を聞いていないのかと思えば、いきなり指されてもばっちりと答える。実に、おかしな感じだ。

「愛の力があれば中間テストなんて勉強しなくても何とかなる……というわけで、デートしよ?」

「断る」

 こんな感じのやり取りを行ったのも少し前になるな。

 まさか、全教科満点取ってくるとは思いもしなかったけどさ。

「間山さん?」

「はっ……いけないいけない。先生、何でもないです。ちょっと幸せすぎて……うふふふ……」

「そ、そうですか……わかりました」

 これだけだったらまだいいかもしれない。

「じゃあ、次の文章を夢川さん呼んでください」

「は……」

 俺が血あがろうとすると隣の人物が何故か立ちあがった。

「はいっ」

 立って返事するとすらすら文章を読み終えて一同が口を開けて見ている中、静かに座った。

「あれ? 読むところ、間違ってましたか?」

 気付いた椎子が先生に訊ねる。もちろん、先生は首を振った。

「いいえ、あっていますよ。読み方も素晴らしいものでした」

「そうですか、それじゃあ、何なんですかね、この空気」

「夢川さん、といったのに間山さんが立ちあがったからだと思いますが?」

「え? あー……そうか、まだ間山だった」

 なんだ、まだってどういう事だ。

 詳しく聞いたら恐いので黙っておくことにする。周りからの視線を非常に感じてしまう。

 そしてその日の昼休み、俺は椎子にあることを話すつもりだった。

「なぁ、椎子。話があるんだ」

「え? 別れる? あたしはそれでいいけれど……透明人間なめちゃ駄目だよ」

「ちげぇよ。椎子のが事が好きだから話したい事があるんだ」

「冬治君……何だろう、普段だったら変な事言わないでよって言っているけれど彼女に成るとそんな冬治君まで格好良く見えちゃうよ」

「毎回一言多い」

 こんな感じでいつもタイミングを逃してしまう。しかし、今日は違う。

「由乃っていう女の子なんだが……」

 何かが折れる音がした。何だろうと思って見てみると、椎子が握っていた箸であった。

「へぇ……女の子?」

 普段の明るい調子からは全く想像できない椎子の暗い声。それでいて、顔はしっかりと笑っている……眼は笑っちゃいなかった。

「し、椎子ってさ……こっちの明るい方だよな?」

 両手でVサインを作って動かしてみる。いつだったかやったよなぁ、Vサインで白目剥くのと、カッター振りまわして刺す方。

「ごめん、こっちの方だと思う」

 そういってカッターを取り出してちきちきと音をたてはじめた。

「……それで、冬治君。これ必要になる話?」

「ならない話。俺がこの学園に来た理由を……」

「ああ、その話か」

 どういう話か一度も話していないのに、わかったとばかりに笑い始めた。カッターが無くなったのを見てほっとする。

「冬治君は謎の組織、NKKの特別派遣調査員だったっ。NKKからの指令を受け、彼は羽津女学園の生徒として入りこみ、学園に潜む人外の調査を行う……そしてそこで、美少女透明人間の間山椎子ちゃんと出会い、恋に落ちるのだった。しかし、そんな愛し合う二人の前に立ちはだかるのはNKK……夢川冬治君は悩んだ末、NKKから逃げる為、間山椎子と駆け落ちを計るっ。次回、気になるあいつは調査員? 夢川冬治死すっ……乞うご期待っ」

 色々と違うところはあるけれど、大体あっていた。

「書類とか残したつもり、無いんだけどな」

「あたしはほら、透明人間だからね。あの日遅刻してたら女装した人間を見つけてねー」

 それでいつの日か特定した。

「そのままついていったらいい話聞けたんだよ。それから冬治君が休みのときとか、電話をしている時も透明になって話を聞いたんだ」

「……なるほどな」

 椎子が透明人間だとわかったなら、由乃に間違いなく引き渡していた事だろう。真人間になって返ってくる事を期待していたはずだ。

 今はまぁ、このままでいいかな。

「悪かったとは思っているよ。でも、あたしはNKKってところを知らないからね。何されるかわかったもんじゃない。だから、冬治君が転校してきてこっち、学園に居る時は一度も透明化してないよ」

 道理で何度探しても手掛かりがみつからないわけだ。まぁ、由乃の奴から絶対に居ると言われたわけでもないからなぁ。

「だったら何で告白してきたとき、透明人間だとばらしたんだよ。俺がNKKに報告したかもしれないだろう?」

「それは……ないよ。冬治君はそう言う事をする人間じゃない、わかっていたから話したんだ。今も自分から秘密を話してくれたからね」

 嬉しそうに食事をしている椎子を見て俺はため息をついた

「冬治君はどうしたいの?」

「どう、とは?」

「その由乃って女の子に紹介したいんじゃないの? その子もNKKなんでしょ。あたしは話してもいいよ? ただ、もしお財布がまたなくなったりしたらあたしの事を知っている人は容疑者にあたしを入れるだろうね」

 透明人間が盗みをしてもなかなかわからないだろう。

「……俺はお前が盗るだなんて思っちゃいない」

「冬治君はあたしが何しても動じないけれど、他の人は違うよ」

 さすがにお前が俺の順番の時に立ちあがって音読したのには動じたよ。

「そうだな、やめとくか」

「言っておいて何だけど、それでいいの?」

「ああ、どう見ても危険があるとは思えないやつだ……何かしでかした時は俺がしつけるよ」

「しつけるって……いやん」

 早速しつけが必要である。

 まぁ、人外が椎子一人というわけでもないだろう。他に居るかもしれないし、いないかもしれない。

 へらへら笑う椎子を見ながら幸せってこんな変な表情を見ても感じるんだなーと思うのだった。

「そうだ、椎子」

「ん?」

「なぁなぁで付き合ってたけど、ちゃんと言うよ。俺、お前の事が好きだ」

「冬治君……」

 椎子は口を開けて俺を見ていたのだった。


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