第三十二話:時の用には鼻をさけ
第三十二話
ユウカに告白され、俺はそれを受け入れた。
大団円ってやつじゃなかろうかと思っていたら教室後方の扉から富木さんが現れたのであった。
「え? ここでまさかの富木さん出馬?」
「そして冬治君が血の雨にされるのが目に浮かぶ……」
「今更? 今更出てくるって……あり? あたしも今から出たら冬治君と……ぐへへへへっ」
状況がごちゃごちゃになるのを期待しているのではないかとクラスメートたちを見る。でも、思っていたらそうでもないようでクラスメートたちは俺たち側についてくれるようだ。
「さぁ、ユウカさんをこっちに連れてきてっ。成仏させるっ」
「待つんだ、富木ちゃんっ。ここはあたしが食い止める……逃げて、冬治君達」
俺達の前に椎子が壁となってくれた。
「椎子……」
「椎子ちゃん……」
どの道、後ろは窓だからそこに椎子が来ても時間稼ぎにすらならないけどな。
「さぁ、冬治君達の所にいきたければあたしを倒していきなされっ」
「ぽいっ」
「がらまっ!」
それはもう、短い時間であった。本当に軽い感じで投げられきゅうりとなすびの上に落ちた。
「つ、つえー……」
クラスメート一同がそう言ったのだった。
「いや、椎子が弱いだけじゃね?」
俺の言葉も納得していただけるだろう。別に、不良をちぎっては投げ、ちぎっては投げしていたわけではないのだ。ただ、下ネタを連呼して授業を妨害や若い女性教師を見るや背後から胸を揉みに行く。あれ? これじゃまるで椎子が不良みたいだ。というより、不良より性質がわるいぞ。
「間山さんはああ見えて文武両道の人らしいよ」
「この前も街の不良を投げ飛ばしてた」
「マジか……」
「勉強しなくてもテストで満点とったりするからね」
「うそだろ……」
まぁ、椎子の事は一旦置いておくとしよう。
怪我をしてないか椎子を離れた所から見ると一応、動いてはいた。
「助けてー、きゅうりとなすに襲われるー」
どっちかというと懐かれていないか、あれは。
椎子の尊い犠牲を無駄にするわけにもいかないので、立ちはだかった富木さんに俺は言った。
「富木さん、お願いだからどいてくれ」
「お願いっ」
ユウカと一緒にお願いするが、冷たい目をして拒んでいる。ちらりと椎子を見て富木さんはほほ笑んだ。
「二人とも、場所を移そう? ここは人が多いから……ついてこないと椎子さんがどうなっても知らないよ」
「……椎子、ごめん。俺は別にいいかも」
「ごめんね、椎子ちゃん。わたしも冬治君がいればそれでいいかな」
「裏切り者―っ」
「あの、夢川君とユウカさん。椎子ちゃんのためにも来てあげて」
こういう時に人望は大切だなーって思うよ。
そいて、そのまま全員で屋上へ。富木さんが椎子を担いで先頭を歩き、その後を俺たち二人がついて行く。俺らの後はクラスメートたちが二列に分かれて綺麗についてきている。
「意味無いからっ。関係者だけって意味だよっ」
屋上についてすぐ、富木さんが癇癪をまわしはじめた。
「だってほら……」
「私たちも冬治君のクラスメートだし、ユウカちゃんの事幽霊だって知ってるからね」
約四十名が屋上に来る事も滅多にある事じゃないな。
「えーと、それでユウカの話をするって事だが……」
「どういう事を話すの?」
人多すぎる、そう富木さんは呟いて話を始めたのだった。
「まず第一にっ、ユウカちゃんは幽霊っ。触れないっ」
「え? 触れるぞ、ほら」
「うん」
ユウカの頭を撫でると気持ちよさそうに目をつぶる。髪の毛の感触もあった。
ぽかんと口を開けて数秒後、きりりと表情を整えて富木さんは続ける。シリアス全開だ。
「次っ、ユウカちゃんは死んでるから戸籍上結婚できませんっ」
付き合い始めて結婚って……。
「わたしは別に戸籍上妻じゃなくていいよ。だって、一緒に居る事が出来れば幸せだから」
「ユウカ……」
そうだよな、そんなの関係ねぇや。俺が死んで保険金がどうこうとかいってもユウカの奴は既に死んでるし。
「最後っ……ユウカちゃんは死んでる。感情も乏しいだろうし、恨みを強く抱きやすいのっ」
叩きつけるように富木さんはそう言って首をかしげた。
「感情が……」
「乏しい?」
「あれ? そうかな、自分じゃ明るい方だと思うよ?」
クラスメートと共に、ユウカの方を見る。にこにこ笑っていた。
それを見て富木さんが頭を抱えてしゃがむ。
「何これっ、こんなの聞いた事がないし見た事もないよーっ」
一生懸命手帳を捲って何か探しているようだ。
「富木さん」
「な、何? 今忙しいっ」
手帳は既に三冊目に達していた。
「提案があるんだ。ユウカを特別案件として見てくれ。こういう幽霊もいるんだってことで、俺たちと一緒に居ればそれが出来る……俺は富木さんとも仲良くしたいんだ」
「夢川君……」
これは浮気ですか? 周りのクラスメートが審議に入った。
「これが最近流行りの乗り換え?」
「対応策はあれだね、ユウカちゃん。呪っちゃいなよ」
「人を呪わば穴二つっていうけれどユウカちゃんは幽霊だから万事OK」
「俺はそういう意味で富木さんに言ったんじゃない。友達として仲良くしたいだけだ。それに、ユウカに何かあった時は富木さんを一番に頼れるはずだ」
ユウカはわかっていたとばかりにこっくりと頷いて笑ってくれた。その手に五寸釘と藁人形が握られていても単なる気のせいだと思いたい。そもそも、五寸釘なんてどこで手に入れたんだ。
「ねぇねぇ、冬治君っ、あたしは?」
「椎子? 椎子は……きゅうりとなすが家に無くなったら凄く頼りになる存在」
「うーん、微妙」
だって、両肩に精霊馬ひっつけてるやつに何を期待しろって言うんだよ。
「富木さんはどうだ? 俺の申し出、受けてくれるか?」
「えっと……わたし、男の子苦手だし」
「それでもいいよ。最初から近づいて話してくれなんて言わない」
「最終的にはひっついてお話しましょう? みたいな? ユウカちゃーん、刺していいよ」
「椎子はちょっと黙って……で、どう?」
「……夢川君がいいのなら、それでいいよ。でも、隙をついて昇天させるかも。それでも、いいの?」
「つまり、イカせる……いえ、何でもありません。黙っておきますですはい」
椎子を黙らせて俺はユウカを見た。
「ユウカ、いいか?」
「わたしは冬治君がいいなら別にいいよ? 友達が増えるわけだしさ」
「そっか、そりゃよかった」
富木さんとの距離はまだ遠い。それでも、ユウカに何かあった時に一番頼りになりそうなのは彼女である事に、違いは無い。




