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第三十一話:人参飲んで首括る

第三十一話

 光学迷彩を手に入れた。気になるあの子の家も特定した。風呂場までの経路もばっちり。風呂に入って居るであろう時間も特定済みと来た。

 さて、俺がこれからすることは自分の仮説を実証させる事……間山恵理奈は風呂に入っているときだけ頭もちゃんとあるはず、だ。

「何だかやっていることが変態さんの一歩手前な気がする」

 いいや、おそらく気のせいだ。

 俺は俺の信じる道を行くのである。目の前に立ちはだかるのが国家権力や法等、アウトローな俺には関係がない……そもそも、今の俺は死んでいる扱いの人間だしな。

 そういえば近所のアウトローを気取った小学校の先生が逮捕されたって言ってたっけ……何で捕まったんだろ? 捕まった時も目的は果たせたって満足だったそうな。

 由乃の家を出て三十分後、目的地である恵理奈の家にやってきた。

「確かここだ」

 さすがに家の中に入るのはまずいと思ったので風呂の窓側へと移動していく。警報も鳴らないし、近隣の家やこの家に犬がいないのは調査済みだ。

 鼻歌がお風呂の方から聞こえてきたので窓を少しずらして眼を窓に近づける。

 友達の風呂を覗く……そんな背徳感が半端ない中、出来るだけ余計な部分を見ないようにして頭を確認する。

「ふんふんふーん……ふふんふーん」

「やっぱりそうか……風呂の時は顔が出るんだな」

 身体を泡だらけにしてスポンジで遊んでいるのは恵理奈……だろうか。

「よーし、たくさん揉んでボインになっちゃうぞっ。目指せ、宇宙一の巨πっ」

「……こいつは椎子だな」

 ああ、こいつは別に俺の前だから変態じゃないのね。なんだかほっとしてしまう。

「え? 冬治君?」

 やっべ……こっちきた。

 しかし、焦ってはいけない。今の俺は光学迷彩により見えてないはずだ。

 窓から首だけ出して、俺の方を見ている。

「……んー?」

 目を細め、こっちを見てくる。

「んー……はっくしょんっ。うう、ちょっと寒くなっちゃった」

 そういって戻っていった。

 ふぅ、危なかった。

「恵理奈―っ」

 いきなり恵理奈の名前を呼んでちょっとだけびっくりする。

「何? お姉ちゃん」

 不機嫌そうな恵理奈の声が風呂場に響き渡る。

「一緒に入ろーっ」

「えー、何で? また変な所触る気でしょ」

 そしてさらに不機嫌そうな声になった。まだ入って居ないのは確認できたのでとりあえず、よしとしよう。

「……冬治君の秘密、教えちゃうぞ。この秘密を彼の耳元で囁くだけで好きなように操れます」

「すぐ行くー」

 姉妹揃って俺をどうにかしたいらしいな。そして数分後、恵理奈がやってきた。やっぱり、頭は黒子の面のままだ。

「えいっ」

「あ、ちょっと」

 恵理奈の黒子の面を外し、椎子は笑っていた。頭は……なかった。

「顔、洗わないといけないんでしょ」

「でも、触った感じしないもん」

「頭はちゃんとあるの。見えないだけ、触った感じがしないだけだよ……ほら、ね?」

「お姉ちゃん其処、胸だけど?」

「うっ……鼻血が」

 どうやら、血が出ているようだ……しかし、今の状況に比べればそんなもん、安い代償である。煙でよく見えないのが不幸……ではなく、幸せか。

 椎子が恵理奈に対して色々とやり始めて、風呂のせいもあってか恵理奈の息が荒くなってきた。

「はぁ……はぁ……」

 それを見つめる俺、いつ捕まってもおかしくありません。ついでに、鼻血も半端ないです。

「ねぇ、冬治君の事好き?」

「え?」

 突然の質問に恵理奈の荒い息がとまった。

「あたしは……好きだよ、冬治君。変だし、おかしいし、うーん、まぁまぁかっこいい?」

 全く褒められている気がしていない。かなりけなされているのは間違いない。

「恵理奈はどう?」

「え、えーと……好き、かも」

「それは気のせい。気の迷い。ほら、冬治君って女学園で唯一の男子生徒じゃん。だからそう思っているだけ。恵理奈は他を選べない……だからそう思ってるだけだね。街を出歩いてみなよ? もっとかっこよくて頼りになりそうでさ、頭のいい男の子なんて吐き捨てるほどいるって」

 酷い言われようである。明日見てろよ椎子の奴め。

 恵理奈がなんというのか俺はそちらへと視線を向けた。

「それでも……冬治君はわたしのことを友達って言ってくれるから。これまで男の子と何度か話す機会あったけれど一番楽しい。わたしのほうから告白なんて、出来ないけど……いつか、冬治君が告白してくれるといいかな」

 恵理奈……。

 何だか胸が締め付けられた。

「あーないない。冬治君はないねぇ。だって、家まで来て二人きりだったのに何もなかったじゃん。あの時の冬治君の目つき、見た? この家に来た理由は別にありますって顔に書かれてたよ?」

「で、でも、結構積極的に動いてくれてるよ? わたしの事を友達に聞いたりもしてるんだって」

「うーん、あたしもそれはよく聞くんだよね。恵理奈がどうしたってぶつぶつ言っているけれど、壊れている感じでもないし、ストーカーみたいだけれど、そういう感情で動いているわけじゃあない……多分、恵理奈の顔の事だよ」

 なんて鋭い奴なのだろう。そういうところを勉強でいかせればこいつは間違いなく、成長する。

「だから、冬治君だったら恵理奈を見る事が出来るかもしれない」

「え?」

 それまで散々俺をこき下ろしていた椎子がそんな事を言いだした。

「あたしたちの家系は自分を否定することによって相手から見えなくなる透明人間。見られたくない、自分に自信が持てないって思えば身を隠す事が出来る……恵理奈の場合は特殊だったんだろうね。よっぽど顔が気に食わなかった?」

 椎子が苦笑していた。何せ、椎子と恵理奈は一卵性の双子だ。

「……わたしは、お姉ちゃんとは違うけど、双子だから」

「そっか、比べられるんだ?」

「うん、お姉ちゃんやっぱり頭がいいね。そうだよ、お姉ちゃんの事、嫌いだよ」

 椎子は首をすくめている。

「お姉ちゃんは運動も出来て実は勉強も出来る……他だって何でもできるもん。わたしは何もできない。一生懸命勉強してもよくわからないし、運動も出来てるように見えるけど今一つ。そういうの、隠してるつもりでもお姉ちゃんはわかっちゃうんだよね? だからわたしを普通の人間に見せるため、変人気取っているんだもんね?」

 恵理奈がそう言った。始まりはそうだったのかもしれないが……今は違うと思うんだ。

「それについては伏せておくよ。えっと、それでね……」

 椎子は頷いて話を変えた。やっぱり、今は好きで変人やってるみたいだな。

「恵理奈の自己否定よりも、強く恵理奈を見たいと思う人がいれば……見えるはず」

「そうなの?」

「そうだよ。頭が無いと、キス出来ないよ?」

「……」

 恵理奈とキス、か。で、出来るのならやってみたいかな。

「ん?」

 あれ? 今、恵理奈の顔が出てきたような……。

「したくない?」

「し、したいけど」

「キスする前に顔、出さないとね」

「う、うん」

 恵理奈は照れた顔を縦に動かした。それをみて椎子は満足そうに頷くのであった。

「うぇっへっへっ、そしてその後は……今度は胸を大きくしなきゃあいけませんな」

「ちょっと、お姉ちゃんってばっ」

 これ以上ここにいる必要はないかな。

 恵理奈の顔を出す条件、それを椎子から聞く事が出来た。

「恵理奈の事を好きになれば……見れるのか?」

 友達としては好きなんだが、どうなんだろう、そこんところ。自問自答してもなんだかすごくやらしい映像しか頭の中には再生されなかった。


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