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第二十九話:目の保養

第二十九話

 最近、椎子と一緒にいる事が多くなった。

「冬治君おはよう」

「ああ、おはよう」

「お昼だよーっ。一緒に食べよう?」

「そうだな」

「さ、帰ろうよ」

「何処か行くか」

 こんな感じだ。あれ? 以前からこんな感じだったか?

 いやいや、それプラスで休日も結構遊ぶようになった。

 当然、俺の住んでいるところは由乃の家である為に呼べるわけもない。なので、椎子が連絡してきたら俺は椎子の家へ行っている。

 恵理奈が家にいることは稀で、いるときは外で遊んでいる。何かをして遊んでいると言うわけでもなく、本を読んだりごろごろするだけだが。

「あ、そうだ」

「何だ?」

 今日も今日とて休日なのに椎子の家でごろごろしていた。椎子の家族はおらず、休日も仕事に行っているそうだ。

「冬治君は野球好きかな?」

「うーん、特別好きってわけでもないなぁ。見るときは見るけど、大体次の日の朝のニュースで勝敗を見るぐらいだ」

「ま、充分だよ。ルールは知ってる?」

「知ってるよ」

「よし、じゃあ……」

 静かに椎子は立ち上がった。二人で野球は無理だろ。近所の子供に交じるのかと考えたけれど、さっきここらの会報をみたら『下品な事を口走る女性が頻繁に出没しています。お気をつけて』と書かれていた子どもと一緒に遊ばせないよう注意が載せてあった。多分、こいつだ。

「二人で野球するのか?」

「うん、野球拳をしよう」

「椎子……最近下ネタもめっきり減ったと思っていたんだが」

 その分、身体をひっ付けてくる事が多くなった。言葉でおちょくるのではなく身体でおちょくる第二段階に入ったのではないかと俺は危惧している。

「二人きりだから、いいじゃん」

「余計やばいだろ」

「辞めさせたければあたしに勝ってみせなさい」

 勝ったらこの場合、駄目じゃないのか? 負けても、何だかまずい気がする。

 まぁ、いいか。どうせ暇なんだし、適当に椎子をからかって遊ぶかな。

「よし、じゃあまず脱ぐね」

「はぁ? お前の方こそルール大丈夫か?」

 一枚脱いでも下着ではない。

「大丈夫だよ。私が勝ったら冬治君は二枚脱いでもらいます」

「なるほどな」

 そう言うルールか。

「えーっと、勝つ度一枚ずつ脱いでいくのと一気に脱いでいくのどっちがいい?」

「一度で脱ぎきってもらおうか」

「冬治君の考えは読めたよ。そうだよね、後一枚って所で負けたら目も当てられないから喜びは、いや、悦びは最後まで取っておきたいタイプなんだね?」

 馬鹿な奴だな。俺が勝ったら有耶無耶にして終わらせるためだよ。

 そしてそれから俺は信じられない事に五連勝した。

「うう……まさか一勝も出来ないまま負けるとは……でも、ま、いいよね」

 早速脱ごうとした椎子を俺は止めるのであった。

「脱がなくていい」

「着たままの方が萌える? それとも、上半身だけ残したり、下半身はお預けして上から楽しむの? はっ、靴下だけ脱がなくていいって事? 凄くマニアック!」

「どれも違う。ゲームとして楽しめたからそれでいいってことだよ」

 読みかけていた雑誌を拾って広げる。海水浴の情報がのっていた。何だか、椎子と行くことになりそうで……その時の事を想像して少しげんなりする。

 さすがに、浜辺で野球拳とかしないよな。

「えー? ご褒美ほしいでしょ?」

 俺の妄想は雑誌を取り上げた椎子の顔で打ち消された。そのまま顔を近づけてくる。

「いいよご褒美とか別にしなくて」

「遠慮しないで、ほら、キスしてあげる。んー」

 眼閉じて唇を突き出してくる椎子の頭にチョップをしてやった。

「あいたっ。普段より痛いっ」

「あたりまえだっ。何がゲームで勝ったからご褒美だ。こういう事でキスするとか言うなアホ。そう言うのはな……椎子が好きな人にしてやるもんだ」

 全く、こいつは自分がどれだけ危険な事をしているのかわかってないな。椎子は(黙っていれば欠点なく)可愛いのだ。そんな女の子がやれ服を脱ぐだ、キスをするだ言っちゃいけない。

 そろそろ限界だ。このままここにいると何だかまずい気がする。

「好きだからっ」

「えっ?」

「冬治君の事が滅茶苦茶好き、好きだからっ。他の人にとられたくないっ」

 椎子の唇が俺の口をふさいだ。眼を見開き、椎子を見るが彼女は眼をしっかりと閉じていた。

「ぷはっ」

「……ぁ」

 長い口づけの後、椎子は俺を押し倒したままの状態で見つめている。それを無理やり押し返せない自分がいた。これも椎子の悪ふざけではないか? いや、ここまではしないだろうと頭の中で葛藤中なのだ。

「椎子……お前、一体……」

「これ、見て。本当のあたしを、秘密を……受け止めてほしいんだ」

 そういって椎子は上半身を脱ぎ捨てた。ブラジャーが飛んで行くところがやけにスローに見えた。

「ばかっ、何脱いでんだよっ」

慌てて眼を逸らそうとしても椎子がそれを許さない。

「……」

 上半身を見て、俺は言葉を失った。俺の手を掴んでいる椎子の手は二の腕辺りで消えていて身体や顔があるはずの部分は天井や壁が見えていた。

「だから、脱ごうととしたんだ。告白、だけど……そういうものじゃなくて、あたしの体質、かな、それを冬治君に知ってもらおうと思って」

「ん?」

 しかし、よくよく見ると何だか椎子の姿が……。

「うっ……」

 慌てて鼻に手をやるがもう遅い。血が出ていた。

 椎子から慌てて離れてティッシュを鼻に詰め込む。

「あれ? もしかして見えてる?」

「……今すぐ上を着ろ」

「あ、大丈夫。今度は間違いなく、消えたから。自分で確認したよー」

 信じられずちらりと顔の方を見る。

 近年まれに見るドヤ顔があった。

「お馬鹿、消えてねぇよ」

「えー? じゃあ、胸がどこにあるか指差してみてよ。

「その前に手で前を隠せ」

「うん、隠したよ?」

「嘘をつけ」

「……本当に見えてるの?」

 ぽかんと口を開けた椎子に頷く。

「ああ」

 その数秒後、椎子の悲鳴が響き渡るのだった。

「ど、どうしよーっ。いきなり告白して唇奪って上半身裸になるなんて、痴女みたいだーっ」

「……普段の椎子の言動を聞かせてあげたいよ」

 一瞬だけみえたあれ……あ、胸じゃなくて見えなかった方だな。うん、こいつがもしかして由乃の探している存在……なんだろうか。


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