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第二十八話:匹夫の勇

第二十八話

 ユウカが俺にひっついて学園に来る事が非常に多くなった。俺を入れて写真を撮ると幽霊が写り、俺と話しているとき、ユウカがちょっかいを出す。お昼ごはんを俺が屋上に食べに行ったりするときはついてこないで、何かしているようだ。

「やめとけよ、ユウカ。ただでさえ富木さんから睨まれているんだ」

「ばれてないばれてない。だって、幽霊だもん」

 いや、それがばっちり見られているんですよ。

 富木さんは授業そっちのけで札を丸めてユウカに投げつけている。他の人が見ると俺に対して投げているように見えるわけだ。

「富木さん?」

「あ、すみません」

 そして先生から注意されたら気付いて俯くのである。

 これだけだったら富木さんが変な人なんじゃないかという噂が立って終わりのはずだ。しかし、富木さんは男が苦手だ。

 俺が何か富木さんに対してやらかして、自己表現が苦手な彼女は呪いの札を投げている。そんな噂が流れていた。

 面白い噂は逃さない変態が俺の隣にはいる。

「で、どうなの? おっぱい揉ませてーって迫ったとか?」

「あるわけねぇだろ」

「無いから揉めるわけないだろって? うっわ、失礼。確かに富木さんは一見すると発展してないように見えるけど実は……もしかして揉んで確認しようとするから揉ませてーって言ったのかも」

 一人で推理し始める傍迷惑な名探偵は放っておくことにしよう。

「揉ませてーって言ったのは本当じゃないの? わたし、聞いてたし」

「そりゃ、ユウカを助けるためだったろ」

 今度は脇から幽霊が出てきて俺に聞いてくる。

「揉めなくて残念?」

「いや、別に」

「胸揉みたくないの? この歳なら健全だよ。もしかして男が……」

「んなわけあるかよ」

 ここは教室である。たとえユウカが他の誰かに見えなくても(その割にはさっきからユウカが見えている気がするが……)俺の声は聞こえるわけで、あまり話をすべきではない。

「じゃ、揉んでいいよ。どうぞ」

「どうぞってな……」

「この前のお礼。ボインタッチぐらいならいいよ」

 ボインタッチねぇ……どこの胸が、ああ、そうか。ユウカの胸は結構、でかかったな。

「……」

 差し出される胸を前にして、俺はごくりと生唾を飲み込む。

 い、いいのだろうか? いやいや、本人はいいと言っているぞ。差し出してきたし。

 でも、教室だし……そうか、ユウカは幽霊だ。見えやしない。

「ん? 俺、触れないんじゃね」

「あ、大丈夫。多分触れるから」

「……そ、そうか」

 全ての障害が取っ払われた今、このラッキースケベを見逃す手は無い。破廉恥娘椎子、半露出狂由乃がいるのに、触る機会はないし、そういった展開になっても何かしら邪魔が入る。そもそも、女子学園にいるというのに彼女が出来るどころか一緒に遊びに行ける機会がない(誘われた時に限って由乃の奴がタイミングよく仕事を振ってきたりする)。本人だって触っていいとい言っている。一切の問題は無いはずだ。

「うーん」

「冬治君?」

 真剣に考えて悩んだ末、俺は首を振った。

「いいや」

「え、やっぱりホ…」

「違う。そもそもこの前は俺がユウカを危険にさらしたんだ。俺の方がお詫びしなきゃいけないんだしな」

「じゃあ、冬治君の胸を触ってもいいの?」

「それで満足するならいいぜ。ま、内容については今日帰るまでに決めといてくれよ。放課後、何か食べに行くのならついて行くし、欲しいものがあるならそれを贈るよ」

 そう言うと周りの女子たちが拍手しだした。

「え?」

「こんな彼氏、あたしも欲しいなー」

「ほんとほんと」

「凄いよねー。身体にも触らないし意外と紳士なんだ」

 クラスメートたちが俺とユウカの周りに集まってくる。

「えーと、見えてるのか?」

「冬治君にだって見えているんだから他の人にも見えているよ」

 そうか、俺は特別な目をしているわけでもないし他の幽霊が見えるわけでもないのだ。ユウカが姿を消したら富木さんぐらいしかユウカを見る事が出来ない。

「……マジかよ」

 ついでに思う事がある。やはり、罠だったか……触らなくてよかった。

「でもユウカちゃんってスタイルいいよねー」

「本当、これで落とせないなんて冬治君やっぱり女の子より男の子、なんじゃないの?」

「いい感じの弾力。幽霊にしちゃもったいないですな。ぐへへ」

「あ、ちょっと……触らないで―」

 椎子に胸を揉まれている。くそっ、なんて羨ましい……。

「しかし、さっき誰か俺の事を彼氏だとか言わなかったか?」

「え? ユウカちゃんの彼氏なんでしょ?」

「違うんだが……」

「がーん……」

 ユウカが効果音を口にして崩れ落ちた……ように見えてしっかり椎子に胸を掴まれている為、宙に浮いている。

「ちょっと冬治君っ。酷いんじゃないの?」

「え」

 そしてあっという間に俺の敵になるクラスメートたち。これが全員だから威圧感が凄い……扇状に囲まれている為、逃げ場がない。あるとしても、窓から飛び降りるぐらいか。

「あれだけ仲良くしているのに、ユウカちゃんの気持ちを考えた事無いのっ」

「ユウカの気持ちって……」

「冬治君に助けてもらった時は凄くうれしかったってここ最近話してるよ? 学園について行くようになったのも少しでも冬治君と一緒に居られる為にってさ」

「そ、そうなのか……」

「謝ってよっ。ユウカちゃんにっ」

「この愚図。冬治君の目は女子のおっぱい見る機能しかないの? その脳みそは妄想垂れ流すだけ? その口はいいわけ述べる為のもんじゃないよ。愛をささやく為にあるんだよっ。鈍感な男とか反吐が出る。あ、かといって自意識過剰野郎はお呼びじゃないから」

 椎子、お前遠慮なさすぎ。

 しかし、ユウカが俺の事をねぇ……。家じゃ全然そんなそぶり見せないし、一緒にいるだけだ。一緒に起きて、一緒に寝て……同じ部屋なのに変な空気に成った事なんて何もなかった。ただ、一緒にいる機会が多くなったのは事実だ。

 想いを伝えられたのなら後で答える、なんて言わないでここで答えるしかないな。

「ユウカ。お前途中で消えたりしないか?」

 俺は腐っていたユウカに声をかける。

「えっと……わからないけど、大丈夫。絶対、大丈夫」

 絶対なんて根拠のないくせに、瞳は真剣だ。

「そうか、それならいい。ユウカが俺の事を想ってくれているのなら、俺に一生、憑いてきてくれ」

 かんがえてみれば一緒に居て全然気兼ねしない存在なのだ。楽しい、かどうはかさておき、一緒に居て嬉しい。最近じゃユウカの事を目で追っている気がしないでもない。

「幽霊だけど、いいの?」

「ああ、俺は一向に構わない……ただ、まだお前の事をちゃんと好きなのか確証は持てないんだ。だから、俺と一緒に居てほしい。俺が自分の気持ちにもっと気付けたら改めてお前に告白する」

 周りの女子たちが歓声をあげる。

「よかったー」

「もし、ここでノーだよ。とか夢川君が言ってたら幽霊になってたよね」

「うん、ひん剥いて窓から捨てていたよ」

「サイズだけ計ってリリース……大自然に帰らせてた」

 いいものを見せてもらったと女子たちが満足していたその時だった。

「そんなの、駄目っ」

 教室の後ろ扉が開いて、富木さんが入ってきた。


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