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第二十七話:雨夜の月

第二十七話

 日本吸血鬼協会、通称、NKK……単なる日本に住む吸血鬼の互助組合だと思っていたが、そう言うところは光学迷彩なんて持っていないだろう。

「これで覗きが出来るな。よし、俺の仮説が正しいかどうかわかるってわけだ」

 現代科学の結晶である光学迷彩装置を装着し、電源を入れてみる。携帯電話のコード差し込み口にUSBアダプタを装着し、使用するらしい。

 これで本当に見えていないのかいまいちわからないのでユウカに聞いてみた。

「すっごーい、冬治君っ。透明だよっ」

「幽霊も驚くこの威力……いけるんじゃね」

 冷静に考えてみたら九時過ぎだと真っ暗だ。つまり、光学明細じゃなくても忍者みたいに黒い服装ならばれないんじゃね? それに、返しそびれている黒子の面もあるわけだし。

 まぁ、何だ。せっかく出てきた光学迷彩装置。使わなくちゃ勿体ないだろう。

 朱音さんと由乃に学園の調査をしてくると言って家を出た。由乃からは大量のお札を渡され、朱音さんからは夜食を作ってもらっている。ユウカからは犬笛を渡された。

「これを吹けば来るからっ」

「すげぇな、ユウカ。すぐに来るのか?」

「うん、犬がめっちゃくるよ」

 犬が来たらまずいだろう? だって、これからお風呂を覗きに行くんだぜ。

 そんなこんなで家を出る。

「……あれ? そういえば俺、恵理奈の家を知らないぞ」

 この日の覗きは失敗に終わるのだった。

 時間をつぶすために、学園へと向かう。他にも人外がいるかもしれないと思って学園の校庭まで行ってみた。そうしたら旧校舎に誰かが歩いて行く姿を見たりする。

 ははーん、さてはユウカが俺をおどかす気なのだろうと俺はコンビニに向かい、その後家に帰ったのだった。

 次の日の放課後、俺は恵理奈に家に遊びに行きたいと言う事を告げた。

「わたしの家ですか」

「ああ、どんな家かなって」

「ちょっと恥ずかしいですけど、いいですよ。来てください」

 よし、これで家がわからないなんて間抜けな事にはならないぞ。

「あの、そんなにわたしの家に行きたかったんですか?」

「え?」

 ついついガッツポーズしてしまっていた。慌ててごまかすように笑う。

「せっかく仲良くなれたのに家に行かないのは駄目だなーって思ってさ。恵理奈の部屋で遊ぼうかなと」

「あまり遊ぶための道具って持ってないですけど」

「いいんだよ。二人いれば色々できるだろ」

「夢川君って意外と積極的なんですね」

「まぁな」

 騙しているようで(実際に騙しているが)悪いが、これも恵理奈にとって必要な事なのだ。

 どういう時に顔があらわれ、見えなくなるのかはやはり実験してみなければわからない。恵理奈の事がNKKにばれて連れて行かれればアリスの手により強制的に色々されるだろう。そうなったら嫌だし、恵理奈がいなくなるのは何故だか寂しい。

 一緒に歩いていると恵理奈が立ち止まった。

「どうした?」

「……お姉ちゃんの気配がします」

「すげぇな」

 嘘だろうとは思わない。

「でもよ、ここら辺って隠れる場所ないぜ?」

 辺りを見渡すが電柱も地中に埋まってしまっているので壁に張り付いて布でも被らない限り姿を隠せそうになかった。

「下です」

「下?」

 下を見るが当然、いなかった。

「いたっ」

「え?」

 俺が下を向いている間に恵理奈が何かを投げたらしい。右斜め後ろから声が聞こえてきた。

 さっきまで何もなかったはずなのにそこには頭を押さえている椎子の姿があった。

「やっぱり……お姉ちゃん、どういう事? あんな事までして追いかけてくるなんて」

 あんな事ってどんな事だろう? さっきまでいなかったはずなんだが。

「いやーね、ほら、可愛い妹がイケメンと歩いているじゃん。しかも、息子が立派そうな御仁ときたもんだ。これは後をつけないわけにはいかないなーと」

 全く、こいつはまた性懲りもなく下ネタを……。

 やれやれ、恵理奈に怒られるぞとそちらを見ると恵理奈は黙っていた。

「っと、恵理奈? マジギレ?」

 椎子も意外な反応に首をかしげている。

「立派そう?」

「え、そらぁ、まぁ、そこんところどうなんでしょう、旦那。ぐへへへ」

「その悪意のこもった笑い方辞めろ」

「立派そう、か。それってお姉ちゃん確認した事無いって事だよね?」

 恵理奈の意外な返しに椎子は俺を見た。

「冬治君っ。これってどういう事?」

「え? 俺?」

「あたしより既に階段駆け昇ってますよみたいな?」

「たとえが良くわからんが……」

「冬治君の裏切りものーっ」

 嘘泣きをしながら近づいてきて、俺の胸を叩き始めた。こいつは将来、役者でも目指す気だろうか。

「答えてっ、答えてよ冬治君っ……意外と胸板、厚いんだ。すりすりしちゃお」

「駄目」

 椎子は引っ張られ、俺から引きはがされるのであった。

「ありがとう恵理奈」

「ううん、気にしないで。さ、いこっ」

 手を引かれ、俺は恵理奈に案内されて間山家へと招かれる。椎子には恵理奈が帰って来ないでと言っていた。それはそれで可哀想だった。

「ここが恵理奈の家か」

「うん」

「椎子の家でもあるわけだな」

「お姉ちゃんの事はきれいさっぱり忘れてよ。わたしと一緒にいるときはお姉ちゃんの話、しないで」

 余程、姉が嫌いと見える。

 一階の突きあたりにある部屋に案内されるとそこにはぬいぐるみが結構置かれていた。

「ぬいぐるみ好きなんだなぁ」

「この歳にもなって変かな?」

「いや、いいと思うよ。なぁ、抱いていいか?」

「え、ええっ……もう? い、いいですけど」

 そんな大胆なと言われて俺は首をかしげた。とりあえず近くのクマを抱きしめてみる。

「うぉっほ、これすっげー抱き心地だな」

「え……あ、お約束」

「ん?」

 さて、いつまでもクマをもふもふしている場合ではない。そろそろ動く必要がある。

「なぁ、トイレってどこだ?」

 迷ったふりしてお風呂場を探すのだ。

 これならもし、家の中で誰かと鉢合わせしても大丈夫である。

「トイレ? トイレはこっちです。ついてきてください」

「あ、一人で行けるから道を教えてもらえるか?」

「この部屋をでてすぐ左がトイレです。近くて便利ですよ」

 廊下を出てすぐ、青い男と赤い女が俺を待っていた。少し嫌な感じもするけれど、これはこれで便利だ。

「確かに、近くて便利だな。コンビニかよ……」

 仕方がなく、トイレに入って考える。

「どうしたもんか……ん?」

 洋式便座に腰掛けていたら外から何やら葉っぱがこすれる音が聞こえてくる。猫でも通っているのだろうか。

「うえへへへ……冬治君はどうやらトイレのようだね。このカメラで恥ずかしい写真を撮ってばらすと脅して下僕第一号に……」

「……」

 さっさと出るか。そう思った矢先、別の場所から葉の擦れる音が聞こえてくる。

「あれ? お姉ちゃんこんなところで何してるの?」

「え……っと、別に何も。近所の子どもと遊んでたらボールが飛んできちゃって。拾いに来たんだ。バットと、二つのボールを記念に写真に収めようかと」

 相変わらず変な奴である。

「ふーん? 回覧板で小児記事の所にちかよっちゃいけない人物としてお姉ちゃん書かれてたけど?」

 なるほど、既にこの近所では椎子の悪評が広まりすぎているらしいな。リアルに親からしっ、見ちゃ駄目って言われている子なのか。

「……あ、その」

「で、実際は何してるの?」

 勝ち誇ったような恵理奈の声に椎子は言い訳を考えているらしい。追い詰めたら何をしだすかわからない性格だから刺激しないほうがいいと思うが……。

「わたしのカメラにさ、お姉ちゃんがトイレの窓の前でカメラを設定しながらにやけているデータ入ってる。これ、学園にばらまいていい?」

「いいよー」

 その程度であたしが挫けるわけないだろうというニュアンスがありありと伝わってくる。さすが、羽津女学園の筆頭候補と言われる間山椎子である。なんであんなに変態に育っちまったんだ。

「うーん、やっぱり可哀想だから冬治君にだけ教えておくね」

「え」

「他の画像も……これとか、これ、あれとかね。これとかさ、絶対に男の子引いちゃうよ」

「と、冬治君は寛容な男の子だもん。この程度じゃあたしの友達、やめないね」

 お前は俺の事を買いかぶりすぎである。ついでに、どんな画像だろうと考えてしまう。しかし、これは逆にチャンスではないか? 見たところ他の家族は今のところいなさそうだし、二人は言い争っている。まだ続きそうだ。

「さすがにお姉ちゃんが○○○で○○○○してたら引くよ」

「だったら恵理奈が○○を○○○で……」

「……出よう」

 風呂を探すより、俺はこの家から出ていきたくなったのだった。ちなみに、ねこ耳でコスプレ、ねこをレンジで……という話をしていたはず。そう思うことにした。

 トイレから脱出した俺は一応、光学迷彩の装置を使って間山邸を静かに歩いている。

「……あった」

 リビングを通過した先に脱衣所を発見。そこそこ大きなお風呂を見つけた。

 場所を確認してすぐ俺は光学迷彩を切る。その場所で恵理奈の名前を呼んでみるのだった。

「おーい、恵理奈?」

「はい?」

 恵理奈の部屋の方から声が聞こえてきてようやく俺を見つけてくれた。

「あれ、冬治君こんなところで何しているんですか?」

「トイレから出てきたら部屋に恵理奈がいなかったんだよ。女の子の部屋に一人で待つのはいかがなものかってことで探してたんだ」

 これだけだったらうろつく方がおかしくないかと思われるだろう。というわけで、俺は必殺の言葉を恵理奈に向けた。

「一体、どこ行ってたんだ?」

 あれ、もしかして聞こえてなかったのかな。よかったーと呟かれた。

 全部聞こえてましたよ。

「何か言ったか?」

「あ、いえ、何も。さ、部屋に来てください」

 恵理奈の部屋に戻って俺は黒子の面を外すよう指示をした。

「まさか家の中でも被っているわけじゃ、無いんだろ?」

「……刺激が強いからってお父さんの前では被るよう言われています」

 なんて酷い父親達だっ……。

「あ、父は悪くないんです。父は頑張ってわたしに慣れようとしているんですけど、何度も卒倒しちゃって」

 なんてへたれな父親だっ……。

「そうなのか。ま、俺が何とかしてやるよ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ」

「駄目だったら責任とってくださいね?」

 少し仰々しい気もするけれど、それだけ彼女は俺に期待してくれているって事だろか。責任をとるってどうすりゃいいんだろう。パフェ奢れば許してくれるかな。

「とりあえずサインだけしてください」

「何のサインだ?」

 名前欄以外全て隠された怪しい書類にサインをさせられ、その後は話をして帰るのであった。

 今日の晩が勝負である。


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